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14 ファロースの海妖精

 ■システィーナの視点



 アラルフィから私たちを連れてきてくれた船員さんが、コックリの姿を見つけて駆け寄ってきた。ああぁ、結構古そうな桟橋だからそんなにドタドタ走ったら………わあ、桟橋がギシギシ嫌な音を立ててるよ!



「神殿騎士様、向こうに………向こうで人魚が倒れています!」

「倒れて………呼吸や意識はありますか!?」

「はい! 呼吸はしています! ですが呼び掛けていますが、反応はありません!」

「外傷はありますか?」

「パッと見はありません!」

「何人ですか?」

「一人です!」



 私たちの緊迫したやり取りに、集まった漁村の皆さんもまた、緊張したようすで口々に話す。「「人魚が倒れてる?」」「「ええ? そんなの村ができて以来初めて聞くぞ?」」



 慌てる漁村の人々をそのままにコックリが指示を出す。



「船員の方は案内してください。村長殿、場合によって人魚の看護が必要ですので、どこか部屋を一室ご提供いただきたい。また人魚は人に慣れていないようですので、極力 人目を避けるようにしてください」

「は、はい! お任せください、おい空いてる家があったな?」

「はい!」



 コックリと私は船員さんとともに人魚が倒れている現場へと向かった。意外に遠くて十五分ほど走った。そこは触ると痛そうな尖った岩がある砂浜で、複数の船員さんが倒れている人魚に声掛けしていた。コックリと私は、倒れている人魚を見て驚きの声をあげた。なぜかというと、その人魚は美しい妙齢の女性なのだけれど………鎧を身に纏っていたからだ。


 鎧は魚の鱗を模した『 スケイルアーマー 』で、美しい青色の鱗だ。鎧を身に纏っているということは戦か何かがあって、それで怪我をした………ということだろうか。でも外傷は無さそうだけれど………。手には三ツ又の槍、トライデントがしっかりと握られている。

 ああ、でもとっても美しいひとだ。濡れた金髪は海の波のようにウェーブして、肩ぐらいまでしかないのがもったいない。たぶん、戦闘のために切っているんだろう。整った顔立ちは気品が感じられて色も白くて………コックリが惹かれないか不安になる。耳は………魚のヒレ状で半透明なのね。



 コックリと私は彼女の横に膝をついた。コックリは慎重な手つきでどこか怪我をしていないか確認している。人魚は青白い顔で眉間にシワを寄せたまま、苦しそうな呼吸をしている………もしかして………毒にやられている?。



「ふむ………毒か霊傷だな。」



 霊傷………ああ、霊傷もあるか。霊傷とは、『 汚冥界 』に存在するアンデッドにつけられた傷のことだ。

 ひとは死ぬと、善行を積んだ魂は天国………浄化された魂の世界『 清冥界 』へ昇り、悪行を重ねた魂は地獄………汚れ(けが)れた魂の世界『 汚冥界 』へと堕ちる。清冥界は我々の生きる物質界の上層に重なり魂はオーヴとなって世界の平穏と安寧を、汚冥界は物質界の下層に重なり魂は腐った体アンデッドとなって世界に悪意と怨念を撒き散らし、存在している。

 そのアンデッドに攻撃されると、肉体に怪我はなくても霊や魂にダメージを負うことになる。腕に攻撃を加えられれば腕が動かなくなり、頭に攻撃を加えられれば意識を失うことになるだろう。魂や霊の回復は、肉体の回復よりは早いけれど、魂や霊が傷つけられると寿命が短くなるのだ。

 霊傷の可能性があるとすると………もしかして光る海から流れ着いた沈没船が影響して………。



「ふむ。霊傷だった場合…………もしや…………。」



 ああ、やっぱりコックリも同じ事を考えているようだ。アゴ髭に触りながら考えること数秒………。



「では、村長が用意してくれている部屋へと連れていき、処置をしたいと思います。皆さん、看護していただいてありがとうございます」



 コックリは人魚を軽々とお姫様抱っこした……ううぅ~仕方ない……よね。そのひとのこと……好きになったり……しないよね……。不安だよ……コックリは……ヴェネリアの後、私に何もしてこないし……大好きだって言ってくれたけど……不安になっちゃうよ……。



