## 第六話 # 「議会の天才」
# 『親孝行を法律にしたら、世界は少しだけ優しくなると思っていた』
## 第六話
# 「議会の天才」
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王都議会の朝は、やけに静かだった。
その静けさは、優しさではない。
「嵐の前の空気」だった。
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ミナト・カナエ(20歳)は、議場の扉の前に立っていた。
隣にはラグ。
「……帰りたい」
「今さら言うな」
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扉が開く。
中にはすでに貴族たちが揃っていた。
視線が一斉に集まる。
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「来たぞ」
「例の異世界人だ」
「親孝行の女」
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ミナトは小さく息を吐いた。
「あだ名増えてるなあ……」
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## ■エピソード①
## 「最初の攻撃」
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議長が立ち上がる。
「では議題に入る」
「親孝行を法にする案についてだ」
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すぐに手が挙がった。
ヴァルター・クロイツ。
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「最初に確認したい」
彼は冷静に言う。
「その法は、国家にどの利益をもたらす?」
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ミナトは少し考える。
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「人がちゃんと人を大事にするようになる」
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即答。
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ざわつき。
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「抽象的だな」
別の貴族が笑う。
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ヴァルターは続ける。
「それは“感情”だ。国家運営には不十分だ」
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ミナトは首をかしげた。
「じゃあ逆に聞くけど」
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空気が変わる。
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ミナトの“いつもの流れ”だ。
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「人を大事にしない国って、長く続くの?」
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静寂。
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しかしヴァルターは崩れない。
「短期的には効率的だ」
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「じゃあ長期は?」
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「……」
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初めて、少しの間が空いた。
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## ■エピソード②
## 「論理の罠」
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次々と反論が飛ぶ。
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「財政負担は?」
「強制力は?」
「定義は曖昧だ」
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ミナトは一つずつ聞いていた。
そして全部メモしていた。
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ラグが小声で言う。
「お前、殴り返さねぇのか?」
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ミナトは小さく答える。
「今、情報集めてる」
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「は?」
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「反論って材料だから」
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ラグは黙った。
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(こいつ、本気でやってる)
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## ■エピソード③
## 「ミナトの反撃」
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議論が一段落した瞬間。
ミナトが立ち上がる。
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「じゃあ質問いい?」
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ヴァルターが目を細める。
「どうぞ」
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ミナトは一枚のメモを見る。
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「この国ってさ」
「親を大事にしてる人、多い?」
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沈黙。
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貴族の一人が言う。
「……分からん」
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「だよね」
ミナトはうなずく。
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「じゃあさ」
「それって“できてるから法律いらない”んじゃなくて」
「“できてないから見えてない”だけじゃない?」
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空気が止まる。
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ヴァルターが言う。
「証拠は?」
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ミナトは少し笑う。
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「証拠、いる?」
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「いる」
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即答。
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ミナトは一呼吸置いた。
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「じゃあ作ればいいじゃん」
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「……は?」
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議場がざわつく。
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ミナトは続ける。
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「親孝行してる人が得する仕組み作って」
「ちゃんとデータ取ればいいよね」
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「法律って、そういうものでしょ?」
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ヴァルターの眉が動く。
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初めて“論破”ではなく“方向転換”された感覚だった。
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## ■エピソード④
## 「王の一言」
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そのとき。
奥の席から声がした。
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「面白いな」
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レオンハルト王。
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全員が振り向く。
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王は肘をついていた。
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「理想論ではあるが、完全な妄想でもない」
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貴族たちがざわつく。
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王は続ける。
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「ただし一つ問題がある」
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ミナトを見る。
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「それを“国がやる理由”がまだ弱い」
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ミナトはまっすぐ答える。
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「じゃあ理由、作ります」
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王は笑った。
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「やはり危険だな」
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## ■エピソード⑤
## 「初めての敗北未満」
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結局。
その日の議会は結論が出なかった。
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ただ一つだけ変わったことがある。
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「否定」ではなく「検討」に変わったこと。
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議場を出たミナトは伸びをする。
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「負けなかったね」
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ラグが言う。
「勝ってもねぇけどな」
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ミナトは笑う。
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「でも一歩進んだよ」
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ラグは少し黙ってから言った。
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「お前さ」
「本気なんだな」
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ミナトは少し驚く。
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そして小さくうなずく。
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「うん」
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「優しい世界、作りたい」
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ラグは空を見た。
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「面倒なこと始めたな」
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「よく言われる」
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## ラスト
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夜の王都。
灯りが無数に揺れている。
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その一つ一つの光が、
誰かの生活だとミナトは知った。
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「ちゃんと考えないといけないな」
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静かにそう言う。
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その頃、議場では。
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ヴァルターが一人で書類を見ていた。
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「危険だが……」
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小さく呟く。
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「面白い」
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そして、初めて少しだけ笑った。
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## 次回予告
### 第七話
# 「親孝行法の実験」
ミナト、ついに動く。
村での実験開始。
親孝行を“見える化”する試み。
しかしそこで明らかになる。
> 「優しさは、思っていたより複雑だった」
数字、感情、現実。
すべてがぶつかり始める。




