発散
選挙まで、残り30日をきった。
「お願いです! この子だけは!」
「無理な相談だなぁー 、てめぇはゲームに負けたんだろう?」
「お願いします!お願いします!」
「うるせえんだよ!」
スキンヘッドの男は、女性を力の限り吹き飛ばした。女性は壁に身体を打ち付け、うめき声をあげて倒れた。
「ハン、手間かけさせんじゃねえ。」
「ママぁーー!!!」
スキンヘッドの男にかつがれた少女は叫んだが、女性にはもう立ち上がる力もなかった。
「誰か…誰か……お願い…」
女性は地面をかきむしりながら言った。
スキンヘッドの男が立ち去ろうとしたその時だった。
「イカサマをして子供をさらうなんて、趣味が悪いねえ、ハゲ。」
ピタリと男の足が止まった。
「てめえ…もう一回言ってみろ…」
「イカサマをして子供をさらうなんて、趣味が悪いねえ、ハゲ。」
男のこめかみに青い筋が入った。
「丸々復唱してんじゃねえぞ!コラァ!」
スキンヘッドの男は怒りの形相で振り向いた。 視界に入ったのは、白髪の少年だった。
「もう一回言った方がいいか?ハ、ゲ。」
かけるの言葉を聞いて男は最初怒りに震えていたが、かけるの姿を見た途端、ニヤリと笑ってみせた。
「これはこれは、ペテン師さんじゃありませんか。 選挙活動、ご苦労様です。」
男はたっぷりと皮肉を込めて言った。
「誰がてめえなんかに票をいれるんだろうなぁ!ペテン師ィ!」
男はそう言って高笑いした。
「確かにそうだな。」
かけるは言った。意外な発言に、男は笑うのをやめた。それを見計らうかのように、かけるは続けて言う。
「だから俺は、ある手段に出ることにした。」
「ああ?」
「お前みたいなイカサマヤロウを、全員牢獄送りにしてやるのさ!」
薄笑いを浮かべるかけるに、男は少したじろいた。
「…俺も牢獄送りにするってか?」
「もちろんだ。」
男のこめかみに、再び青い筋が入った。
「なめてんじゃねえぞコラ… あんまりガキが調子にのってるとなぁ…ああ? 大人は怖いぞう?ええ?」
脅してくる男を、かけるは鼻で笑った。
「ハッ、ジェットコースターの方が百倍怖いね。」
その時、ついに男の堪忍袋の尾が切れた。
「上等だコラ!ペテン師ィ!俺と賭けろやァ!」
「その言葉を待ってたよ、マルガリータ。」
「本当に…有難うございます!」
女性は、そう言って深々と頭を下げた。女性の横には、指をしゃぶる女の子が立っている。
かけるはスキンヘッドの男に圧勝し、子供を取り返すことに成功したのだ。
「いえ…大したことでは…」
「本当に、ありがとうございます!!」
対応に困るかけるだったが、女の子の純粋無垢な目を見て、軽く息をついた。
良かったな…
そう心でつぶやき、かけるは女の子の頭をなでると、その場を後にしたのだった。
大通りに出ると、建物にへばりつく巨大なモニターが目についた。
ニュースキャスターが、愛想のいい笑顔で話している。
『今日は最近話題の、この方をゲストに呼んでおります!』
『え…えと… よろしくお願いします!』
ゲストの少女は、少し緊張気味のようだ。
かけるはその少女を見て、くしゃくしゃと頭をかいた。
『嘘を見抜く、という特技をもっていらっしゃるんですよね?』
『あ…はい…!』
画面の中のココは元気良く返事をすると、キレのある敬礼をしてみせた。
『さらにその容姿から、ココさんのファンも大勢いるとか…!』
『ええ!?そうなんですか!?』
『し…知らなかったんですか…!?』
まるでコントのようなそのやり取りは、しばらく続いたのだった。
「まあ…これで一安心…か。」
かけるは画面を見てそうつぶやいた。
ココを数ヶ月ぶりに見たのは、つい最近だった。
その時もココは画面の中にいた。
かけるは最初、ココの姿を見て驚いていたが、同時に安心感もおぼえていた。
ココがこうしてテレビに出ているということは、少なくとも牢獄に幽閉されていることはない。そう思ったのだ。
