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いよいよ本格的に動き出しました。
「ただいま」
「お帰りなさ~い、パパ」
部屋の中からいつものように飛び出してきた幼い娘を見て、男はおやっという顔をした。正確に言えば、娘の肩に乗っている猫と、娘に引っ張られて出てきた少女に対する反応である。
「…お邪魔しています」
少女が会釈した。
「あのね、そーじゅお姉ちゃんと、ゆめとうつつ。教会で会ったの」
部屋に入りながら優梨江が説明する。
「お帰りなさい。優梨江ったら創樹ちゃんと離れるのは嫌だ、って、帰る時に猫質とってだだこねるのよ。だから夕飯の時間までお引止めしちゃって…」
キッチンから顔を出して、優梨江の母親がクスクスと笑った。
岡崎家の主人は出張帰りで、日曜出勤のかわりに、明日が休みだと創樹は聞いていた。
「さ、ご飯にしましょ」
優梨江の母親はそういってキッチンに引っ込む。
「しかし、それは災難だったなぁ…。君かい? 人質ならぬ猫質にとられたのは…」
ダイニングの椅子に腰かけながら、我がもの顔で部屋を横切る黒猫に声をかける。
黒猫は一声鳴くと、何かを示した。
「ん? ……あぁ、白い毛の君の方か…」
「みゅ」
白猫が返事をする。
やがてテーブルに皿が並べられ、食事になった。猫たちは優梨江の手で再びミルクとチーズを与えられている。
食事中も変わらず創樹の口数は少なかったが、優梨江はちっとも気にせず、創樹の分までしゃべっていた。
「それでね、いっぱいお歌を歌ったの。でも、そーじゅお姉ちゃんの歌が、一番綺麗だったなぁ…」
「ええ。とっても綺麗な歌声だった。それに、創樹ちゃんがいてくれて助かったわ。今日は子どもたちが退屈して騒ぎ出すこともなかったし、お母さんたちとたくさんおしゃべりできたのよ」
談笑の絶えない食事が終わり、創樹は後片付けを手伝った。
皿を食器棚に仕舞いながら、優梨江の母は、ちらっとリビングで猫と遊ぶ優梨江を見た。
「ありがとう、創樹ちゃん」
片付けを終えると、改まった様子で創樹に礼を言う。
「あの子…最近元気がなかったの。びくびくしたり、急に泣き出したり…」
「…………………」
「家にも居たがらないことがあって…。でも、創樹ちゃんに会ってからは、あの子、ずっと笑ってる…。本当に、ありがとう」
丁寧に母親は告げた。
「…さ、行きましょ」
それから創樹を促し、リビングへ。
「お姉ちゃん、今日はお泊りして? ゆりえと一緒のベッドで寝よう?」
リビングに創樹が入ってくるなり、優梨江が抱きついた。
「優梨江、無理を言ってはだめだよ。お姉ちゃんは明日、学校があるんだし…」
父親が優しく諭す。優梨江はかたくなに首を振り、白猫を抱き上げた。
黒猫は猫質にされるのはごめんだ、とばかりに飛びのいている。
「お姉ちゃん、ゆりえと一緒に居てくれなきゃやだ…」
娘のわがままに困った顔を見合わせる両親に構わず、創樹は膝をつき、優梨江の頭を撫でる。
「残念だけど優梨江ちゃん、私はそろそろ帰らなくては…」
創樹の言葉に、優梨江の顔がクシャッとゆがむ。
「でも、大丈夫。帰る前に、優梨江ちゃんの怖いもの、全部追い払うから」
泣き出しそうだった優梨江の顔に、光がさした。
「ホント…?」
創樹は優梨江に頷いてみせる。




