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フラグが見える悪役令嬢は溺愛から逃げられない  作者: 陽炎氷柱
第一本・フラグが見える悪役令嬢

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7/7

07.レオンハルトとの出会い

「はじめまして、リリアーナ嬢。ご存じかもしれませんが、俺はレオンハルト・トラクテンバーグです」


 ゲーム本編のレオンハルトより幼さが目立つものの、微笑みは何度も見たスチルのもの変わらない。

 しかし幼気な少年であるレオンハルトの頭上には、数えきれないほどのフラグが群生していた。



(過労フラグ、重圧フラグに……何かの恋愛関係のフラグかしら?初めて見るフラグもたくさんあるわ)



 フラグというのは、意外と簡単に経つものだ。

 例えば父はよく仕事にプレッシャーを感じているので、王様と会う日はいつも重圧フラグを生やしていた。そんな父の補佐官は色んな雑務に追われており、いつも疲労フラグを生やしている。七徹した日には過労フラグを十数本ほど育てていたので、おそらく『感情』を強く抱く度にフラグが立つ仕様なのだろう。


 その一方で、恋愛フラグや友達フラグといった人間関係のフラグは相手一人につき一本しか生えない。

 つまり、レオンハルトはこの年齢にして少なくとも二桁を越える令嬢に恋い慕われているということである。


 閑話休題(話が逸れたが)


 ありとあらゆるフラグを取り扱っているレオンハルトの頭上は色とりどりのフラグに覆われており、もはやはちみつ色の髪の半分が見えない。首都圏より人気な土地である。一体神様はこの少年になんの恨みがあるというのか。


 もはや壮観とすら言えるフラグの量に、私はまじまじとレオンハルトを見てしまった。

 おざなりな返事しか返さないくせに、じっと見つめてくる私に困ったのか。レオンハルトはぽんっと不快と困惑が書かれたフラグを立たせた。……まだ生えてくる余地があるんだ。



「先ほどから俺を見ているようですが、何か気になることでも?」



 私なんでもありませんと答えようとして、やめた。

 物々しいフラグをつけている目の前の少年が可哀想になったからだ。立場上仕方ないかもしれないが、要職についている(公爵)すら一本で済んでいるようなフラグを、この年齢で多頭飼いしている辛さは想像もできない。



(ゲームでのレオンハルトは『理想の王子様』を演じていた普通の青年、っていうキャラだっけ)



 色んな才能に恵まれたせいで、レオンハルトは幼いころから未来の王として期待されていた。

 失敗は許されず、感情を表に出すことすら弱さとして扱われる環境に身を置き、勉強と仕事に追われる日々。困ったことに、レオンハルト自身も普通じゃ考えられない量のタスクを笑顔で乗り切れるだけの才能が備わっていたため、心中はどうであれ期待に応えられてしまうのも問題だった。


 だけど彼の感性や性格は極めて普通な善良な青年だったため、そのギャップに苦しんでいた……という悩みを抱えていたはず。



(キャラクターの設定としては好きだったけど、いざ苦しんでいる子どもの姿を目にするのは苦しいわね……私も、過労で死んだようなものだし)



 やはり労働はくそ。頑張りすぎると本当に倒れるし、過労死は日本人として存在するとはっきり断言する。

 レオンハルトはメイン攻略対象だ。このまま無視してもいつかはヒロインと幸せになるだろうが……彼が選ばれなかったときの悲惨な結末が脳裏をよぎる。

 それに未来で幸せになれるのだとして、幼少期の不幸はなかった事にならない。一度過労死した身として、見なかった振りをするのは良心が痛む。



(ここで好感度を稼いでおいたら、私の断罪もなくなったりしないかしら)



 悪役令嬢リリアーナ・ヘルナンデスはどんなエンディングだろうが断罪されてしまうが、メイン攻略対象であるレオンハルトが関わっている場合が多い。

 もし彼と友人くらいの関係性を維持できれば、回避できず断罪されたとしても処置が甘くなるのでは。 



「いえ、殿下が少々疲れているように見えまして。私の気のせいであればよいのですが、無理をなさっていませんか?たまには全部放り捨てて休んでもいいと思いますよ?」



 ――わずか数秒の熟考。

 四割良心と六割下心によって、私はレオンハルトの頭に手を伸ばした。

 頭を撫でるふりをして、やばそうなフラグを少し折っていく。因縁深そうなフラグはすぐに折れないのだ。


 パキッ、パキパキパキパキッ


 おそらく私にしか聞こえない音を聞き流しながら、丁寧に五往復ほど繰り返す。



「私はお父様やお母様に撫でられると気持ちが楽になるので、殿下にもやってあげます」

「り、リリー!?殿下になんて失礼なことを……!」

「あらまあ、子ども同士ですから、構わなくってよ。リリアーナ嬢も良かれと思ってのことですし」



 場がしらけたところで、純粋な子どもの振りをして手を引っ込める。

 我に返った母が焦せるも、王妃は気にしていない様子だ。それにほっとしつつ、そっとレオンハルトの顔色を伺う。



「――――――。」



 湖面のような瞳をまん丸にして、固まっていた。

 何が起きたか分かっていないというようなレオンハルトを前に、少しずつ焦りが芽生える。

 フラグの多さについ声をかけてしまったが、年下の小娘に「無理している」と言われても説得力に欠けるだろうか。王子の頭をいきなり撫でるなど、もしかしたらとんでもない不敬では。というか失念していたけど、初対面でいきなり頭を撫でてくる奴……危険人物では。


 レオンハルトは警戒心が高そうだし、もしかして目先の結果ではなく距離感も考慮すべきだったのでは……。



「ご、ごめんなさい……驚かせてしまいましたよね……?」



 笑顔を保ちつつ冷や汗を流す私の耳に、ぽんっとフラグが立つ音が届く。


少しでも面白いと感じていただけたら、評価やブクマをいただけると励みになります!


今回より、週二回更新(水曜日、日曜日/18時)になります

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