誕生
どうも、家なき大人の沖田総一です。今俺は領主の館に御世話になってます。エド君、エド君の父親の領主のトーマスさんに事情を説明して住まわせてもらいました。もちろんロイ君には秘密です。しかしこの領主のトーマスさん美形だわ。俺より小さい華奢な身体に肩までストレートに伸ばしたさらさらの金髪に一瞬女性かと錯覚する儚げな顔、彼が女の人だったら交際を申し込んでいるかもしれん。
トーマスさん、エド君、ゴメス、俺は衝撃に強い時計と携帯無線機を用意して使い方を教えて定時に連絡を取り合っています。ロイ君、仲間外れにしてすまん。
この世界、腕に巻く時計は開発されていなくて、まだ懐中時計止まりらしい。凄く喜んでいた。無線機は存在していなくて、エド君とトーマスさんがわざと離れて無線機で遊んでいた。とても楽しそうだ。
ただしゴメスのお願い期間は、王都に行く船が出るまでの約束とした。そこだけは譲らなかった。自分としても宿泊費タダの飯付きだから少しはお得か……、いや命に勝る物は無し。やっぱり帰りてえ。
出来るだけ与えられた部屋に籠ろう、うんそうしよう、格闘経験の無いオッサンに期待してはいかんよ。部屋でひたすら籠っているとトーマスさんが態々部屋にやってきた。何か嫌な予感が…
「沖田君、君に頼みたい件が有るのだがいいかな。」
ほら来た予感的中…でも領主の身分なのにとてもフレンドリー、その顔で頼まれたら、つい頷いてしまいそうだ。
「俺に出来る事でしたらやりますけど。」
「息子に聞いたのだが、君はデススコルピオンを退治したそうだね。」
あの野郎勝手に喋りやがって、口止めしとけば良かった。これで俺が死んだら慰謝料を請求したい。無理か。
「薬品掛けて、死ぬまで逃げ回っていただけですけど…、ここでは障害物が多くて、魔物が死ぬまで逃げ切れません。」
「いや君は、都市の壁の上から魔物に薬品を掛けるだけで良い。魔物の回収はこちらでするから。」
「いや…でも…」
トーマスさんは貴族なのに得体のしれない俺に対して頭を下げて頼み込んだ。
「もうすぐ大進行が始まるんだ。それまでにこの都市周辺の魔物の数を出来るだけ減らしたいんだ。それに素材で大量の武具も用意しなければならないんだ。」
「大進行?」
大進行、それは人間の支配領域を広げる為に大部隊で魔物に攻撃を仕掛けるの事と世間では認知されているが、それは建前で、本音はエリア4の前方十数キロ先にある若返りの実の採取である。
若返りの実、それは果物のびわ程の大きさの実だが、一つ食すと十歳若返るという神秘の実。目の前に若返る方法が有るのに、王族や大貴族が不老を求めるのは当然と言える。多くの命を犠牲にして…
若返りの実がある場所は入り組んでいて尚且つ空にも多数魔物が存在するので飛行船での採取は難しい。陸路の方がまだ可能性があった。
「絶対に安全なんですね?」
「君の安全は、私が保障しよう」
「本当の本当に安全ですよね?」
「君も疑り深いな、デススコルピオンに飛び道具は無い、壁の上なら絶対に安全だ。」
トーマスは俺の念の押し様に呆れた顔をしていた。
その頼みを俺は引き受けた。此処に居る場合と壁の上に居る場合を秤にかけて…、だから何度も言うが普通のオッサンに期待するな。剣を向けられたら死ぬ自身が俺にはある。情けないが…
次の日俺は都市の壁の上に立っていた。この壁は監視が出来るように壁の上を通路が敷かれている。
俺は高性能双眼鏡を召喚する。召喚した望遠鏡で森や平原を覗くと、居るわ居るわデススコルピオンだらけ。魔物は水の中には入ろうとしないので、この都市は安全だと教えられた。