 私は不安になりながらトライデントを胸に抱いて、彼の後についた。



 ―――――――――――――――――――――



 村長さんが用意してくれたのは、来客用のコテージだった。来客用のコテージとはいっても、場所は島民の皆さんに家々と同じ列びにあるし、作りも同じだ。そのコテージの一室に簡素なベッドが置かれ、その上で海妖精が苦しそうにうめいている。室内にはコックリと私、村長さんとその娘さんがいて、さっき私と娘さんの二人で人魚の鎧を外し濡れた服を娘さんの服に着替えさせた。



「では、まずは毒消しの聖魔法を使います」



 コックリはそう言うと、横たわる海妖精の真上に手をかざした。すると次の瞬間、かざしたコックリの手と海妖精が黄金色に輝いた。



「「おお!」」



 驚きの声を上げる村長さんと娘さん。それはそうか、ほとんどのひとは、聖魔法に触れる機会がない。聖魔法を使える聖職者は数が多くない上、ほとんど大きな街の大聖堂にいる。この漁村の皆さんのような一般のひとたちは、怪我や病気になっても自力で治すことが多い。



「もしもし………聞こえますか?」



 コックリは人魚の耳元で呼び掛けた。肩を軽く叩くけれど………反応はないし、苦しそうな表情に変わりがない。とすると霊傷の方かも………コックリは再び彼女の上に手をかざすと、今度は霊傷を癒す聖魔法を使った。再び黄金色の光が人魚の体を輝かせる。

 光が彼女の体に吸い込まれると、彼女の顔に安らぎの表情が現れていた。おお、当たりだ………。



「もしもし………聞こえますか?」



 再びコックリは耳元で呼び掛けた。すると、人魚の目がうっすらと開いた。ああ、ここの海のような美しい青色の瞳だ。その青色の瞳はしばし天井の一点を見つめていたけれど、ゆっくりと周囲の状況を確認するように動く。たぶん、彼女が最後に見た光景は亡者との戦闘シーンのはずで、目覚めたら茅葺きの屋根の天井だから混乱しているのではないかしら………。

 そして青色の瞳が私たちをとらえたその瞬間………。



 彼女は弾かれたようにベッドから飛び起き、部屋の隅で身構えた!



「〈ここはどこだっ! お前らは何者だ!〉」



 海妖精は精霊語で威嚇するように叫んだ。それはそうか………戦闘中に意識を失ったとしたら、その直後に目覚めたら警戒するはず。私が精霊語で答えようとした時。



「〈ここは貴女方人魚族が月一度 取引をしている村の家です。私は神殿騎士コークリットと申します〉」



 と、コックリが精霊語で返答した。この人………本当に何でもできるな………。なぜこんなに何でもできるのに………私を抱くことはできないんだろう。



「〈仲間はどこだっ! 私に何をしたっ! 人間は嫌いだっ! 特にお前はっ!〉」



 コックリを睨み付けながらそう言い放ったので、私はムカッときた!



「〈ひどいことを言わないで! 倒れている貴女をここまで運んで、魔法で助けたのは彼よ? それを知らなかったとはいえ、そんな言葉を初対面の者に言うなんて、海妖精とはそんなに無礼な者なの?〉」

「〈何だと!?〉」



 村長さんと娘さんは、言葉は通じていないようだけれど、険悪なムードは分かるようでハラハラ、オロオロしている。私はストールを外して長い耳を露にすると、人魚も村長さんたちもビックリした目で私を見つめた。すると…………。



