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神宿り  作者:
第2章
39/103

22

『サイガ、ここの結界はどれくらいもつ? 強度と時間…』

 シグの言葉に、砕牙はそちらを見やり、瞳を鋭くした。

 一角獣が軽い(いなな)きを上げる。

 シグはライオンを見やった。


『本当か…? 監視の目も?』

 シグの言葉に、馬と虎は頷く。

『……そうか…。送り込まれる邪魂と鬼がいないのであれば、よほどのことがない限り…』

 シグがつぶやいた時、カラッと、机や椅子の残骸(ざんがい)を積み上げていたところから、音がする。一瞬にして皆はそちらを見やる。


『何だ…?』

 ザットが眉根を寄せるその目の前で、机や椅子が微かに動き…

 ガタッ…カタカタッと音を立てて内側にくぼむように崩れた。


『な、何なのよっ!?』

 峰春が警戒したように後ずさり、雲が姿を現した。

『…生き物の気配はしない。鬼や、邪魂でもない…』

 シグがつぶやき、一歩踏み出そうとする。

 と、砕牙が小さな優しいうなり声を漏らした。


 みなが振り返る。

「そーじゅお姉ちゃん?」

 優梨江がそちらを見やり、目を丸くした。

「砕牙…」

 創樹が目を開けている。天井を見つめていたそのまぶたが閉ざされ、己を包む虎に頭を預けた。虎が気づかうように喉を鳴らす。

「…ありがとう、砕牙。大丈夫…」

 創樹はゆっくりと砕牙から顔を上げた。辺りを一瞥(いちべつ)しながら、ゆっくりと体を起こそうとする。

 砕牙が創樹の背を押し、座らせた。


「ミュ?」

「みゃう?」

「ありがとう。大丈夫だよ」

 創樹は幻と現に頷く。

 それから頬を寄せてくる一角獣の鼻面と、擦り寄ってくる鳥の背を撫でた。


「…神代さん…?」

 遠慮がちに哲哉が声をかける。

「…危険じゃないのか?」

 思わず石原が問う。

「…危険はありません。皆、優しい子たちです」

 創樹は静かに石原に告げた。

 その言葉を聞いて、恐る恐る、という様子で優梨江が創樹に近付く。


「もう、大丈夫だよ、優梨江ちゃん」

 それに気付いて、創樹は頷いた。

「そーじゅお姉ちゃん」

 優梨江が創樹に抱きつく。

 優梨江を抱きとめた創樹の瞳が、シグと交錯する。


『サイガとショウハによれば、つい先ほど鬼や邪魂の送り込まれる気配がなくなったそうだ』

 シグの言葉に、創樹が静かに頷いた。

『だが…もう今はないが、同じく先程まで、ここに監視の目が向けられていたと、サイガとロードが』

 続く言葉に、創樹は微かに眉根を寄せ、砕牙を見やる。砕牙が頷いた。


『…間違いなく、この騒ぎを起こした人物が…』

『ああ』

『どうもいけすかねぇぜ。来るなら堂々ときやがれっての』

 創樹の言葉にシグは頷き、ザットは苛立った様子で言った。


『…彼と、その子は注意しておいたがいいかもな』

 シグが遼介と優梨江を視線で示す。

『…ええ。…巻き込まれすぎていますね…』

『君もね』

 そっと呟く創樹に、さらりとシグは告げた。


『…………………』

 創樹はシグを静かな瞳で見上げる。

『我々がチームで動くのは、いくら宿主とて、時に一人ではどうにもならぬことがあるからだ。手の回らないことも。よって原則、三人でチームを組む。二人では判断ミスも生じかねないし、警戒のゆるむ隙も出来かねない。だが…』

 シグは冷静に、淡々と言葉を重ねる。


『君は単独、厄介ごとに首を突っ込んでいる。俺が監視していたヤツなら、今後俺たちと君が別行動をしていると知れば、当然君をまず狙うがね?』

『おいおいおい。ソウを怖がらせる気かよ』

『事実を告げているだけだ』

 思わず突っ込むザットを、シグはさらりとかわす。


『大丈夫なんじゃないの? そんなにた~くさん、宿神がいれば』

 峰春が肩をすくめる。

『わかってないな。ひとつの体をこれだけ多くの宿神が共有してるんだ。つまり、彼女一人を潰せば、サイガ始め、五柱を一気に潰すことが出来る…』

 シグは淡々と峰春に告げた。


『おまけに力の供給源となる彼女は、一人で五柱を支えなくてはならない。今回のように全ての宿神を一気に解き放ち、力を使わせれば、本来なら疲れるどころじゃすまないはずだ。下手をすれば彼女自身の命を削る』

 さすがにその言葉に、峰春とザットは創樹を見つめた。


『…構いませんよ』

 創樹は静かに頷く。

『私の命がこの子たちの役に立つというのなら、それで構いません。…砕牙と出会った時から、私の命は砕牙と…この子たちのものです』

 どこまでも穏やかに、創樹は告げた。


『何故…? …と、聞いても答えてくれないだろうな。とにかく、注意は怠らないことだ。誰よりも君が首を突っ込みすぎている』

 シグは淡々と告げた。

『…………………』

 創樹はしばしシグを見つめ、それから砕牙に瞳を向ける。しばし砕牙と見つめ合った後、再び創樹はシグを見た。


『…優しいんですね』

 創樹が淡い微笑にも似た表情を浮かべる。

『…どうしてそうなる』

 シグが片方の眉を持ち上げ、ザットと峰春は顔を見合わせた。

『無理に事情を聞きださない。その上、本来は自分で気づくべきことに注意をうながして下さった』

 創樹も淡々と答える。

『…………まぁ、とにかく、ここを何とかしよう』

 シグは肩をすくめ、ライオンと共に一旦消えた。


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