31 海底へ(海溝の中)
やや短めです
■システィーナの視点
暗闇が支配する暗黒の海域で! 私たちの数メートル上を、手を伸ばせば届こうかというギリギリの距離をっ! 竜頭を二つ持つ大亀が飛び越えていった直後!
ドカンッッ!!
後から! 叩きつけるような濁流が、後から、私たちに襲いかかってきた!
「きゃああああっ!」
巨大なっ! 壁がっ! 水のっ! 壁がっ! 私たちは水馬ごと吹き飛ばされていた!
「きゃああああっ!」
鞍を握ることさえできないほどの水塊! 私は水馬から投げ出され、吹き飛ばされた!
「きゃああああっ!」「ふおああああっ!」
「シスッッ! ディーッッ!」
コックリィィ! ディートリッヒィィ!
天もっ! 地もっ! 左右も分からないっ!
「きゃああああっ!」
渦潮に巻き込まれたように! 竜巻に飛ばされるように! 私は! 海溝へ吹き飛ばされたっ!
「シィスッッ! ディーッッ!」
暗闇のどこかで! 遠くの方でコックリが叫ぶ! コックリイィィ! きりもみしていた私は、やがて回転の勢いが緩まり! 手足をばたつかせながら、なんとか体勢を立て直した! ああ、でも何の支えもない、足場も、手をかけるものも、何もない! 不安定な海中を、いや海底よりもさらに深い海溝を! 黒い奈落の淵へ向かって落ちている!
「シイィィスッッ! ディイィィッッ!」
「コックリイィィッッ! ディートリッヒィィ!」
「システィーナ! 龍っ!」
周りの暗闇の中から! 声が聞こえる! 皆、無事!? 私は光の精霊を呼び出して自分の位置を知らせる!
「待てっ! まだ早い!」
「え!?」
コックリの声がすると同時に、再び!
ゴボボボボボボボボボッッ!!
という音が聞こえてきた!
「消せっ! 光に寄ってくるぞ!」
「はっはい!」
「くそ、間に合わんっ! 『 聖輝光 』」
次の瞬間! 私の斜め上で、黄金色の光が輝く! コックリがいた! ああ、水馬から飛び降りて! コックリが目も眩むような黄金色の光に包まれたその時、コックリは手を前に突き出し黄金色の弾を何発も打ち出す! 涼やかな音と共に花開いた金色の花火の中を! 巨大な亀の化け物が飛び込んできた!
ゴボボボボボボボボボッッ!!
それはほんの一瞬…………瞬きするくらいの刹那の出来事だった! 私の目には…………私が生きた四百年の人生よりも長く感じた一瞬だった……! 生涯忘れられない、恐ろしい一瞬だった……!
ゆっくりだった……ここからは時が止まって見えるほど、ゆっくりだった……。
コックリの正面から鋭利な岩の塊が……尖った甲羅を持つ双頭の竜が、彼を目掛けて飛び込んでいく……二つの竜の頭は、コックリの聖輝光の魔法を受けて眩さに目がくらみ目を閉じていて……二つの顔はそれぞれ別々の方向に背けられていた。彼の右側の竜は顔を下げて、左の頭は顔を上にして、背けられていた……。
竜の大きさは鼻先から首の甲羅の付け根までは十メートル……鼻先から尻尾まで恐らく全長五十メートル超の大物だ。甲羅から僅かに覗く肌は、竜鱗の代わりに岩石のような堅そうな肌で覆われ……鼻先からはクリスタルのような鋭利な、鋭利な角が生えている。
その巨大な竜は、ちょうど左右の首の中間にコックリがくるように進んでいた。それは……衝突を……避けられない位置……。コックリはそれを悟ったのだろう……二つの竜の頭のうち、右側、首を下げた方の竜に対して、肩に担いでいた剣を降り下ろす。聖剣技の波斬の太刀だった……岩石に覆われたような竜の首に剣がめり込み斬り裂いていく……半ば以上を斬り裂いたけれども、それで竜の体が止まることはなく……飛び込んできた勢いをそのままにコックリへと突き進んで行き……。
コックリが……コックリが……!!
「コッッ!!」
ドゴンッッ!!
という聖剣技の音が先に響き……竜の首が吹き飛ぶ……。けれども彼も……彼の大きな体が……突撃してきた岩塊に……ああっ……亀の背甲と腹甲の連結部分、橋の部分に……ああっ……竜の頭が甲羅の中に収まる部分に……ああっ……!!
最初に……ガードした左腕に激突し……左の脇腹に岩塊が食い込み……ああっああっ……横向きに彼の体が……くの字に折れ……ああっ……嫌な形に……ああっ! ああっ!! ああっっ!!!
グシャッッ!
堅い岩と……ぶつかる音が……嫌あっっ! そのまま竜に……! 嫌ああっっ! 深海の奥へと……! 嫌あ、嫌あああっっ!
「ックリイィィッッ!! 嫌あぁぁあああッッ!!」
時が……時が……時が動き出した!