「…………森妖精か。神殿騎士とやら、非礼を詫びよう」



 人魚が人間語を話し頭を下げた。どうやら同じ妖精族だから、少しだけ安心して冷静になったようだ。よし、思った通りだ。



「構いませんよ。かくいう彼女も、初対面で私をオーガーと間違えましたし」

「オーガー!?」



 コックリイィッ! わざわざそんなこと言わなくたって良いでしょうがあぁー! 私はポカポカとコックリを叩いた! コックリは嬉しそうに私に叩かれている。もうっ! もうっ! もうっ! その様子に、人魚が声をあげて笑いだした。



「はははは、オーガー………オーガーかっ! どちらが無礼なのか。私はオーガーには見えなかったぞ? はははは!」



 ああぁ、もうっ! ああもうっ! 笑われちゃったじゃない! もうっ! コックリのバカッ! バカッ! バカッ! でも嫌いになれない! 私のバカッ!



「私の名は、ディートリッヒ。助けてくれたとのこと、礼を言う。ありがとう」



 ディートリッヒと名乗った人魚は、村長さんたちにも礼を述べた。彼女は声が凛々しく、簡潔に話すことから、もしかしたら人魚の国の兵士か何かかもしれない。そう思ってみると、表情も、眼差しも、彼女から発せられる雰囲気も、すべてが凛々しくてなんだかカッコいい感じがする。好悪を出してもすぐに反省し謝罪を述べられることから、論理的思考を優先しているのかも? 人魚姫のイメージがあるから可愛らしい可憐なイメージがあったけれど、この人は違うのかも………。



「すまないが………そちらのエルフと二人にして貰えないだろうか?」



 私はコックリを見ると、コックリはうなずいた。どうやら彼女の言う通りにするようだ。でも同時に、同じ妖精族の私なら人間、ひいてはコックリへの不信を軽減できると思ったようで、目で合図を送ってきた。うん、任せて!



「では後程、お願いします」



 コックリと村長さんたちは、私たち二人を置いて部屋から出ていった。その様子を見た彼女はその場に膝をつくと大きくため息をついた。どうやらまだ回復したてで本調子ではないようだ。



「私はシスティーナ。いったい何があったの?」

「それは………こちらが聞きたい。私はどこに倒れていたのだ? 仲間はいなかったか?」

「貴女は、人魚と唯一取引をしている人間の漁村の浜辺で倒れていたの。他の人魚はそばにはいなかったわ」

「そうか………そうか。こんなところまで流されたということか」



 なるほど、彼女はどこか結構遠い場所で仲間とともに戦っていて、亡者の攻撃を受けて気絶し、流されて来たようね。



「貴女は………いえ、貴女たち海妖精は亡者と戦っていたのね?」

「!? なぜそれを!? 見ていたのか!?」

「まさか。貴女の状況から推理してみたの」



 私はコックリの考えや彼の聖魔法のこと、さらに神殿騎士とは何かを交えながら、彼女に説明した。



「なるほど。神殿騎士のことは少しだけ知っていたが、あの人間も優秀なのだな」



 神殿騎士を知ってた? なんだ………ん? あの人間も………? あの人間………『も』? ああ、たぶん別の神殿騎士も優秀だったと言ってるのよね。まあ、優秀なひとしかなれないみたいだけれど……。

 普段のコックリを見てると彼が優秀に見えないときがあるのよね……不思議。



「システィーナとやら。貴女の仲間の森妖精は、他に何人いるだろうか? 森妖精の戦士に力を貸して貰いたい!」



 ええ? ここまで神殿騎士のことを話したのに、彼ではなく森妖精の戦士に力を借りたい? これは………森妖精の戦士はいないと言ったら、何も情報を引き出せないかも………?



「どういうことなの?」

「実は………実は、私たち海妖精の島に………!」

「海妖精の島に?」

「突然亡者の船団と亡者となった海の魔物が襲いかかって来たんだ!」



 亡者の………船団! 亡者化した魔物!



 これも光る海が関わっているのかしら?




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