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その日の午後、海未はエクセルで自治体別のデータをフィルタリングして、各建設会社の詳細な受注内容を照合してみた。その際、あるグループ名義の小規模企業が頻繁に登場している事実に気づく。
書類上は「真田コンサルティング」「新星重機サービス」「フロントライン建装」など社名がバラバラだが、それら企業が共通の代表者や類似の役員を持つケースが散見される。
(なんだろ、これ……)
海未は法人の登記情報を調べるため、会社登録データベースを参照する。名前は違えど、役員欄を読み込むと代表取締役・片山○○、取締役・吉永○○といった面々が被っているのだ。しかもその片山や吉永は、元・真田工務店の幹部社員だったとわかる。
(え、直接の子会社じゃないのに……?)
まるで、真田工務店出身の人物が別会社をいくつも立ち上げているように見える。しかし正式な株式構成は掲載されておらず、表向きは「無関係」だと主張できる形だ。
こうした企業に、補助金の一部が下請け費用として流れている状況を、海未はデータで突き止めた。
さらに工事進捗を確認しようと、自治体が保有する現場報告やスケジュールをチェックすると、一定のパターンが見え始める。多くの案件で、「真田工務店が引き受けた」とされる工事の一部が、着工予定よりも前に「完了」報告を出しているのだ。あまりに早すぎる完了で、しかも現場写真や実際の稼働日報が整合しない。
「これはおかしいよね……」
海未はそう口に出して、改めて真田工務店が絡む案件を洗い出す。大手ゼネコン数社の中に紛れて目立たないが、裏を取ると真田工務店の「旧幹部」が社長や取締役を兼任する小規模企業群が多数存在し、そこへ補助金が流れるプロセスが散見される。
受注額単体では最も高いわけではないが、全体で見ると、このグループが獲得している金額の総額は莫大である。
続けて海未は、経産省から支給された補助金の流れを丹念に追っていた。まず、支払い記録を精査すると、補助金は「地元自治体→真田工務店→関連会社」という経路で流れていることが判明した。この時点では一般的な資金の流れであり、通常の分析であれば「正常」と見なされてもおかしくはない。
次に、真田工務店が提出した「補助金使用報告書」に目を通すと、使途の欄に
『関連会社○○工業に○○円を振込済』
と記されていた。しかし、振込先銀行の欄には、国内では見慣れない海外の銀行名があった。正確には、国内の決済代行会社を経由した先の「最終着金先」として、その銀行名が記載されている。
海未は眉をひそめ、静かに呟いた。
「この銀行……どこだ?」
すぐさま、彼女は社内の金融調査システムにアクセスし、入力した銀行名を検索した。数秒後、画面に表示されたのは、その銀行の本拠地がバミューダ諸島であるという事実だった。
「バミューダか……租税回避地の代表格だ」
さらに、海未はその銀行のSWIFTコードを国際金融監視データベースに突っ込んだ。すると、かつて租税回避地における資金洗浄疑惑で警戒対象となった金融機関のコードと一致していることが明らかになった。
心中に冷ややかな不安が走る。
もしこれが本当なら、単なる事務処理ミスでは済まされない。公金がこのような形で海外に流出しているなら、何か大きな不正が隠蔽されている。
真田工務店は表向きには直接多額を受け取っていないように見せているが、結局彼らの元社員が社長を務める企業が複数あり、補助金が分散されている――しかも報告書を改ざんして工期を水増ししたり、未着工の現場を完了と偽ったりしている。
海未の心に、確かな疑念と警告音が鳴り響く。
「表向きは『地方のインフラ再建』……でも、これじゃ明らかに不正か架空請求に近い。完全にアウトだよね」
彼女はファイルを閉じると、さっと報告用のスライドを作り始める。分散された企業群の役員人事、工事進捗の実態との食い違い、怪しいオフショア口座の利用……データを整理すればするほど、真田工務店とその関連と目される企業ネットワークが濃い闇を孕んでいるとしか思えない。
もしこのまま放置されたら、国民の税金が何億円も不正に吸い取られていく。
海未は嫌な汗をかきながらも、キーボードを打つ手を止めない。近々、この報告を上司に提出するつもりだが、会社や政府はどう反応するだろうか。
彼女は火事に遭った父の苦い経験を思い出しながらも、「これを見逃すわけにはいかない」と決意を強くするのだった。




