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1章は、シーンがばらけていて、読みにくいかもしれません…
今後につながるピースをばらまいてる感じなので…
笑いあう男子生徒たちが、雪崩うつように、がやがやと飛びだしてくる。
高校の正門前は、この時間帯、いつにもましてにぎやかだ。
「久保田っ!! 何日無断欠席してんだ、お前はっ! 生徒指導室に来いっっ!!」
「や~だよっ。じゃァなー」
教師の怒鳴り声に追われながら、遼介は下校中の生徒の間をぬって駆けてゆく。
校門から大分離れたところまで一気に駆け抜けた遼介は、もう追いつかれることはないだろうと立ちどまり、大きく息をついた。
歩調を変え、のんびり歩きだそうとした時。
ポンッとその肩に誰かが手を置いた。
ぎくりと身をすくめつつ振り返る。
「………何だ、哲哉か…。脅かすなよ」
ホッと息をついて、自分の顔を見て笑っている男に毒づいた。
「お前のクラスの担任、お前の名前叫びながら校門のトコうろうろしてたぜ? いいのか? 戻らなくて」
「冗っ談じゃねぇ。誰が戻るか。生徒指導室なんか行ったら俺、ブッチーとタカ先とツラつき合わせてみっちり説教だぜ。相手が綺麗なお姉ェ様ならともかく」
担任と学年主任の名を出し、遼介はぼやいた。
「学校サボりまくる遼介が悪いんだろが。どうだ? 軽井沢は過ごしやすかったか?」
「っだ~、やっぱあの噂バラまいたのお前か! くだんねぇこと言ってんじゃねぇよ。俺が例の廃ビルで時間潰してんの知ってるくせに!」
「あそこは俺とお前の別荘だろうが」
「最近行ってねぇくせ、よく言うぜ。お陰でブッチーに問い詰められるし…」
「別荘はたまにしか行かないから別荘って言うんだぜ? お前もそろそろ落ち着けよ」
「学校でのみ優等生のふりしてる哲哉にだけは言われたくねェ。話大きくしたのお前だろ」
遼介の口調に哲哉は吹き出した。
「確かにな…。お前は要領が悪いんだよ、昔から。お前、顔だけはいいからイイ子ちゃんぶって適当に振舞ってりゃセンセーからの評判上がるし、ぜってー今よりモテるぜ?」
「その『だけ』を妙に強調すんなよ。俺は顔しかとりえがねェのか」
「あぁ、あと逃げ足? 運動神経いいもんなぁ…」
「それ褒めてねぇだろ。ったく」
遠慮なく軽口を叩く哲哉に、遼介は拳を入れるまねをした。
成績優秀でそつのない哲哉と、劣等生で悪目立ちばかりする遼介は幼馴染で、親友だった。
正反対にも見える二人だが実にそりが合い、互いにずけずけと言いたいことを言い合う。
「それより今日、博たちとメシ食ってカラオケ行かねェか? あと、港南高校にいる博のダチが、女友達数人連れて来るんだと。メンツ足んねぇんだよ」
哲哉に誘われ、遼介は眉根にしわを寄せた。
「ヤダね。面倒」
「そう言わずに。お前に似合わず純情だから、こういう時にでも彼女作っとけよ。ただでさえ男子校で出会いないしな。社会復帰、社会復帰。今日、暇だろ?」
「特に予定はねぇけど…」
「だったらいいじゃん。けってー」
半ば強引に己を誘う哲哉の、密かな気遣いが、ちょっとだけ嬉しかった。
* * *
「助けて、神父様っ!」
夕べの祈りの時間、教会に一人の女性が飛び込んできた。
「神父様、子どもが…子どもが急に暴れだして…。助けて下さいっ!」
ずいぶんと取り乱した様子に、神父が彼女へ歩み寄る。
「子どもが、暴れる…?」
「そうです! 突然、何かがとり憑いたみたいに…」
「もしや……」
神父は一瞬何かを考える。
「…わかりました。すぐに参りましょう。……シスター松野、ここをお願いします」
まず女性に声をかけてから、神父は修道女を振り返る。
慌てた様子でシスターも返事をした。
「私もご一緒します」
シスター松野の隣にいた四〇代半ばくらいのシスターが、神父の元へやってきた。
神父がひとつ頷くと、心得たそのシスターは神父の荷物を急いでとりに行く。
「行きましょう。ご案内いただけますか?」
そのシスターが戻ってくるとすぐに、神父は女性に声をかける。
言葉の途中で、女性は教会のドアへと向かっていた。
「ぐるるるるる」としか表現しようのないうなり声に続き、「ぐぅあぁぁおぉぉぉ」と獣のが家中に響く。
女性の案内でその部屋に踏み入った神父とシスターは、なるほど、女性の言葉を再認識した。
「神父様、優梨江が…娘が…っ!!」
女性の夫だろう。部屋に入って来た神父を見て、男が声を上げた。
その腕の中には、五・六歳くらいの女の子。
男の腕から抜けだそうともがく、その小さな体を、必死で拘束している。
大の男に押さえこまれてなお、女の子はもがくことをやめない。
いや、すでにその力も形相も、幼子のものではなかった。
神父の姿を認めると、女の子はますますひどく暴れ、父親の腕を逃れようとした。
何かに憑かれたようなその様子は、現代の根底にある科学信奉を否定するような光景だった。
室内は荒れ、机や椅子が転がり、カーテンは引き裂かれ、小物類はことごとく破壊されている。
「まさか…こんなことが本当に……」
シスターが呆然と呟いたその言葉には、何かしらの含みがあった。
「……こんな身近にまで魔の手がのびていようとは…」
神父もシスターと同じ含みをもってつぶやく。
「神父様っ! 娘は一体…っ…」
つかみかからんばかりの勢いで、母親が神父につめ寄る。
「………最近、このような症状で教会に助けを求められるケースが多いんです。原因は不明。病院に行っても効果はなく…。…信じがたいことかと思いますが、悪霊の仕業ではないかと、最後のよりどころとして教会に来られるんです」
「まさか、娘が悪霊にとり憑かれている、などと…? 馬鹿な…。大昔の人間が信じるならともかく、そんなこと…」
神父の発言に父親は娘を必死に拘束したまま、はき捨てる。
「信じられませんか?」
神父の言葉をかき消すように咆哮が響き、父親の頬が引きつった。
非常識な事態は、確かに目の前で起きていた。
「神父様、では娘は悪霊に…? 助かるんですかっ!? まさかこのままなんて…」
母親はすがるように神父を見つめ、シスターも固唾をのんで神父の言葉を待つ。
「いずれにせよ、私は神父としてできることをします」
重々しい口調で、神父は幼子を見つめ、言った。
「………悪魔祓いの儀式をしてみましょう」
神父の言葉に、シスターが頷いた。
* * *
量が少ない気がしたので、連続投稿