## 第二話 # 「異世界の議会と、親孝行という爆弾」
# 『親孝行を法律にしたら、世界は少しだけ優しくなると思っていた』
## 第二話
# 「異世界の議会と、親孝行という爆弾」
---
「君、議会に来ないか?」
助けた商人にそう言われたとき、ミナトは思った。
(議会って、あの議会?)
---
翌日。
ミナトは王都から少し離れた街の議事堂の前に立っていた。
石造りの大きな建物。
入り口には鎧を着た騎士が立っている。
---
「本当に入るの?」
ミナトが聞く。
商人はうなずいた。
「大丈夫だ。たぶん」
「たぶん?」
「たぶんだ」
---
不安しかなかった。
---
議場へ入ると、多くの人が集まっていた。
貴族。
商人。
騎士。
そして街の代表者たち。
---
全員がミナトを見る。
---
「異世界人か」
「若いな」
「本当に大丈夫なのか?」
---
ひそひそ声が聞こえる。
---
ミナトは苦笑した。
「歓迎されてないね」
「最初はみんなそうだ」
商人が肩をすくめる。
---
やがて議長らしき老人が立ち上がった。
---
「静粛に」
---
議場が静かになる。
---
「本日は特別に異世界人の意見を聞く機会を設けた」
「何か提案があれば述べるがよい」
---
突然だった。
---
(えっ、今!?」
---
準備ゼロ。
心の準備もゼロ。
---
だが全員が見ている。
---
ミナトは立ち上がった。
---
「えっと……」
---
数秒考える。
---
そして口から出た言葉は――
---
「親孝行を法律にしませんか?」
---
静寂。
---
完全な静寂。
---
誰も動かない。
---
ミナトは思った。
(あ、やったかもしれない)
---
次の瞬間。
---
「はあ!?」
---
議場が爆発した。
---
「意味が分からん!」
「政治と何の関係がある!」
「親孝行だと!?」
---
大騒ぎだった。
---
ミナトは思わず耳を押さえる。
---
「うるさいなあ……」
---
その言葉に近くの貴族が反応した。
---
「うるさいだと!?」
---
「いや、だって本当にうるさいし」
---
さらに炎上した。
---
議長が頭を抱えている。
---
そのとき。
一人の男が立ち上がった。
---
銀髪。
整った顔立ち。
鋭い目。
---
ヴァルター・クロイツ。
若き貴族議員だった。
---
議場が静かになる。
---
どうやら有名人らしい。
---
ヴァルターはミナトを見た。
---
「質問だ」
---
「どうぞ」
---
「なぜ親孝行が法律になる」
---
ミナトは少し考える。
---
そして答えた。
---
「人を大切にできない人が、国を大切にできると思わないから」
---
議場が静かになる。
---
ヴァルターは表情を変えない。
---
「感情論だな」
---
「そうかな?」
---
ミナトは首をかしげた。
---
「家族を大切にできる人の方が、人を大切にできると思うけど」
---
「証明は?」
---
「ない」
---
即答だった。
---
議場がざわつく。
---
しかしミナトは続ける。
---
「でも、証明されてないから間違いとも言えないよね」
---
ヴァルターが少しだけ眉を動かした。
---
初めてだった。
---
この少女がただの変人ではないと感じたのは。
---
議論は夕方まで続いた。
---
結局。
親孝行法は採決にすら進まなかった。
---
完全敗北。
---
議場を出たミナトは大きく伸びをした。
---
「負けたなあ」
---
悔しそうな顔はしていない。
---
その様子を見ていたラグが聞く。
---
「悔しくねぇのか?」
---
ミナトは笑った。
---
「悔しいよ」
---
「じゃあなんで笑う」
---
「だって、まだ終わってないし」
---
ラグは少し驚いた。
---
ミナトは空を見上げる。
---
夕焼けが綺麗だった。
---
「今日はダメだった」
「でも明日もある」
---
そして小さく笑う。
---
「優しい世界を作るのって、思ったより難しいね」
---
その言葉を聞いて、ラグも笑った。
---
「当たり前だ」
---
こうして。
異世界の誰も知らないところで。
後に王国を揺るがす政治家の第一歩が始まった。
---
## 次回予告
### 第三話
# 「初めての友達」
異世界で泊まる場所がないミナト。
ラグの家に転がり込むことに。
畑仕事。
村の子どもたち。
おばあちゃんとの出会い。
そしてミナトは気づく。
> 「政治って、議会じゃなくて人の暮らしなんだ」
笑って、食べて、少し泣く。
心温まる村編、開幕。




