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『サイガ、ここの結界はどれくらいもつ? 強度と時間…』
シグの言葉に、砕牙はそちらを見やり、瞳を鋭くした。
一角獣が軽い嘶きを上げる。
シグはライオンを見やった。
『本当か…? 監視の目も?』
シグの言葉に、馬と虎は頷く。
『……そうか…。送り込まれる邪魂と鬼がいないのであれば、よほどのことがない限り…』
シグがつぶやいた時、カラッと、机や椅子の残骸を積み上げていたところから、音がする。一瞬にして皆はそちらを見やる。
『何だ…?』
ザットが眉根を寄せるその目の前で、机や椅子が微かに動き…
ガタッ…カタカタッと音を立てて内側にくぼむように崩れた。
『な、何なのよっ!?』
峰春が警戒したように後ずさり、雲が姿を現した。
『…生き物の気配はしない。鬼や、邪魂でもない…』
シグがつぶやき、一歩踏み出そうとする。
と、砕牙が小さな優しいうなり声を漏らした。
みなが振り返る。
「そーじゅお姉ちゃん?」
優梨江がそちらを見やり、目を丸くした。
「砕牙…」
創樹が目を開けている。天井を見つめていたそのまぶたが閉ざされ、己を包む虎に頭を預けた。虎が気づかうように喉を鳴らす。
「…ありがとう、砕牙。大丈夫…」
創樹はゆっくりと砕牙から顔を上げた。辺りを一瞥しながら、ゆっくりと体を起こそうとする。
砕牙が創樹の背を押し、座らせた。
「ミュ?」
「みゃう?」
「ありがとう。大丈夫だよ」
創樹は幻と現に頷く。
それから頬を寄せてくる一角獣の鼻面と、擦り寄ってくる鳥の背を撫でた。
「…神代さん…?」
遠慮がちに哲哉が声をかける。
「…危険じゃないのか?」
思わず石原が問う。
「…危険はありません。皆、優しい子たちです」
創樹は静かに石原に告げた。
その言葉を聞いて、恐る恐る、という様子で優梨江が創樹に近付く。
「もう、大丈夫だよ、優梨江ちゃん」
それに気付いて、創樹は頷いた。
「そーじゅお姉ちゃん」
優梨江が創樹に抱きつく。
優梨江を抱きとめた創樹の瞳が、シグと交錯する。
『サイガとショウハによれば、つい先ほど鬼や邪魂の送り込まれる気配がなくなったそうだ』
シグの言葉に、創樹が静かに頷いた。
『だが…もう今はないが、同じく先程まで、ここに監視の目が向けられていたと、サイガとロードが』
続く言葉に、創樹は微かに眉根を寄せ、砕牙を見やる。砕牙が頷いた。
『…間違いなく、この騒ぎを起こした人物が…』
『ああ』
『どうもいけすかねぇぜ。来るなら堂々ときやがれっての』
創樹の言葉にシグは頷き、ザットは苛立った様子で言った。
『…彼と、その子は注意しておいたがいいかもな』
シグが遼介と優梨江を視線で示す。
『…ええ。…巻き込まれすぎていますね…』
『君もね』
そっと呟く創樹に、さらりとシグは告げた。
『…………………』
創樹はシグを静かな瞳で見上げる。
『我々がチームで動くのは、いくら宿主とて、時に一人ではどうにもならぬことがあるからだ。手の回らないことも。よって原則、三人でチームを組む。二人では判断ミスも生じかねないし、警戒のゆるむ隙も出来かねない。だが…』
シグは冷静に、淡々と言葉を重ねる。
『君は単独、厄介ごとに首を突っ込んでいる。俺が監視していたヤツなら、今後俺たちと君が別行動をしていると知れば、当然君をまず狙うがね?』
『おいおいおい。ソウを怖がらせる気かよ』
『事実を告げているだけだ』
思わず突っ込むザットを、シグはさらりとかわす。
『大丈夫なんじゃないの? そんなにた~くさん、宿神がいれば』
峰春が肩をすくめる。
『わかってないな。ひとつの体をこれだけ多くの宿神が共有してるんだ。つまり、彼女一人を潰せば、サイガ始め、五柱を一気に潰すことが出来る…』
シグは淡々と峰春に告げた。
『おまけに力の供給源となる彼女は、一人で五柱を支えなくてはならない。今回のように全ての宿神を一気に解き放ち、力を使わせれば、本来なら疲れるどころじゃすまないはずだ。下手をすれば彼女自身の命を削る』
さすがにその言葉に、峰春とザットは創樹を見つめた。
『…構いませんよ』
創樹は静かに頷く。
『私の命がこの子たちの役に立つというのなら、それで構いません。…砕牙と出会った時から、私の命は砕牙と…この子たちのものです』
どこまでも穏やかに、創樹は告げた。
『何故…? …と、聞いても答えてくれないだろうな。とにかく、注意は怠らないことだ。誰よりも君が首を突っ込みすぎている』
シグは淡々と告げた。
『…………………』
創樹はしばしシグを見つめ、それから砕牙に瞳を向ける。しばし砕牙と見つめ合った後、再び創樹はシグを見た。
『…優しいんですね』
創樹が淡い微笑にも似た表情を浮かべる。
『…どうしてそうなる』
シグが片方の眉を持ち上げ、ザットと峰春は顔を見合わせた。
『無理に事情を聞きださない。その上、本来は自分で気づくべきことに注意をうながして下さった』
創樹も淡々と答える。
『…………まぁ、とにかく、ここを何とかしよう』
シグは肩をすくめ、ライオンと共に一旦消えた。




