異世界への門
読んでくださりありがとうございます。そこまでストックがないのですが、できる限り一日一話投稿していきたいと思います。
それほど広くないマンションの一室。足元には乱雑にものが置かれており、本人もどこに何があるかは把握していない。
実際、大雑把な男の一人暮らしとなればこうなるのも仕方が無いだろう。本人曰く、人が来る時に片付ければ大丈夫、らしい。だからそんな人を呼ぶことも出来ない部屋ではカチカチとパソコンのマウスをクリックする音だけが響く。
それをする本人はイヤホンで耳を塞いでいる。彼が何をやっているのかと言うと、『五色玲瓏のフィリグラン』というギャルゲーだ。発売日からやり続け、ついに有給も今日で終わりという時クリアの瞬間が近づく。
画面には泣きながらも笑顔の女の子が微笑み、fin.の文字が浮かび上がる。
「···終わったぁぁぁ!」
椅子から立ち上がり両手を天井に向けながら立ち上がると、イヤホンが耳から外れ重力に従い机へと叩きつけられる。しかし、そんなことを気にする暇がないほど彼は喜んでいた。
日本に似た国の魔法学校に通い、様々なヒロインの悩みを解決して恋人になっていくこのゲームはそのヒロインが抱える問題のヒントがあちこちに散りばめられており、解決のためにどうすればいいか考える必要がある。よって、手元に置いていたノートには文字がびっしりと書かれており、全てのスチル集めがどれだけ大変だったかを示している。
「ふぅ、有給使い切る前に終わるなんて。これはもしかして最速クリアも有り得るのかもなー」
そう考えると喜びも一入であり、小躍りしたくなる気持ちになるがとりあえず戦果を確認したい。そう思い、全てのスチルが保存されているアルバムを開く。
「壮観だな」
これまで集めたスチル百枚が画面に並ぶ。嬉しくてついつい頷きながら全てを確認していく。こんなこともあったなーと独り言を呟きスクロールする。ついに下まで来てしまい、確かな満足感が胸を占領する。今日はとても気分よく寝れそうだと思っているとおかしなことに気がついた。
「ん?スチルは全部で100枚だったはず···」
合計では100枚のはずなのに、彼が持つスチルの数は101枚と確かに表示されていた。バグか何かかと思うが、
(もしかして隠しスチルでもあったのか?運営も粋なことをするな)
最下層だと思ってた画面をさらに下に向かってスクロールすると1枚のスチルが目に入った。
「なんだこれ?」
どのスチルにも必ずと言っていいほど女性キャラがいるにも関わらずそのスチルにはギリシャ神話に描かれるような白く神々しい門が映っていた。
(こんなスチルをゲーム中は見たことが無いはず)
スチル名を確認しようとそのスチルをダブルクリックした。少しの読みこみののち、画面いっぱいに門の画像が広がる。そして、右端に書かれていたのは、
『異世界へようこそ』
この言葉を見た瞬間、僕は意識を闇に落とした。
カーテンの隙間から差し込む光が目元に当たり、あまりの眩しさに徐々に目を覚ましていく。
(いつの間に寝たんだ?)
少しずつ回り出した頭の中で昨日のことを思い出す。
(確か、ゲームをクリアしてそれで···待てよ、そういえば昨日が有給最後の日だった気が···)
顔を真っ青にしながら急いで布団から飛び出す。時間を確認しようといつも頭の上で充電していたケータイを探すが見つからない。
「どこにやったっけ!?」
昨日は充電せずにバソコンの横に置いたまま寝たのではないかと自分の机を確認しようとするがおかしなことに気づく。
「どこだここ?」
自分の家だと思っていた場所は全く見覚えのない部屋だった。マンションの一室だったはずなのにこれでは一軒家の子供部屋といった風貌だった。昨日何があったかを思い出そうとするが思い出せない。
(もしかして誘拐?)
そんな考えが頭に浮かぶが誘拐なのにこんな子供部屋ような場所を用意されてることや自分のような一般人を誘拐ということに疑問を持つ。状況を把握しきれずわずかでも情報が欲しい中部屋の入口が目に入る。
「とりあえず、ここから出るか」
恐る恐る部屋の入口へと向かう途中、姿見が入口近くに置かれてることに気づく。特に見ようとしたわけでもなく姿見に映った自分を目の端に捉える。
「ん?」
そんな声を出し、前に出そうとした足を止める。明らかに今の瞬間違和感があったもののさすがに気のせいだと自分に言い聞かせ、今度は目線だけでなく顔ごと姿見を見る。するとそこには、
「ははは、どうなってんの?」
いつも見続けてきた優しそうとは言われるがかっこいいと言われたことがない自分の容姿ではなく、黒髪や黒い瞳は同じだが綺麗に整った顔に鋭利な瞳、すらっと伸びた長い足、程よく筋肉のついた体を持つ自分とはまるで思えない人物が映っていた。
自分ではない、自分ではないのだがどこか見覚えのあるその顔がこちらを見つめている。本当に自分なのかと声も出さず両手でぺたぺたと触っているとこの顔が誰だったのかを思い出す。
「思い出した···。こいつは『五色玲瓏のフィリグラン』で主人公の敵役だった乙黒蓮だ」
そう声に出すが意味がわからずもう乾いた笑いしか出てこない。そこで昨日の最後の記憶が蘇る。
『異世界へようこそ』
「まさかまさかまさか!ここって!」
それほど広くない部屋の中を走り、急いでカーテンを開き窓を開ける。突然窓を開けたからか、風が部屋に吹き込みカーテンをたなびかせる。思わず目を瞑った僕の目の前に広がったのは、現代と同じような街並みながらも明らかに緑が多く、魔法学園シックザールが街のど真ん中で圧倒的な存在感を誇り、なによりも道を歩く人の中には耳が尖るように伸びてたりケモ耳がついてる人が当然のように歩いている『五色玲瓏のフィリグラン』で何度も見た事のある風景だった。
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