表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/46

13 ファロース諸島

 

 ■システィーナの視点



 ~♪~♪

 私は気を紛らわすかのように鼻歌を口ずさみながら、包丁でジャガイモの皮をむく。



 ~♪~♪

 ジャガイモの皮をむいていると大地の良い香りがして………少し気分が紛れてくる。でもこの厨房は波で揺れ動くから、ちょっと包丁を使う際には注意が必要よね。ああでも、久しぶりの料理に心が満たされてくる。三十人前くらいだから、あまり凝った料理はできないけれど栄養満点なメニューを作ってみよう。



 私は今、中型のガレー船の厨房で昼ごはんの準備をしている。なぜガレー船に乗っているか……というと人魚族と取引をしているというファロース諸島の、とある漁村に向かうためだ。風が順調なら四~五時間くらいで到着するらしく、手持無沙汰な私は船長さんにお願いして料理を作らせてもらっているのだ。何かしていないと、コックリのことや人魚姫のことを思い出してしまって………悲しくなって、切なくなってしまうから………。



 普段は船員が当番制で作っているということで、基本的には味より量の豪快な男料理だから女性が作る食事が楽しみだと船長さんは話していた。まあ、短時間だしそんなに期待しないでもらおう。ただ量だけは備えておかないと。ああ これだけの量は、エルフの里に住んでいたときの秋の収穫祭以来だなあ。でもあの時は百人前くらいだったけれど、その時と同じかそれ以上の量を作っているわ。少食のエルフなら百人前くらいでも男らしい船乗りさんたちだから、これくらいは食べちゃうわよね。



 窓から外を見ると………わあ~青い空と白い雲が本当にきれい。逆側の窓を見れば、遠くの方に雄大な岸壁を持つ陸地が見えて、ああ~海の上にいるんだなぁと感慨深くさせる………。

 本当、一年前までは巨大樹の生い茂る奥深い森で、何も変わらず、何も考えず、自然のままに生きていたのよね。たった一年前なのに………私の生きてきた四百年の時間よりも濃密で………生きている………そういう実感が湧いてくる。



 これが生きる喜び………なのかな………。

 もちろん、つらいことも、苦しいことも、悲しいこともたくさんあるけれども………。



 生きていないと、味わえないモノ………なんだろうな。



 そして、今もコックリのこと以外で嬉しいことと悲しいことが半々に押し寄せている。



 それは、船員さんたちが美味しい、美味しいと言って私の料理を食べてくれたんだけれど、念のため夕飯の分として作っておいた料理も食べられてしまい………まあ、嬉しい方が勝っているけれど。結局残りの時間までバシバシ料理を作っておいたから私も大満足で、悲しいことも、さびしいことも、切ないことも、このひと時は忘れさせてくれた。



 そして太陽が頂点から少し傾いたころ、甲板から大きな声が響いた。



「ファロース諸島が見えたぞおぉぉぉ!」



 ピカピカの甲板に出ると、遠くに入道雲がある青空と瑠璃色の海が広がり、その水平線の先に緑に包まれたお椀型の島々が見えてきた。そしてどうやら遠浅の海なのね………島を縁取るように白い砂浜がまぶしく光っていて、海の色も島の形に合わせてちょっと明るいもの。ああ本当にお椀型でなんだか可愛らしい。でも遠くの方には大きな島々も見えて………その島々は崖が高くてとっても山が高くて、緑も深くて………これは確かに、海妖精がどの島に住んでいるのか、わからないわ。



「神殿騎士様。ここの海は遠浅ですから、ボートに乗り換えないといけないんで、十人乗りのボートの方に乗っていただけますか?」

「ええ、分かりました。ありがとうございます。」



 私たちは、頭にバンドを巻いた副船長さんと数人の船乗りさんたちとともに、とある島へと向かった。遠くから見てもわかるのだけれど、その島だけ桟橋があって遠浅の海には高床式の家々が並んでいるのが見える。わあ~南国の島々の家ってこんな感じなのね………茅葺?の屋根が可愛い!



 小さなボートは八人の船乗りさんが乗り込んで舟を漕いでくれている。ああ小さなボートだから手を伸ばせば瑠璃色の海が触れて………気持ちいい! 透明度の高い海の底は岩場になっていて、ああ あれがコックリの言っていた海の森 サンゴ礁っていうものなのね。本当、森のように多くの生き物を育んでいる! ああ、美味しそうなウニがゴロゴロしているし、カラフルななめくじみたいなのもいる! おお~ボートの影が海底に映りこんで魚たちがびっくりしているみたい。綺麗だねコックリ。隣に座っているコックリを見ると優しいまなざしで瑠璃色の海を眺めている。とても優しい………でも、すこしさびしそうなまなざし………。

 コックリ………思い出させないで…………。



「おおぉ~い! そこのひと~!」



 頭にバンドを巻いた副船長さんが、桟橋にいる小麦色の肌をした島民さんに声をかける。島民さんは半袖半ズボンで年のころは十代後半くらいかしら? たぶん昼が終わってのんびりしていたんだと思う。島民さんは一瞬警戒したのだけれど、白い歯を見せて手を振った。ああ、もしかしたら一瞬海賊か何かかと思ったのかしら………でも遠目に私と目があったので、女性が乗っているボートが海賊船じゃないとホッとしたんじゃないかしら。ボートは島民の待つ桟橋に着岸した。



