強い意思
恥ずかしさで街を離れた俺だが、時が経つにつれ段々と落ち付きを取り戻していた。ひとまず落ち着ける場所が欲しい。辺りを見回すが既に暗く、上空からでも休める場所を探すのは難しい。さてどうするかと考えていると自分の身体の異変に気付いた。
「身体から力が溢れている?。」
神のデススコルピオンを倒した事によって、俺の身体が大幅にパワーアップした。そして気付いた。
「神のデススコルピオンの魔石を取ってくるの忘れた。」
召喚術を発動して魔石を取り寄せる。右手のに魔石が現れそれを握る。大きさは他のデススコルピオンと同じ拳大だが色が違った。普通のは薄い赤色だが、こちらは濃い赤だ。
俺は魔石を洞窟の倉庫に送る。そしてふと思う。
「俺もあの洞窟で休みたい。」
すると召喚術が発動して俺の身体が魔法陣に包まれた。
気付くとそこは洞窟の一室、俺が寝転んでポテチを食べていた部屋に居た。
考えてみたら当たり前の事だった。この世界と元の世界とを繋げられるのに、この世界の違う場所に繋げられるのも当然だった。それに同じ世界をつないだ方が、元の世界と繋ぐより、使う魔力も大幅に少ない。これも神のデススコルピオンの力を吸収した所為か。
室内では動き辛いので、背中の大きな翼を消して動きやすくし、隠し部屋に向う。隠し部屋に入ると足元に一枚の封筒が落ちていた。俺は封筒を拾い中身を開ける。中には一枚の紙が入っていた。俺はそれを開き……
「かっこ良かったぞ。(*^。^*)」 by神
「………」
俺は紙を引き裂いた。いや神を引き裂きたい。絶対俺で遊んでいるよね、この人、いや神か。
もうね精神的に疲れたよ、今日はもう寝よう……、いやいやこのまま寝たらヤバい。
「このままだったら、青い鎧男の正体の疑いが俺に掛る可能性が…」
ばれたら、重蔵さんみたいに押しの強い人間に迫られて、こき使われる生活が始まるかもしれん。
俺は急いで飛竜の鎧に着替えて前と変わらない格好になる。そして俺が青い鎧に変身した場所の近くで送還術で自分を送る。
気付いたら、ポチャッと音がして水の中に落ちていた。まるで、どこかの芸人の罰ゲームみたいだ。
首だけ水から出している俺の目の前には、崩れた壁が薄明りの中見える。くそ、鎧が水を吸って少し重く感じる。俺は平泳ぎで壊された壁の手前まで泳ぐ。縁に手を掛けて水の中から身体を起こし立ち上がる。
体中水浸しだ。早く身体を拭いて着替えたいがそうもいかない。辺りを見回して見るが崩れた壁の周りには危険だからか人が近寄っていない。遠くの方に神のデススコルピオンを船に載せようとしている人々の姿が見える。
良く見ると、月明かりに照らされて神のデススコルピオンの周りにはゴメスやエド達の姿も見える。
「魔物の方へは人がいて、俺の安全を確かめに来る人はゼロですか……、ぼっちかぼっちが悪いのか。」
完全に気落ちした俺はゴメス達を一瞥すると館に戻る為に歩き出す。雨も降っていないのに、ずぶ濡れの俺が歩いているのに誰も俺に視線をよこさない。話しているのは青い鎧の騎士天使の話ばかり、まあその方が都合が良いんですけどね。でもね、なんか心が寂しい。ついでに腹が減ったがこの姿では店には入れない。
「どうするか」
周りを見渡すと、丁度揚げパンを売っている屋台があり、そこでパンを買おう。近くまで行き、屋台で揚げパンを売っている四十代のおばさんに揚げパンを一つ注文するが、
「あんた、その格好どうしたんだい。」
当然訊かれるわな。
「魔物の攻撃から逃げる途中で、堀に落とされてしまって。」
「なるほどね、早く着替えないと風邪ひくよ、まだこの時期は少し寒いからね。」
おばさんの優しさが今の俺には身に染みる。財布からお金を出そうとしたらお金も水で濡れているのに気付いたが出さない訳にもいかない。
「すいません、お金も濡れてしまって…」
申し訳なさそうにお金を渡す俺に
「そんなの気にしなくって良いんだよ、濡れてもお金はお金なんだからね。」
笑顔で濡れたお金を受け取り、お釣りを渡してくれた。なんか心が温かくなった。
