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『もう、一体何がどうなってんのよ!』
『ソウは大丈夫なのか? どうしたんだよ?』
『落ち着け。すぐにロードが戻ってくる』
創樹の家の近所、創樹の部屋が見える屋根の上で、痺れを切らしたように声を上げる峰春とザットを、シグが制した。
フッとそばに気配が。
『ロード。…猫神たちと一緒か…』
シグの言葉と同時にロードと猫神たちが姿を現した。
『一体何が…?』
「みゃう」
シグの問いに、白猫が鳴いて、峰春を示した。
『そうだな。先に男の記憶を頼もうか』
シグが頷き、猫たちが峰春の肩に飛び乗った。二神がかすかに光る。
『この男が…今回の…』
猫たちが飛び降りると、峰春がつぶやいた。
『ああ。恐らくな』
シグが頷く。
『それで、何があったんだ? 何を持っている?』
シグが猫たちに問う。
現がくわえていた紙をシグに渡した。
『これは? 何て書いてある?』
二神が交互に鳴いて、紙の内容と、事情を伝えた。全て宿神に通訳してもらいながらの会話のため、少々手間取る。
『そうか…それで、彼女はお兄さんに見張られてるわけか…』
『それにしても、許せねぇよな。親をつかって襲わせて…『何故助ける』はねぇだろ!』
ようやく事情を聞き終え、シグがつぶやき、ザットが怒りをぶちまけた。
「ミャッ」
「みゃぅ?」
二神が、ロードとシグを見上げる。
『ん? …あぁ、判ったこと、か。…あの男の、正体が見えた』
シグが静かに答える。
『ちょっと、シグザウエル。部外者に話していいの?』
峰春が眉根を寄せる。
『…お前なぁ。たった今フォンもソウと猫たちから情報もらったろう。ソウからはあらゆる情報もらって協力してもらっといて、ソウには何にも教えず、何にも協力しないのか?』
『そうじゃないけど…部外者に知られていいって言うの? いつも通り私たちは私たちでやって、あの子はあの子でやればいいのよ』
ザットに言われ、峰春はむくれたように反論する。
「ミャゥ」
「みゅ」
猫たちがフンッとそっぽを向いた。
『悪いな、ユメ、ウツツ。これだけ協力してもらっといて…』
シグが二神に静かに言った。
『彼女が協力してくれなかったら、俺たちはあの男のことを知ることもなく、今でもただ、妙な邪魂を祓うのに振り回されているだろう。教会の件にしろ、クボタの件にしろ、手遅れになっていたはずだ。どれだけの人間が被害にあい、どれだけ被害が拡大すると思う』
シグは、真っ直ぐ峰春を見つめ、告げる。
『一刻も早い解決が最優先。お前の個人的な感情に振り回されている時間はない。そんなに嫌ならさっきの男の記憶を消して、この件から外れてもらう』
『え…?』
シグの言葉に、峰春は愕然としたように目を見開いた。
『ま、俺たち元々、二人で動いてたしな』
ザットが肩を竦めた。
『ああ。任務が嫌なら、家へ帰れ』
『嫌よ! そんなの…』
淡々と告げるシグに、峰春は叫ぶ。
『…ならば、猫神たちに謝るんだな。それに、今後この件の解決を邪魔するような発言をするな。いいな?』
『……………………』
峰春はシグとザットを見た。
二人とも本気なのを、峰春は悟る。
『…ごめんなさい』
仕方なく、峰春は猫神たちに謝った。
幻は軽く峰春に鳴き返し、現はちらりと峰春を見やってから、シグに声をあげる。
『ああ。これを見てくれ』
シグは猫神たちに、ふところから取り出した紙を見せた。
二神がその紙を覗き込み、瞳を鋭く光らせる。
「みゅ?」
『…ああ。恐らく、この男だ。【ホンマ・ケンジ】…。三二歳、日本人。これが、一六歳の頃の写真。肉親はいない。ホンマの両親は、彼が一三の頃に次々と亡くなっている。公式の記録じゃ事故となっているが、実際のところ…何者かに殺された可能性もあるらしい』
「みゅ?」
「ミャー」
白猫と黒猫が不思議そうにシグを見上げる。
『…居たんだよ、俺たちと同じ組織に。昔ね。だからすぐに見つかった。ユメとウツツに男の顔を見せてもらった時…何かひっかかったんだ。どこかで見た覚えのある顔だったからね。それに、ホンマは、組織のことを知っていた。構成員しかほとんど存在すら知らない、組織のことをね…』
黒猫と白猫は顔を見合わせる。
「ミュ」
「みゃう?」
『ああ、昔、だ。今は違う。このホンマは、一五年前に組織を脱走しているんだ。所属年数は三年。組織も一応探索の手を伸ばしたが、すぐに打ち切った。ホンマを見つけるメリットがなかったからね。彼は…宿主だった。しかし、その宿神を決して外に出そうとはしなかった。彼自身は、普通に力を使っていたがね』
『普通にじゃなく、破壊に力使ってたぜ。この写真見て思い出したけど、俺、一回コイツと会ったことある。っつーか、廊下ですれ違った時にちょっとぶつかったんだよ。そしたらコイツ、俺を吹き飛ばしやがった。俺もムカついてハック出して攻撃したけど。んで、そのあとこっぴどく説教された』
