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雪華遼遠  作者: Shellie May
18/18

軽井沢から戻った私は、そのまま先輩の家に迎えられた。

私の姿を見るなり、院長先生は、

「お帰り、操さん…。」

と言って抱き締めて下さった。

「院長先生…。」

私がそう言うと、

「もう、お義父さんと呼んで貰えるのだろう?」

と、先輩に聞く。

「あぁ。」

先輩が、誇らしげに答えた。

それが何を意味するのか理解した私は、耳迄赤くなって顔を覆った。

「呼んでくれるね、操さん…?」

「…お義父様…。」

息が詰まる程抱き締められて、

「君には、何とお礼と謝罪をしなければならないんだろう…苦労を掛けたね。私が、あんな事を頼んだばかりに…。」

私は、お義父様の胸の中で被りを振った。

「幸せにおなり…君には、その権利がある。鷹栖の家が、君を幸せにすると信じているよ。」

「…ありがとうございます。」

「おぃ、親父!何先にプロポーズしてんだよ!俺だって、まだしてないんだぞ!」

「何だ、まだしてないのか?お前は、肝心な所で、詰めが甘い…。」

お義父様と先輩が言い合ってる中、私は先生と向き合った。

「先生…。」

「あれ?違う言い方有るんじゃない?」

「お義兄様…。本当に、ありがとうございます。」

ふわりと抱き締めて、額にキスをすると、

「綺麗になったね…満ち足りて輝いているよ。こんなにいい女になるなら、僕が先に唾つけとけば良かったな。」

と笑って言い、身を離すと真剣な顔で、

「僕は、君の義兄であると同時に、一生君の主治医である事を忘れないで。僕には、何でも話すんだよ。わかったね?」

「はい。」

「良い子だ…。」

そう言って、また額にキスをする。

「だから、何で何度もキスしてんだよ!」

私を引き離すと、先輩はお義兄様に食って掛かる。

「まだまだ青いな、小次郎。操ちゃんの額は、義兄である僕の物だ!」

「っ、なんだと!?」

「先輩、もうやめて!…恥ずかしい…。」

「だから…。」

今度は、先輩が向き直る。

「先輩じゃ無いと言ったろう。」

「もう、勘弁して下さい。今の私は、一杯一杯です…。」

すると、先輩は耳元で

「…後で、お仕置きだ…。」

と、囁く。

先輩…まだ、Sなんですね…。

「で、小次郎。結婚式は、いつ頃にするんだ?」

「もう、決めてるんだ…。」

「何時だい?」

「…クリスマス。」

「えっ?そんなに早く!?」

私の驚きを差し置いて、

「それは、良い!しかし、式場は、取れるかな?」

「大丈夫…予約してある。」

「えっ?何で?」

「…毎年予約してた。」

「!!」

「そりゃあ、いい!」

「じゃあ、早速準備に取り掛かろう!後、2ヶ月無いぞ!」



それからは、あっという間の事だった。

式は鷹栖の氏神様で行われた。茄子紺の直衣姿の先輩は、今日はゆったりと髪を結い、2本の組み紐を肩の下で結んである。

溜め息の出る程よく似合う。

光源氏って、こんな感じ?

私は、さしずめ末摘花かしら…。

見とれていると、目が合ってフワリと笑う。

「どうした?」

「良くお似合いだと思って…。」

「…惚れ直した?」

「えぇ。」

「今日は、素直だな。お前も、綺麗だ…良く似合う。」

赤濃紫色の打衣姿の私は、髪をおすべらかしにして、下の方で薄桜色の組み紐で結わえてある。

「これを着せたかったんだ…。」

「だから、長い髪?」

「そうだな…もう少し長くても良かったが…。」

「でも…黒ければ良かったのに…。」

「俺は、漆黒の髪も好きだったが、この銀髪も気に入ってるんだがな…。」

「本当に?」

「あぁ。」

「先輩が気に入ってるなら、いいわ…。」

「ホラ、また…。」

「言いづらいんだもの…他の言い方じゃ駄目?」

「どんな?」

「…貴方…とか…。」

「ん…。」

そっと顔を近付けると、

「2人きりの時に、名前で呼んでくれるなら…。」

そう言って微笑んだ。

「これはまた、美しい!」

神主さんとお義父様が入って来た。

「小次郎さんの美しさもさることながら、花嫁の美しさは、何とも…かぐや姫の如くですな!」

「そうでしょう!ウチの嫁は、世界一です。」

そう言って2人は笑う。

「私…?」

「だから、綺麗だと言ってるだろう?自覚が無いってのもなぁ…。」

先輩は、溜め息をつく。

私は、俯いて赤面してしまった。

容姿を褒められた事なんて無いもの…。

「自信を持て…そうすれば、もっと美しくなる。」

顔が、上げられない。

「まぁ、お前はそれはそれで可愛いんだがな…。」

「…もう、やめて…。」

「綺麗だよ、奥さん。」



私の親族は居ないから、鷹栖の親族と関係者、それに友人を招いての300人を超える大きな披露宴。

式直前、控え室に居る私達を、珠ちゃんと大和先輩が尋ねてくれた。

「お美しいですわ、お二人共!」

「そう?恥ずかしくて…。」

シンプルで品のあるウエディングドレスは、後ろにダーツをたっぷりと取ったクラシカルなデザイン。

「小次郎様のお見立てでしょう?」

「そうなの。わかる?」

「操ちゃんの似合う物が、わかっていらっしゃる。流石ですわね。」

「もう、全てお任せなのよ。」

「やりたいんですのよ。ねぇ、小次郎様。」

「まぁな。」

「お前が、こんなマメな奴だったとはな…。」

大和先輩が、冷やかす。

「あら、操ちゃんとの結婚式だからですわよ。聞きましたわ、10年間ずっと式場予約していたんですってね?」

「…。」

「お前、そんなキャラだったか?」

「うるせぇ。」

「控え室も一緒なんて、本当に片時も離したく無いんですわね。」

「寮官さん、コイツがうっとおしくなったら、何時でも言えよ。」

私は、笑いながら頷いた。

2人が出て行った後、静かな時が流れる。

「予約って…。」

「式場のか?」

「えぇ。どうして、毎年クリスマスだったんですか?」

先輩は、私の手を取り、

「…あの日から…やり直したかったんだ…。」

やはりそうだったんだ。

私が自分を抹殺しようとしたあの日…。

私は、彼の頭を抱き寄せると、

「11年間、淋しいクリスマスを送らせてしまいましたね。今年からは、楽しいクリスマスにしましょうね、小次郎…。」

「あぁ…。」

私の腹に頭を擦り寄せながら、彼は言った。

「さぁ奥さん。俺達の晴れ舞台に行こうか。」

「えぇ。貴方…。」

腕を組み部屋を出ようとする。

「あ…。」

「どうした?」


「見て、雪…。」

「…あの日も、降ってたな…。」

窓辺に近付くと、一面真っ白に雪が降り積もっていた。

「新しい雪が、淋しい思い出を全て覆い隠してくれるわ…。」

「新雪の上を、俺達は行くんだな。」

「そう…新雪が、ヴァージンロードになるの…。」

彼の顔が近付く。

「愛してる、ミサオ…。」

「小次郎…。」

私達は、新しい道を歩き始める。


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