行儀が悪いが食べながら館に向う。途中聴こえてくるのは青い鎧の騎士天使の話ばかり。話しの中で白銀の騎士とどっちが強いとか話しあっている連中がいたが、白銀の騎士て誰だ、そもそも自分の強さがこの世界に於いて判らないのだから比べようも無い。俺なんかより強い連中は沢山いるだろうし、まだ俺この世界に来て一カ月と少ししか経ってないし。
歩きながらこれからの事を考える。
「なんか流されているよな。自分の意志で生きていない感じ。多分俺は人に嫌われたくないのだと思う。人の顔色を窺って生きている。それではダメだと判っているが中々直らない。もっと気持ちを強く持たなければこの世界では死ぬだけだ。実際、青い鎧が無かったらヤバかっただろうし。」
帰り道の途中でエド君、ロイ君の乗る馬車が通り過ぎ、目の前で止まる。馬車の窓からエドが顔を出す。
「沖田さん無事でしたか、無線の定時連絡にも出なかったし心配していたんですよ。」
ああ、そうだった定時連絡を忘れていた。腰の革袋に入れてあった無線機も水で濡れてダメになっていた。
「済まない、水に落ちて無線機が使えなくなってしまったんだ。」
「えっ、無線機って水に濡れたら使えなくなるんですか?僕も濡らさない様に気をつけないと。」
現代人では常識でも、この世界の人には判らないか。
「そうだね、濡れたら使えなくなる場合があるから気を付けてね。」
「はい、判りました、とにかく早く馬車に乗ってください、そのままだと風邪を引いてしまいます。急いで着替えないと。」
俺はエド君の好意に甘えて馬車に乗った。濡れた体で乗って大丈夫だろうか。馬車の中では青い鎧の騎士天使の話ばかり、他に話題が無いのかね。
「それにしても凄かったですね青い鎧の騎士天使さんの戦いぶり、沖田さんは見ましたか。?」
見れる訳無いでしょ本人だし
「いいや見てないよ、堀の中から上がるだけで精一杯でそんな余裕は全然無かったよ。」
「そうですか、それは残念でしたね。神の装備同士の戦いなんて滅多に見られないのに。」
「神の装備同士の戦い?」何ですかそれは
「そうでしたね、沖田さんはこの世界に来てまだ日が浅いんでしたね神の装備とはですね…」
神の装備、それは神の魔物を倒すと得られる神が作りし装備、その強力さ故に求める者は後を絶たない。しかし色々と問題も有る。倒すと得られる力は強大だが、魔物が残す装備で問題が起こる。個人で倒す分には問題は無いが、パーティで倒すと残された装備に最初に触った者が所有者となり、その者しか装備を使えなくなる。だからパーティ内で装備を巡って争いが起きる。しかも所有者が死ぬと装備も消えて無くなる。それだけではない。お気に入りの魔物を殺されて神様が地味に嫌がらせをしてくる。財布を落としたり、転びやすくなったりと小さい不幸が暫く続くそうだ。地味に辛いらしい。
そんな神様に同情される俺って一体……はあ~
俺の落ち込みに気付いたエド君が、
「どうしたんですか、溜め息なんか吐いて気分でも悪くなったのですか。」
「何でもないよ、少し疲れただけだ。ところで神の魔物ってこの世界ではどれくらいの強さなの?」
是非そこの所を聞きたい、この世界の強さの基準になるし。
「そうですね、神の魔物に出会ったら必ず逃げろと教えられています。まず逃げられません。何人かが犠牲になりますね。一人なら完全にアウトですね。」
そんなに恐ろしい魔物だったの神の魔物って、下手したら死んでるよ俺、知らないとは恐ろしい、良く生き残れたよ俺、自分で自分を褒めてあげたい。
「例えば剣士千人長と魔術師で神の魔物に闘いを挑んだら勝てるかな?。」
「やけに具体的ですね。戦っている場所にでも出くわしたの?。」とロイ
「いや、出会った人で2人ともかなり強かったから戦ったらどうなるのかと思って」
スラスラと嘘が出る。伊達に社会で修羅場を潜ってないぜ。半分は本当なんだけどね。
「そうですね、神の魔物の種類と魔術師の強さによりますけど、かなり分が悪いですね、安全に確実に勝つには、もう二、三人同じ強さの剣士が欲しいですね。」
えぇぇぇ、何その無理ゲー、そんな奴らに殺虫剤とかぶっ掛けてたのかよ、恐ろし過ぎる。
「剣士千人長の職業の人ってこの国に沢山いるの?」