「今頃…街のどこかを歩いているのか…家に帰っているか…はたまた…機関の牢獄に囚われているか…」
…王…サトリの言っていたことは真っ赤なウソ…いや、脅しだったってことか…
…そして、俺はもう月光刀を探す必要も理由もない。 あとは、この選挙…
かけるは考えを巡らせた。
「じゃあ俺も、そろそろやるか…!」
かけるはそう言うと、人混みの中へと消えて行った…。
「ココちゃん 、 お疲れ!」
マリはニッコリとして言った。
ココはマリの笑顔を見ると、ありがと、と笑みを返した。
マリは、犬のアレクのもとを去ったあと、ココを探し出し合流したのだ。 それ以来、ココとマリは共に行動していた。
「マリちゃん…私、本当にこれでいいのかな…」
ココは不安そうに言った。
「大丈夫! だって、決めたもんね!」
「うん…そうよね…」
ココは無理やり否定的な感情を押し殺した。
そう…私は…決めたの…
あの日、かけるとマリちゃんを探していた日だ。 突然街じゅうのテレビが同じ画面に変わった。 そしてなんと、あのかける似の王様が、いきなり王を辞めると言い出したのだ。そしてそれよりも驚いたことは、選挙にでるのがかけるってところだ。
あの日の2日後、私はたまたまマリちゃんと会うことができた。マリちゃんも、なぜかけるが選挙に出るのかは知らなかった。 マリちゃんは、「かける探す?」ときいてきたけど、断った。 今、かけるに会っても、私に何ができるだろう。また迷惑かけるんじゃないか。また足引っ張るんじゃないか。
ココは、ケイジとのポーカー戦を思い出した。
そして、私は決意した。自分のやり方でかけるの力になる。と。
それからココは、ウソを見抜くことができる、という妙技を駆使し、徐々に知名度を上げてきた。 ココには考えがあった。
自分が有名になり、かけるを応援することで表が集まるかもしれない。と。
作戦は順調に進み、選挙まで残り一ヶ月をきったあたりでテレビ出演までできた。
ココは拳を握りしめて言った。
「よしっ…。次のテレビで…言うわ。」
「? 何いうの?」
マリは不思議そうに尋ねた。
「もちろん、かけるに票を入れてください、ってお願いするのよ!」
「うわあ!ココちゃん すごい!!」
これで…少しはかけるの役にたてるかもしれない… いや、たてるわよ!私!
ココは、そう自分を奮いたたせたのだった。
「まさか…彼女がこう動くとはな…」
サトリは、王室でモニターを見ながら満足気に言った。
「てっきり、何も考えないで突き進むイノシシのようなものかと思っていたが…
ペテン師の影響かな…?」
「いかがなさいますか?サトリ様。」
サトリの側に控えていたユークは尋ねた。
すると、サトリはまたもや嬉しそうに、
「無論、続行だ。アクシデントはゲームにつきものだからな。」
と言った。
その時だった。突然王室の扉が勢い良く開いた。
ユークはすばやく戦闘態勢をつくり、目をギラつかせた。
だが、そこにいたのは暗殺者でも反逆者でもなく、あるポリスだった。
「大変です!サトリ様!」
ポリスは息をきらせて言った。
「無礼者!許可無しに王室に入ってくるなど…!」
「まあまて、ユーク。」
サトリは鬼のような形相のユークをなだめると、ポリスに尋ねた。
「どうした…?そんなに慌てて…」
「ぺ…ペテン師が…!」
「ペテン師…? ペテン師がどうした。」
サトリが尋ねると、そのポリスは乱れた息を押し殺しながら答えた。
「ペテン師が…捕まりました…!」
「………!?」
サトリはその報告に唖然としていた。
…捕まった…!?
「ベッドタウンの賭博場で…!次から次へとペテン師は…! プレイヤーを破産させたため、やむなく近くにいたメガロポリスの方が…!!」
「どう…なっている…!?」
選挙まで…あと何日か分かっているのか…!? なぜそんなバカなことを…?
「何を…」
サトリは珍しく、怒りの感情をあらわにして言った。
「何をしているんだ…!ペテン師ィ…!」
選挙まで、あと17日




