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神宿り  作者:
第3章
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51/103

11

『もう、一体何がどうなってんのよ!』

『ソウは大丈夫なのか? どうしたんだよ?』

『落ち着け。すぐにロードが戻ってくる』

 創樹の家の近所、創樹の部屋が見える屋根の上で、痺れを切らしたように声を上げる峰春とザットを、シグが制した。


 フッとそばに気配が。

『ロード。…猫神たちと一緒か…』

 シグの言葉と同時にロードと猫神たちが姿を現した。


『一体何が…?』

「みゃう」

 シグの問いに、白猫が鳴いて、峰春を示した。

『そうだな。先に男の記憶を頼もうか』

 シグが頷き、猫たちが峰春の肩に飛び乗った。二神がかすかに光る。

『この男が…今回の…』

 猫たちが飛び降りると、峰春がつぶやいた。

『ああ。恐らくな』

 シグが頷く。


『それで、何があったんだ? 何を持っている?』

 シグが猫たちに問う。

 現がくわえていた紙をシグに渡した。

『これは? 何て書いてある?』

 二神が交互に鳴いて、紙の内容と、事情を伝えた。全て宿神に通訳してもらいながらの会話のため、少々手間取る。


『そうか…それで、彼女はお兄さんに見張られてるわけか…』

『それにしても、許せねぇよな。親をつかって襲わせて…『何故助ける』はねぇだろ!』

 ようやく事情を聞き終え、シグがつぶやき、ザットが怒りをぶちまけた。

「ミャッ」

「みゃぅ?」

 二神が、ロードとシグを見上げる。

『ん? …あぁ、判ったこと、か。…あの男の、正体が見えた』

 シグが静かに答える。


『ちょっと、シグザウエル。部外者に話していいの?』

 峰春が眉根を寄せる。

『…お前なぁ。たった今フォンもソウと猫たちから情報もらったろう。ソウからはあらゆる情報もらって協力してもらっといて、ソウには何にも教えず、何にも協力しないのか?』

『そうじゃないけど…部外者に知られていいって言うの? いつも通り私たちは私たちでやって、あの子はあの子でやればいいのよ』

 ザットに言われ、峰春はむくれたように反論する。


「ミャゥ」

「みゅ」

 猫たちがフンッとそっぽを向いた。

『悪いな、ユメ、ウツツ。これだけ協力してもらっといて…』

 シグが二神に静かに言った。

『彼女が協力してくれなかったら、俺たちはあの男のことを知ることもなく、今でもただ、妙な邪魂を祓うのに振り回されているだろう。教会の件にしろ、クボタの件にしろ、手遅れになっていたはずだ。どれだけの人間が被害にあい、どれだけ被害が拡大すると思う』

 シグは、真っ直ぐ峰春を見つめ、告げる。


『一刻も早い解決が最優先。お前の個人的な感情に振り回されている時間はない。そんなに嫌ならさっきの男の記憶を消して、この件から外れてもらう』

『え…?』

 シグの言葉に、峰春は愕然としたように目を見開いた。

『ま、俺たち元々、二人で動いてたしな』

 ザットが肩を竦めた。

『ああ。任務が嫌なら、家へ帰れ』

『嫌よ! そんなの…』

 淡々と告げるシグに、峰春は叫ぶ。

『…ならば、猫神たちに謝るんだな。それに、今後この件の解決を邪魔するような発言をするな。いいな?』

『……………………』

 峰春はシグとザットを見た。

 二人とも本気なのを、峰春は悟る。

『…ごめんなさい』

 仕方なく、峰春は猫神たちに謝った。


 幻は軽く峰春に鳴き返し、現はちらりと峰春を見やってから、シグに声をあげる。

『ああ。これを見てくれ』

 シグは猫神たちに、ふところから取り出した紙を見せた。

 二神がその紙を覗き込み、瞳を鋭く光らせる。

「みゅ?」

『…ああ。恐らく、この男だ。【ホンマ・ケンジ】…。三二歳、日本人。これが、一六歳の頃の写真。肉親はいない。ホンマの両親は、彼が一三の頃に次々と亡くなっている。公式の記録じゃ事故となっているが、実際のところ…何者かに殺された可能性もあるらしい』

「みゅ?」

「ミャー」

 白猫と黒猫が不思議そうにシグを見上げる。


『…居たんだよ、俺たちと同じ組織に。昔ね。だからすぐに見つかった。ユメとウツツに男の顔を見せてもらった時…何かひっかかったんだ。どこかで見た覚えのある顔だったからね。それに、ホンマは、組織のことを知っていた。構成員しかほとんど存在すら知らない、組織のことをね…』

 黒猫と白猫は顔を見合わせる。

「ミュ」

「みゃう?」

『ああ、昔、だ。今は違う。このホンマは、一五年前に組織を脱走しているんだ。所属年数は三年。組織も一応探索の手を伸ばしたが、すぐに打ち切った。ホンマを見つけるメリットがなかったからね。彼は…宿主だった。しかし、その宿神を決して外に出そうとはしなかった。彼自身は、普通に力を使っていたがね』


『普通にじゃなく、破壊に力使ってたぜ。この写真見て思い出したけど、俺、一回コイツと会ったことある。っつーか、廊下ですれ違った時にちょっとぶつかったんだよ。そしたらコイツ、俺を吹き飛ばしやがった。俺もムカついてハック出して攻撃したけど。んで、そのあとこっぴどく説教された』

