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神宿り  作者:
第1章
7/103

6

「そろそろ行く? カラオケ」

「行こうよ」

 派手な化粧をした一人の女子高生の提案に、一人が賛成し、残りの高校生がぞろぞろと立ち上がる。


「おい、哲哉。俺やっぱり…」

「カラオケ、だろ? 逃げんなよ、遼介。これからだぜ、これから」

 その場を抜けだそうとする遼介の肩を、ポンッと哲哉が叩いた。そのままガシッと肩をつかみ、半ば自分を引きずるように歩みだした哲哉に、遼介は苦笑する。逃がしてくれそうもない。


「あ…っ…」

 その時、女子高生の一人が声を上げた。皆がその視線を追う。

 店に入ってきたばかりの少女の姿に、女子全員が顔を見合わせた。


 少女は店内をゆっくりと見回す。


「知り合い?」

 短い髪をつんつんに立てた男が首を傾げる。

「知り合いっていうか…同じ学校の子」

 五人の女子高生は互いに顔を見合わせる。どの顔も、すっきりしない表情。


「へぇ…。カワイイじゃん。誘ってくか?」

 両耳に合計五個のピアスをしている男が、ポケットに手をつっこんだまま言った。


「えぇ~、ありえない。絶対盛り上がんないし」

「大体何でアンドロイドがこんなトコいるの?」

 五人の女たちは一斉に却下した。


「アンドロイド?」

 哲哉が眉根を寄せる。


「そ。だってあの子友達いないし、作ろうともしないし?」

「無表情、無感動」

「あそこまでいくと怖いよね、何か」

「得体が知れない、ってゆーか…」

「しゃべんないし、何考えてんのかさっぱりだし」

 口々に好き勝手なことを女たちははき捨てる。


 その時、自分が話題にされているのを感じたのか、あるいは偶然か、その彼女が彼らを振り返った。


 端麗な容姿。無表情の仮面。

 確かに近寄りがたい不思議な空気。


「…………っ…」

 その視界に入った彼らは全員、息をのんだ。

 その瞳にとらわれる。


 彼女の瞳が彼らの顔を順番に見てゆく。一瞬停滞した瞳。

 その数秒の間、呼吸も忘れ、ただ一歩もその場から動けなかった。

 だが一通り見渡すと、すぐに彼女は瞳をそらす。


 同時に、ようやく詰めていた息を吐き出す皆。

 彼女はそれ以上彼らを気にすることなく、すぐに店を出て行った。


「……………」

 皆、視線を交わす。

「……ね? 変な子でしょ?」

「大体何しに来たんだろ。すぐ出てくし」

「ま、アンドロイドはほっといて、カラオケ、カラオケ~」

 女子高生たちが口を開き、気を取り直すように歩き出す。


「……ん…? どうしたんだ?」

 哲哉に声をかけられ、一人立ちつくしていた遼介はハッと我に返った。

「いや………、何でもない…」

 歩き出した遼介は、もう一度だけ、彼女の出て行った扉を見やった。







ゆめうつつ…」

 人ごみの中、少女が呟く。


 うまく人間の足をよけ、いつの間にか二匹の猫が彼女の足元でじゃれあうように前になり、後ろになり、歩いていた。

 人波が途切れた。


 三色の瞳で見上げる二匹の猫に、少女は腕をさしだした。

 白猫はすぐに飛び乗り、腕を伝って、肩に登る。甘えるように彼女の頬にすり寄り、その肩口で鳴いた。

 黒猫はしばらく彼女を見上げていたが、彼女が黒猫を見ると、ふいっと視線をそらす。


 彼女は気にすることもなく、黒猫を抱き上げた。

 再び彼女をちらりと見やってから、そっぽを向いて黒猫は小さな鳴き声を上げる。


「…そっか。ありがとう」

 彼女は唇の端を微かに持ち上げた。

 そして再び、その小さな背中は人ごみにまぎれた…。


*       *       *


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