『…そりゃ叱られるだろう。建物内で構成員同士、本気で攻撃しあえば』
憤然と言ったザットに、シグは苦笑する。それからあきれた目をしてザットを見ていた猫たちに瞳を戻す。
『今、どこにいるのか探している。場所が割れ次第こちらからアクションを起こすつもりだ』
シグの言葉に、猫たちは顔を見合わせた。
「にゃぅ」
『? 残留思念?』
白猫の言葉をロードに訳してもらい、シグは首を傾げる。
「ミュ」
黒猫がシグの手の中にまだある、例の脅迫文を示す。シグは黒猫にそれを渡した。
白猫と黒猫が、揃ってその紙に乗り、光る。
三人の脳裏に、同じ光景が浮かぶ。
何か、ある。
機械のようなものか…。
隣では、別の機械のようなものが作られているようだ。
人が集まっている。異様な黒装束。
男が何かを命じている。本間だ。
檻の中に入れられた何人もの人間たち。鬼に乗っ取られている。
機械のスイッチが入れられる。
邪魂が…機械に取り込まれる。
フッと、現実に戻った。
『鬼に乗っ取られた人間が…檻に…』
異様な光景に、峰春が思わず自分を抱きしめた。鳥肌が立っている。
『何やってんだ…? 何であんなこと…っ!』
拳を握りながら、ザットがシグに問う。
『…恐らく…新たな鬼を作り出してるんじゃないか…?』
『新たな鬼を…?』
ザットが眉根を寄せる。
『鬼に乗っ取られた人間は、危険な…凶暴な本能のみが覚醒する。その人間を檻に閉じ込めれば、当然、鬼は怒り、憎む。怒りや憎しみは…更なる邪魂を生む。あれだけの人間が閉じ込められてたんだ。新たな邪魂や鬼が次々と生み出され…多分、あの機械を通して、更に変質し…今の、妙な邪魂や鬼になり、狙ったところに送られる…』
いつもの口調ながら、その眼光は普段より数段鋭く、シグは告げた。
『ちょっと待ってよ。鬼や邪魂を機械で変えるってどうやって?』
『幽霊を閉じ込めようとするくらい変だよな』
峰春とザットが首を傾げる。
『幽霊なら護符なり御札なり、ふさわしい物で対応するさ。梁はともかく、ザットは【宿神学】でやったろう』
『【宿神学】なんてあるの? 叔母様に理事会の方に言ってもらって、個人講義してもらおう』
苦笑するシグに、真っ先に峰春が反応する。
『劉理事と理事会を振り回すな。テキストはやるから、独学しろ』
シグは溜息をついた。
『とにかく、【宿神学】で宿神や鬼について科学的に学ぶ。宿主も含め、力の仕組みなどはほとんど解っていないが、宿神の能力や力の応用はかなり研究が進んでいる』
『仕組みがわかんねぇのに、力の応用とか変じゃねぇ?』
ザットが首を傾げる。
『変じゃないさ。パソコンでも携帯でも、お前はどういう仕組みで動いて、何をどう作るかは知らなくても、使えるだろ?』
シグはあっさりと答える。
『組織のカリキュラムをことごとく拒否していたホンマが、唯一興味を持ち、教授連をうならせる知識を身につけたのが、その【宿神学】なんだ。その知識があるなら、あとは技術さえ手に入れれば……不可能ではないんだ』
シグは腰を落とし、白と黒の猫を見詰める。
『ありがとう、ユメ、ウツツ。何をすべきかはっきり見えたよ』
シグの言葉に白猫は愛想良く鳴き、黒猫はそっぽを向いた。
『あの変な機械を止めるのね?』
峰春の確認にシグは頷く。
『まずは…あの機械を止めて、完全に破壊…』
シグの言葉にザットと峰春が頷く。
『ありがとな、ユメ、ウツツ』
ザットが黒猫と白猫を抱き上げた。
「みゃぅ」
白猫は愛想良く鳴き、黒猫はふいっとそっぽを向く。
「ミュ?」
だが、シグが持ったままだった、本間の資料を目に留め、不思議そうな声をあげた。
「ミャォッ?」
ザットの腕からシグの肩に飛び移り、紙を覗き込みながら黒猫が問いかけるように鳴く。
『何だ? …あぁ、この住所か。ホンマは両親が生きていた頃、何度も引越しをしている。その全ての所在地が記されているから、この数だ』
シグが黒猫に答えた。
「みゃ?」
「ミュ…ミャゥ」
ザットの腕の中から首を傾げる白猫に、黒猫はひとつの住所を告げた。
「…みゅ?」
「ミャー…ミュ…ミャン…」
『どうした? 何か、引っ掛かることがあるのか?』
猫神たちがしきりに首を傾げつつ交わす鳴き声に、ザットが問う。
二神は顔を見合わせる。
「……ミャ」
「…みゃぉん」
それから創樹に確認してから教えることを告げた。
「みゃ」
「ミャウ」
それからこれ以上用がないなら、創樹の元に帰っていいか、尋ねる。
『ああ。ありがとう。また、何か判ったら知らせる。そちらも判ったら教えてくれ』
『…ソウ、大変だろうな…。すぐにあのホンマを捕まえような』
シグが頷き、ザットが黒猫と白猫の頭をクシャッと撫でた。
二神は二人に鳴き声をあげ、姿を消してから、跳んだ。
『さて、俺たちも一旦帰って、情報の整理だ』
シグの言葉にザットと峰春は頷き、跳んだ。