「こんちは。我々はアラルフィの船乗りで、実は神殿騎士様をお連れしたんだが………ここは人魚と取引のある漁村で間違いないかな?」

「え!? 神殿騎士様!?」



 人懐っこそうな島民は、大きく目をむくと鎧にサーコートをまとったコックリを発見し、びっくりしたようだ。そしてその横にいる私を見て………口をホーッと開けて固まった。



「こんにちは。神殿騎士のコークリットと申します。こちらは私のパートナーのシスティーナです。」



 コックリが挨拶すると、やっと我に返った島民さんがガクガクしながら挨拶を返した。ああ、純朴そうな島民さんだなぁ。コックリを含めてガチッとムチッとした人ばかりだから、小枝のようなこの島民さんはなんだか落ち着くなぁ。



「ある怪異の捜査で、人魚族に協力をお願いしたいのです。あなた方が人魚族と親交を持っているという噂を耳にして伺ったのですが………村長かどなたか、人魚と親交のある方と話をさせていただきたいのです。」

「は、はい! そ、それでしたら村長が一番かと………! こ、こちらです!」



 純朴そうなそのひとは、緊張した面持ちで私たちを案内した。ちなみに副船長さんたちは、それぞれ思い思いの場所で休むことにしたようだ。船の上だと休めないようで、服を着たまま海に飛び込んでる!



 案内してくれる島民さんが別の桟橋を指差す。そこには桟橋の左右に二十軒ほど茅葺き屋根が並んでいて…………ああ、そこかしこから魚介類を焼いた香ばしい良い香りがする。やはり漁村だから食事は魚介類よね。村長さんの家は一際大きな作りの家で、おお~茅葺屋根の上には魚か何かの木彫りの像が乗っかっている。



「村長! おられますか? 神殿騎士様がお見えになりました!」



 村長宅、というかこの村の家々は、窓は木戸や鎧戸でガラスがはまってなく、全開の窓から中を覗けば部屋の中が丸見えになる。うう~ん、すごいこの解放感………プライバシーとかなさそう! 見ちゃいけないと思いつつも全開の窓から中を見てみると、上半身裸でゴザの上に寝転んでいた太ったおじいさんが、びっくりして飛び起きたところだった。わあ、全身小麦色だ。



「ななな、何? 神殿騎士様じゃと!?」



 太った村長さんは、慌ててベストを羽織るけれど、あれ、それ表裏逆じゃないかしら。村長さんはドタドタと玄関のところまで走ってやってきて、鎧姿のコックリを見て目を丸くした。



「し、神殿騎士様………ですか?」

「はい。初めまして、神殿騎士のコークリットと申します。」

「おお、なんと凛々しい………ささ、汚いところではございますが、こちらへどうぞ。」



 と言って、私たちを中へと案内してくれた。ちなみに村長さんも私に気が付いたとき、目を丸くして見惚れていたのは、いつも通りの展開だ。



 部屋の中には大きなテーブルがあって、ああたぶんここで島の有力者が集まって会議とかするんだろうな。天井を見れば、茅葺屋根がそのまま見えて、なんだか癒される。



「して、神殿騎士様。いったい、この島へは何の御用で来島されたのでしょうか?」

「はい。実はアラルフィの町で、ある怪異が起こりまして………その怪異解決のために、人魚の協力が得られないかと考え、来島いたしました。」

「な、なんとアラルフィの町で………。」

「はい。こちらの島では、人魚と取引があるとお聞きしたのですが………。」

「はい、ございます。ただ………。」

「ただ?」

「人魚は月に一度だけこの島を訪れるんですが、その取引の日はつい先週終わったばかりでして………。」

「ああ、なんと………ではあと三週間は待たないといけないんですね。」

「ええ、残念ながら………。」

「連絡を取る方法はございませんか?」

「ええ、特には………。」



 ああ、何と言うことだろう。ということは、私たちがやれることは三つ。一つはこの地で三週間待つ、一つはアラルフィで三週間待つ、一つは人魚に知恵を聞かずサルベージを行う………だ。

 どうしよう、コックリ。



 と、その時だった。遠くからコックリを探す焦った声が聞こえてきた。



「「神殿騎士殿〜! 神殿騎士殿〜!」」



 コックリと私は顔を見合わせ、村長にいったん失礼しますと中座の非礼を詫びると、外へ出た。コックリを呼ぶ声の主は、白い砂浜を走り回る複数の船乗りたちだった。神殿騎士、の声に反応し二十軒ほどある家々から、島民がワラワラと出てきた。おお〜老若男女、皆小麦色だ。島民さんたちがコックリの姿を見つけて、皆がキラキラとした目で見つめる。



「ここです! いかがしました!?」

「おお、神殿騎士殿!」



 コックリの姿を認めた船乗りたちは、慌ててコックリに駆け寄ってきた。わあっすごい慌てようだ。村長さんも何事かと外へ出てきた。



「神殿騎士殿、大変です!」

「どうしたのですか?」

「あ、あっちに!」

「あっちに?」



「あっちに………人魚が倒れています!」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