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神宿り  作者:
第3章
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41/103

1

「ライオンが一匹。狐が一匹。猫が二匹、一角獣(うま)が一匹…」

 男は独白する。

「……まだだな…」

 遠巻きに控えていた数名の黒装束の人間たちに、男のつぶやきは理解できない。

 男の方では己を取り巻く人間を犬猫のように思っているのか、問いかけるような瞳を黙殺し、一瞥(いちべつ)もくれない。

(もう一人の男…あの男が持つのも高位神に違いない。でなければあの数の邪魂(じゃこん)()を相手には出来まい…。しかし、妙だ。人間の数に対して獣が多い…)

 男は心の中でつぶやく。周囲の者たちに理解できるとは思えなかったし、理解してもらう必要もなかった。


「まだ誰一人身元は割れないのか?」

 男は空間に問う。

(あの化け物を飼う組織の人間ならば、割れなくとも不思議はないが…)

「後から教会に踏み込んだ四人の人間…中年の男と若い男二人、それに、子供の身元は割れましたが…」

 怯えたように遠慮がちに報告する黒装束の一人。

 男は無言で手をさし出した。


 その仕草にはじかれたように男に応えた人間は、内線で連絡を入れた。

 しばしの後、男がドアに手を伸ばす。

 触れられもせず、ドアが開いた。

 ドアの外に立っていた人間が一瞬ビクリと立ちすくみ、慌てたように一礼すると、男に持っていた紙を差し出す。


 男は受け取り、あごでドアを示した。

 紙を渡し終えた男は一礼し、逃げるように外へと出て行った。

 男はそんな男をちらりとも見ることなく、手元の紙に視線を落とす。


 一枚目、二枚目、三枚目…。

 最後の一枚で男の手が止まる。

「このガキは…」

(以前乗っ取ったガキに違いない…)

 一瞬目を細め、鋭い光をその瞳に宿すと、男は他の三枚を改めて見直す。

(泰善高校教師に、泰善高校の生徒二人…)

 男は紙を捨てるように床に放ると―――消えた…。


    *     *     *


 来た。

 創樹は振り返ると同時に右手をかざした。

 その腕には飛天が。間近に迫っていた鬼が、飛天の吐いた炎に、浄化される。

 創樹は淡い笑みにも似た表情を口許に浮かべて飛天に頷き、飛天は一声鳴いて、消えた。


 軽い倦怠感(けんたいかん)に創樹はひとつ、息をつく。

 判っている。

 ここ最近、力を使いすぎている。

 以前は鬼の気配があるところを歩き回って、こちらから出向いて浄化させていたが、ここ数日、何故か鬼の方から現れる。学校でも、家でも、路上でも、ところ構わず、時間も構わず…。

 まるで創樹を狙うように…。

 いや、恐らく本当に狙われているのだろう。

 先日あのシグと云う青年から電話がかかってきた。そうとはっきり告げられたわけではないが、どうやらあちらにも、狙ったように鬼が送られて来ているらしい。


 頭を振り、気を取り直す。

 学校ではなるべく人気のない場所ばかりを選んで過ごしていたが、誰かに見られでもしたら、またその人の記憶を改ざんしなくてはならない。余計に力を使ってしまう。

 近づいてくる鬼の気配。

 だが、その気配は創樹の元に届かず、掻き消える。


「…………………」

 創樹は軽く安堵の息を吐いた。疲れればその分、注意力も散漫(さんまん)になる。

 これ以上の疲労はさけたいが…。

「みゅ?」

 白猫が肩口で鳴き、創樹の頬に擦り寄る。

「ミャー」

 黒猫もちらりと創樹を見上げ、足に軽く体を擦りつける。

「ありがとう、(ゆめ)(うつつ)

 創樹は小さな笑みを浮かべ、地面にいる黒猫も抱き上げた。

 意地っ張りなこの子まで擦り寄ってくるということは、猫たちにかなりの心配をかけているようだ。

 ふと、体内からわきあがってくる感覚に、創樹は淡い苦笑を浮かべた。

「うん。ありがとう、砕牙(さいが)

 そっとつぶやいた。


 そんなつかの間の休息を破るように、携帯が鳴る。『谷村哲哉』からだ。創樹は嫌な予感に、微かに眉根を寄せる。

「はい」

 創樹は電話をとった。

『神代さんっ!? さっき、何か変な男が来て…遼介が…』


「今、どこですか?」

『遼介、暴れるから、学校近くの廃ビルにとりあえず連れ込んだ。タカ先…石原先生もいる』

「すぐ行きます」

 創樹はそれだけ言うと、電話を切った。


 一角獣を呼び出そうとして、ふと思いとどまり、周囲に人影がないのを確認して、創樹は白虎を呼び出した。

「……………」

 虎がもの言いたげに創樹を見上げるが、創樹は淡い微笑を口許に浮かべて、虎に頷いた。やれやれ、とばかりに虎が息をつき、創樹に背を示す。

 猫たちはいつの間にか消え、創樹は虎に飛び乗った。フッとその姿が掻き消える。


 風が生じた。

 木の葉がゆれ、屋根の上で遊ぶ雀たちが散る。

 やがてその風は、廃ビルへと近づくが、ふいにやんだ。

 次の瞬間、創樹の姿がそこにあった。どこからともなく現れた黒猫は地面へ飛び降り、白猫は創樹の肩に登った。虎の姿はない。創樹は警戒したように周囲を見回してから、眉根を寄せ、それからひとつ頭を振ると廃ビルまで残りの距離を駆ける。黒猫がその脇を駆けた。


 ビルに飛び込むと、うめくような人の声が聞こえる。

「神代さん!」

 哲哉が駆け寄ってきた。

「こっち」

 創樹は哲哉に導かれるまま、その部屋に入った。

「今、ちょっとおとなしくなったんだけど…すっげー苦しんでて…」

 部屋の隅に石原に抱えられるようにうずくまる遼介。

「何があったんですか?」

 携帯を再び取り出しながら創樹は問う。


「俺と遼介、帰ろうとしてたら…突然行く手に男が現れて。何となく危険感じて逃げながらセンセも呼んで。けど…向きを変えても、次の瞬間…目の前にいるんだ。逃げ切れなくて…そいつ、俺と遼介の頭に触って…。俺の手はすぐ離したんだけど、遼介の頭に当てた手は離そうとしなくて…そしたら遼介、苦しそうにわめきだして…」

 シグに連絡をとりつつ、創樹は眉根を寄せた。

『傍にいらっしゃるんでしょ? 出てきて下さい』

 創樹はそれだけ告げると、電話を切った。


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