背水の陣
眩い光を放つ太陽に、かけるは思わず目を背けた。 深いため息をつくと、重い足取りで歩き始める。
俺は…負けたんだ。
かけるの脳裏には、あの‘裏切り’カードが焼き付いて離れなかった。
ゲームの決着がつくと、サトリはかけるに言った。
「では、賭けられたもの、つまりおまえに一つ命令する権利を早速使わせてもらう。」
その内容は意外なものだった。
「4ヶ月後、もう一度俺とゲームをしてもらう。それだけだ。」
そう言い放つサトリの前で、かけるは身動きがとれずにいた。そして、 一点をじっと見つめている。
その様子を見て、サトリはさらに言った。
「赤髪の女のことが気になるか? そうだな…月光刀を持ってくれば教えてやるよ。」
そう言って嗤うと、かけるに背を向けて言った。
「ゲームの内容は追って連絡する。 じゃ、楽しみにしてるぜ。」
そう言い残して、サトリは奥の暗闇に消えていった…
俺が今やるべきこと。
かけるは辺りを見回した。
まず、マリとアレクが何処にいるのか分からない。その辺で遊んでいるのだろうか。… そいつらを探しつつ、月光刀の捜索…か。 思ったよりしんどいな、これは。
かけるは立ち並ぶ店を見た。入る店を決めると、かけるは歩き出したのだった。
ー 時は少々遡り、一週間前
ココはゆっくりとドアを開けた。辺りはまだ暗い。 この時期の朝はまだ寒く、ココは思わず身体を震わせた。 かけるとマリの寝顔を思い浮かべながら、ココは花畑に囲まれた家を後にしたのだった。
ココは遊園地で出会った、犬の姿をしたアレクの言葉を思い出していた。
「ー この国の王がお呼びだ。 明日の早朝に、2人にばれないよう抜け出してこい。」
アレクはそう言ったのだった。 特に断る理由もなく、行かないわけにもいかなかったので、ココは言われたとおり静かに抜け出してきたのだ。
しばらく街を歩くと、そびえ立つ王宮が見えた。そばまで行き、その塔のような王宮を見上げていると、誰かの声が聞こえた。
「よお。来たか。」
アレクだった。ブルドッグの容姿を携えたアレクは、ココを手招きした。2人は共に王宮の中へ入っていった。
ココは王室へ案内された。王室に入り、王を見たときココは思わず あっ、と声を漏らした。
王はとてもかけるに似ていた。髪の色は対照的な黒だが、雰囲気といい目元といい、かけるにそっくりだった。
王は目にココを捉えさせると、ゆっくりと口を開き始めた。
「ようこそ、我が城へ。俺がこの国の王だ。 …まあ、サトリと呼んでくれ。」
「サトリさん…」
「君は…」
「あ、私、ココっていいます!えと…」
ココは、ずっと疑問に思っていたことを口にすることにした。
「なんで…私を王宮に…?」
その問いに、サトリはきょとんとした。
「なんだ、アレクから聞いてないのか? …実はな、俺は今月光刀という宝を探しているんだよ。 それで君を呼んだんだ。」
予想外の答えに、ココは えっ、と声をあげた。
「知っているかい?月光刀には、人の心を反転させる力があるらしいんだ。」
初めて聞く月光刀の力に、ココは戸惑っていたが、今はそれより気になることがあった。
「でも、なんで私が…?」
ココがそう尋ねると、サトリはニヤリと笑った。
「ある噂を聴いたのさ。君が…どんなウソでも見抜いてしまう…とね。」
その時ココは、自分のもつ能力をすっかり忘れていた。
そういえば私、そんなことできるんだっけ… それにしても…もしかして私、もう超有名人!?
突然目が輝きだしたココを見て、サトリは続けて言った。
「そこで、君に何日間か手伝って欲しいことがあるんだ。」
そう言ったサトリの表情には、どこか無邪気な子供のような色がみえたのだった。
王宮に来てから6日後、ココは街をぶらついていた。
ココが頼まれた手伝いとは、ある老人たちにただ質問をするだけという簡単な内容だった。 6日間それが続くと、ココは大量の報酬金を受け取り、王宮を後にしたのだった。
…思わぬ収入ね。 かけるとマリちゃん、きっと驚くだろうな。 あ、でも何も言わないで出てきちゃったから心配してるかも…。
ココは両腕に抱えた大金を見ながら、かけるたちの反応を予想して楽しんでいた。
しかしその時、かける達は既に家には居なかった。 かけるとマリは、ココの反対側の歩道の100メートル前方あたりを歩いている際中であった。 2人の目的地は、ココが先ほどまで滞在していた王宮だった。 ココと、かけるとマリの距離が徐々に近づいていく。
「…よかったのですか?」
ユークは、そうサトリに尋ねた。サトリは首をかしげた。
「…何がだ?」
「あのココという少女です。」
「…どうして?」
とぼけるサトリだったが、ユークはうろたえることなく再び尋ねた。
「サトリ様の話では、これからペテン師とゲームをすることになっております。しかし、ココという少女にペテン師がばったり会ってしまえば、ペテン師は目的を達成し、ここに来ることはないのでは…?」
「…確かにそうだな。」
「ではどうして…」
ハハハ、とサトリは笑った。
「愚問だな、ユーク。」
サトリは額に手を当て、無邪気な目つきでユークを見た。
「ゲームは既に始まっている…。違うか?」
やがて、かけるたちとココの距離は十数メートルまで近づいた。しかし、この日はたまたま車通りが多いのか、彼らは互いの存在に気付かない。 そして、ついに彼らはすれ違ってしまう。
「奴らが出会ってしまえばゲームオーバー。 俺の負けだ。 だがな…」
サトリは唇を舐めると、ニヤリと笑って言った。
「リスクの無いゲームに勝つことほど、くだらないものは無いだろう?」