『…そりゃ叱られるだろう。建物内で構成員同士、本気で攻撃しあえば』

 憤然(ふんぜん)と言ったザットに、シグは苦笑する。それからあきれた目をしてザットを見ていた猫たちに瞳を戻す。

『今、どこにいるのか探している。場所が割れ次第こちらからアクションを起こすつもりだ』

 シグの言葉に、猫たちは顔を見合わせた。


「にゃぅ」

『? 残留思念?』

 白猫の言葉をロードに訳してもらい、シグは首を傾げる。

「ミュ」

 黒猫がシグの手の中にまだある、例の脅迫文を示す。シグは黒猫にそれを渡した。

 白猫と黒猫が、揃ってその紙に乗り、光る。

 三人の脳裏に、同じ光景が浮かぶ。




 何か、ある。

 機械のようなものか…。

 隣では、別の機械のようなものが作られているようだ。

 人が集まっている。異様な黒装束。

 男が何かを命じている。本間だ。

 檻の中に入れられた何人もの人間たち。()に乗っ取られている。

 機械のスイッチが入れられる。

 邪魂(じゃこん)が…機械に取り込まれる。




 フッと、現実に戻った。

『鬼に乗っ取られた人間が…檻に…』

 異様な光景に、峰春が思わず自分を抱きしめた。鳥肌が立っている。

『何やってんだ…? 何であんなこと…っ!』

 拳を握りながら、ザットがシグに問う。


『…恐らく…新たな鬼を作り出してるんじゃないか…?』

『新たな鬼を…?』

 ザットが眉根を寄せる。

『鬼に乗っ取られた人間は、危険な…凶暴な本能のみが覚醒する。その人間を檻に閉じ込めれば、当然、鬼は怒り、憎む。怒りや憎しみは…更なる邪魂を生む。あれだけの人間が閉じ込められてたんだ。新たな邪魂や鬼が次々と生み出され…多分、あの機械を通して、更に変質し…今の、妙な邪魂や鬼になり、狙ったところに送られる…』

 いつもの口調ながら、その眼光は普段より数段鋭く、シグは告げた。


『ちょっと待ってよ。鬼や邪魂を機械で変えるってどうやって?』

幽霊(ゴースト)を閉じ込めようとするくらい変だよな』

 峰春とザットが首を傾げる。

『幽霊なら護符なり御札なり、ふさわしい物で対応するさ。梁はともかく、ザットは【宿神学】でやったろう』


『【宿神学】なんてあるの? 叔母様に理事会の方に言ってもらって、個人講義してもらおう』

 苦笑するシグに、真っ先に峰春が反応する。

『劉理事と理事会を振り回すな。テキストはやるから、独学しろ』

 シグは溜息をついた。


『とにかく、【宿神学】で宿神や鬼について科学的に学ぶ。宿主も含め、力の仕組みなどはほとんど解っていないが、宿神の能力や力の応用はかなり研究が進んでいる』

『仕組みがわかんねぇのに、力の応用とか変じゃねぇ?』

 ザットが首を傾げる。

『変じゃないさ。パソコンでも携帯でも、お前はどういう仕組みで動いて、何をどう作るかは知らなくても、使えるだろ?』

 シグはあっさりと答える。


『組織のカリキュラムをことごとく拒否していたホンマが、唯一興味を持ち、教授連をうならせる知識を身につけたのが、その【宿神学】なんだ。その知識があるなら、あとは技術さえ手に入れれば……不可能ではないんだ』

 シグは腰を落とし、白と黒の猫を見詰める。

『ありがとう、ユメ、ウツツ。何をすべきかはっきり見えたよ』

 シグの言葉に白猫は愛想良く鳴き、黒猫はそっぽを向いた。


『あの変な機械を止めるのね?』

 峰春の確認にシグは頷く。

『まずは…あの機械を止めて、完全に破壊…』

 シグの言葉にザットと峰春が頷く。


『ありがとな、ユメ、ウツツ』

 ザットが黒猫と白猫を抱き上げた。

「みゃぅ」

 白猫は愛想良く鳴き、黒猫はふいっとそっぽを向く。

「ミュ?」

 だが、シグが持ったままだった、本間の資料を目に留め、不思議そうな声をあげた。

「ミャォッ?」

 ザットの腕からシグの肩に飛び移り、紙を覗き込みながら黒猫が問いかけるように鳴く。


『何だ? …あぁ、この住所か。ホンマは両親が生きていた頃、何度も引越しをしている。その全ての所在地が記されているから、この数だ』

 シグが黒猫に答えた。

「みゃ?」

「ミュ…ミャゥ」

 ザットの腕の中から首を傾げる白猫に、黒猫はひとつの住所を告げた。

「…みゅ?」

「ミャー…ミュ…ミャン…」

『どうした? 何か、引っ掛かることがあるのか?』

 猫神たちがしきりに首を傾げつつ交わす鳴き声に、ザットが問う。

 二神は顔を見合わせる。


「……ミャ」

「…みゃぉん」

 それから創樹に確認してから教えることを告げた。

「みゃ」

「ミャウ」

 それからこれ以上用がないなら、創樹の元に帰っていいか、尋ねる。


『ああ。ありがとう。また、何か判ったら知らせる。そちらも判ったら教えてくれ』

『…ソウ、大変だろうな…。すぐにあのホンマを捕まえような』

 シグが頷き、ザットが黒猫と白猫の頭をクシャッと撫でた。

 二神は二人に鳴き声をあげ、姿を消してから、跳んだ。

『さて、俺たちも一旦帰って、情報の整理だ』

 シグの言葉にザットと峰春は頷き、跳んだ。


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