01.フラグが見える悪役令嬢
本日は三話投稿予定です
フラグ。
旗という意味を持つこの単語は、いつしか物語において特定の展開や伏線を示すようになった。いわゆる「お決まりのパターン」というやつだ。
突然だが、私にはそういったフラグが視える。それもお子様ランチに立つ旗のように、人間の頭に刺さった状態で。
その異色な存在に気づいたのと同時に、ショックで前世の記憶も蘇ってしまった。
どうやら私は異世界転生したらしい。それも前世で大好きだったゲームにそっくりな世界で――
「婚約を許してもらえて嬉しいよ、リリアーナ」
私の手を取って、美しい金髪の少年がにこりと微笑む。
宝くじで一等賞を当てましたと言わんばかりな幸せオーラを纏う彼はこの国の王太子で、つい先ほど私の婚約者になった齢十四の子ども。
そんな彼と比例して、私の目からハイライトが消えていく。
「わ、私も、です……レオンハルト・トラクテンバーグ殿下……」
答える自分の声は震えていた。
だって、王子の頭上には『断罪』と書かれたフラグがメチャクチャ存在感を放っている。
普通ならまず疑問に思うところだろうが、私には心当たりがあった。
(私、悪役令嬢に転生してる――!?)
不穏なフラグの矛先は、たぶん間違いなく私――リリアーナ・ヘルナンデス。
なぜなら前世の記憶によれば、この世界では必ず非業の運命を遂げる悪女だからだ。
不思議そうに首を傾げる王子に合わせて、青ざめる私をあざ笑うように断罪フラグが揺れた。
♢♢♢
波打つ黒檀の髪に、夜を捕まえたような瞳。美しいが、冷たさと鋭さが目立つキツめの顔立ち。
リリアーナ・ヘルナンデス。それが転生した私の名前だ。
大学でレポートを書きながら寝落ちて、目が覚めたら乙女ゲームの悪役令嬢になっていた。おまけに原作にはない、フラグが視えるなんて意味の分からない能力付きで。
初めて訪れたはずなのに、見覚えがありすぎる王立魔法学園の講堂を見上げる。中世西洋らしい建築様式なのに、ファンタジー作品でしか見ないような浮遊物があっちこっち浮いている。
(ゲームで見たプロローグのスチルと全く一緒ね……とうとうこの日が来てしまったんだわ)
何度目か分からないため息をつく。
気づけば全てを思い出した日から五年が経ち、私は十八歳になった。ゲームの舞台でもある魔法学園に入学する年齢にもなれば、さすがに現実を受け入れられるようになる。
というか今日までゲーム通りの出来事が何度も起きるので、嫌でも自分が悪役令嬢であると自覚するしかなかったのだ。
何より、原作のリリアーナにはなかったフラグが視えるという謎能力もそれに拍車をかけた。常に視界にちらつく破滅フラグやら断罪フラグのせいで本当に気が休まらない。世界そのものにお前は悪だと言われている気分だ。
(でもフラグのおかげで何度も悪いイベントを回避できたわ……ありがとうフラグ。あなたのおかげで私は生きています)
今日に至るまでに過ごしたデッドオアダイの日々を思い出すだけでハハ……と乾いた笑いが出る。
すれ違った学生に奇異な目を向けられるも、私が誰なのか気づいてサッと目を逸らされた。そんな私を避けるようにしつつ、制服を纏った新入生が次々と講堂の中に入っていく。乙女ゲームの世界だからか、通りすがりの一般学生すらカラフルな髪をしている。
ファンタスティックな光景に、再び乾いた笑いが出そう。
それを誤魔化すように前を向いて、私も他の生徒に倣って講堂の中に入る。何度も頭でシミュレーションした光景がいざ目の前に広がって、これから原作が始まるというのについ見とれてしまった。
外観を裏切らない広々とした造り。高い窓から差し込む光はステンドグラスを通り抜けて、白い大理石の床を七色に染め上げる。
長い赤絨毯の上を進みながら周りを見渡す。私と同じ制服を身に包んだ学生がみんな、緊張した面持ちで講堂の中央に向かっていく。
「あれが、魔力測定の装置……」
おそらくそうした方がゲーム的に都合がいいからだろうが、この魔法学園では入学式の前に魔力測定が行われる。
中央の壇上にある演台、その上で輝く大きな水晶玉が装置だ。新入生は一人ずつ壇上に上がり、先生たちに見守られながら己の実力を証明する流れとなっている。能力を赤裸々に公開処刑していくスタイルだが、ここはヒロインを中心に回る乙女ゲームの世界。プライバシーの欠片もないこの行事は、主人公を目立たせるにはちょうどいいのだ。
いつプロローグが始まってもいいように警戒心を強めていれば、ふと壇上に上がる少女の姿が目に入る。肩で切りそろえられた白い髪に、兎のような赤い瞳。儚げでかわいらしい少女は、記憶にある立ち絵と全く同じ容姿で壇上に立っていた。ちょうど今から魔力測定を行うようで、緊張した面持ちで水晶玉と向き合っていた。
(あの子が……この世界のヒロイン。もう覚悟はできているのに、いざ目にするとやっぱり不思議な気分ね)
とはいえ、感傷に浸っている場合ではない。
ヒロインが現れたということはつまり、ゲームでいうプロローグが始まったということ。
その証拠にヒロインが魔力を水晶玉に込めた途端、ポンッという軽い音と共に彼女の頭上にビックリマークが描かれた黄色い旗が生えたのだ。
この旗が立つと必ずよろしくない問題が起きるため、私はこれをトラブルフラグと呼んでいるのだが――
「魔力の暴走だ!!新入生の魔法が制御を失って――」
以前の短編を三年越しに長編化。
いろいろ調節したので、既読の方も新しい気持ちで楽しめると思います。(三年前の作品を誰が覚えているのか問題)
少しでも面白いと感じていただけたら、評価やブクマをいただけると励みになります!