「いいえ、この国にも数人いるかどうかの強さの高い職業ですよ、長い修練の果てにしかなれませんから。」
重蔵さんて凄い人だったんだな。護衛の人も重蔵さんを守る為に犠牲になったし、そんな皆から慕われる人に俺もなりたいものだ。重蔵さんは俺にはドエスだったけど。
「神の魔物が出たら急いで逃げる事にするよ、でも一人だから難しいけど…」
「それしかないですね。沖田さんは召喚送還師なんですから」
エドとロイが同時に頷いた。
この様子だと青い鎧の男が俺とは気が付かないようだ。取り合えず安心だな。
馬車が領主の館の門を抜け館の前に着く。館に入り、早速風呂に入れて貰うが何時見ても豪華さを感じるお風呂だ。御約束のライオン口から出る湯に四、五人は余裕出入れる広い浴槽、大理石の壁、正に貴族、選ばれた人種に相応しい風呂場だ。なんか卑屈になってるよね俺…
「ふい~、いい湯だなぁぁ」
やはり風呂はいい、風呂場から見える手入れの行きとどいた庭も俺の心を和ませる。リラックスしていると風呂場の戸が開き、トーマスさんが風呂に入ってきた。
「沖田君、僕もお風呂一緒に入っても良いかな?」
「いいですよ、一緒に入りましょう。」
借りているのはこちらなので断る事は出来ません。俺的に、
「ありがとう」
入ってきたトーマスさんは前をタオルで隠しているので見た目女の子に見える。彼は洗い場に体を洗いに座り体を洗いだした。丁度俺とは背中を向け会う位置になる。トーマスさんが鼻歌を歌いながら体を洗いだした。トーマスさんは声が高いから、聞いてるだでは女の子の声にも聞こえる。
最初は私と言って威厳のある態度を取っていたが、まあ全然偉そうに見えなかったが、俺が信頼に値する人間だと判断したのかな、態度が幼い子供みたいになった。こちらが素の性格なのか。
なんか振り向いたらいけない気がする。
体を洗い終えてトーマスさんが俺の隣りに入ってくる。
「ちょっと失礼して入らせて貰うね。」
うーむ、横からチラ見するが、どう見ても女の子にしか見えん。やばいドキドキしてきた。
「どうだい家の風呂は、僕の自慢の風呂なんだ。」
「とっても良い風呂だと思いますよ、広くて景色も良いし」
トーマスさんは風呂場の中で座りながら両手を結んで、それを上に上げて背伸びをする様に体を伸ばす。
止めんかその仕草、益々女の子に見える。
「うーん、そう言って貰えると嬉しいよ、ところで大活躍だったそうだね。デススコルピオンを三百匹も討伐するなんて僕の予想以上だよ、この街でもそんな真似出来る人なんて何処にもいないよ、それでお願いが有るんだ。」
トーマスさんが俺に迫り、両手で俺の手を掴んで頼む。トーマスさんの可愛らしい顔が俺に迫る。
ヤバいって、これホントにヤバいって、いけない世界にいきそうだよ…
「もし君が良かったら、この街に住まないか、僕も可能な限り援助するから。」
どうやら俺はやり過ぎたようだ。手伝って貰ったとはいえ、常識で考えたら個人で一日でデススコルピオンを討伐するのはほぼ不可能だろう。この街と俺の相性の良さに彼は気付いたようだ。確かに俺自身も神のデススコルピオン以外は安全に狩れていたのだから。だが俺は…、
返事を返そうとした時、窓ガラスが割れ、風呂の中に拳大の爆発物が三つ投げ込まれる。導火線には火が付いており、風呂場でも消える気配が無い。
「なっ、何なの?」
トーマスの慌てる声が聞こえる。
爆弾と視認した途端、俺にも緊張が走り、周りの流れる時間が何時もよりゆっくり感じられた。俺は送還術を発動して庭の投げられた方向に爆弾を送り返す。その間一秒にも満たない。爆弾を送り返すと、トーマスさんの体を掴んで水中に潜る。そして庭先で爆弾が爆発した。衝撃で風呂場のガラスが全部粉々に砕け落ち、爆風が風呂場に入ってくる。
爆発音でトーマスさんの護衛の兵士達が風呂場に次々駆けつける。
「トーマス様、大丈夫ですか。」
湯船から上半身をさらけ出し、トーマスが答える。
「僕は大丈夫、それよりも賊を捕まえるんだ。」
トーマスが湯船から上半身を出した途端、顔を真っ赤にしてトーマスに対してまわれ右をする兵士達。
うん、気持ちは凄くわかるよ。
「了解しました」
兵士達は庭へと飛び出した。