「では行きます。」
俺は双眼鏡を覗きながら、殺虫剤をスコルピオンの頭上に召喚し続ける。十分後、見える範囲の魔物は全て動きを停止した。
魔物が水の中に入らないのを利用して、水の上に浮かべた作業船でデススコルピオンの解体をするとの事だ。何時もその方法で魔物の解体をしているそうだ。だが作業船にデススコルピオンの死体を載せなければならず、多くの男達が危険を顧みずにデススコルピオンの死体に群がって行った。
その中には何とゴメスの姿も双眼鏡で確認された。しかも一人でデススコルピオンの巨体を引きずっている。
「あの人、こんな所で何してんだ。」
ゴメスは作業船にデススコルピオンを載せると、素早く別のデススコルピオンを載せる為に走って行った。
作業船の上では、解体職人達が手際よくデススコルピオンの装甲と肉を分離していた。要らない肉を別の船に載せ少し離れた場所へ放棄する。するとその肉を求めて新たにデススコルピオンが現れる。その後はお決まりの倍々ゲーム、更に別の場所へ捨てた肉にも魔物がどんどん寄ってくる。
忙しい筈なのに、職人さんや男達の笑顔が気持ち悪い。お前ら仕事中毒か。
三百匹近く狩った頃、薄暗くなり、解体しきれずにいた残りのデススコルピオンを街の中に入れている最中にそいつは現れた。
見た目は普通のデススコルピオンだが、左の爪には丸い盾、右の爪には弓を装備したデススコルピオンが現れた。
「神の魔物だ、逃げろ!」
誰かが叫ぶのと同時に大急ぎで作業船は壁の内側の水路に逃げ込む。
俺は取り合えず殺虫剤をそいつの頭に召喚する。頭に掛ったのと同時にデススコルピオンの瞳が此方を見た気がした。そしてデススコルピオンの右手に装備された弓が自動的に光の矢を生成し、発射可能の状態になる。そして光の矢は発射され、俺が居た壁の下に直撃し貫通し街の建物に当たり爆発した。
俺が居た壁は、光の矢が貫通した衝撃で崩れかけていた。崩れる前に俺は走り出す。当然矢を打つデススコルピオンとは反対の方向へ。
「何故やる事なす事全部裏目に出るんだぁぁ、トーマスの嘘つきぃぃ、顔に騙されたぁぁ」違約金を請求したい。
走り続けていると、光の矢を撃ち続けているデススコルピオンと俺の位置が斜角になり、街への被害が無くなるが、当然壁への被害が拡大し、俺は崩れた壁に巻き込まれてしまう。
崩れ落ちる瞬間、俺は青い鎧と自分が着ている鎧を入れ替えた。そして壁の崩壊に巻き込まれる。生き埋めになったが全然無事だった。息苦しくないし、俺の上に何トンもの重さがある岩もそんなに重さを感じなかった。簡単にどかせると感じた。その時、頭の中に鎧と大剣の使用方法が流れ込んできた。そして理解した。確かに理解しなきゃ魔物も武器は使えない。
俺は背中の翼に魔力を流し込む。翼は力強く光を発して瓦礫を吹き飛ばす。俺は立ち上がり、光の翼を広げて一気に空へと飛ぶ。
デススコルピオンが空中にいる俺に向って光の矢を連続で撃ってくるが、その動きが遅く感じて全部余裕でかわせた。
俺は大剣を召喚する。召喚された大剣は名前とは違い、普通のロングソードになっていた。しかも鎧と同様重さをまるで感じない。俺が元に戻れと念じると、長さ三メートル、幅五十センチの剣になり光り輝いている。魔力を込める事で切れ味が上昇する。
俺はデススコルピオンの真上から攻撃を仕掛ける。光の矢をかわし続け、奴の背中を切り裂いた。断末魔の声を上げるデススコルピオン。俺は顔の方に大剣を振り抜いた。真っ二つになるデススコルピオン。
俺はこの怪物に勝った。
ひと段落していると、俺の戦いを見ていた人達が、
「「「青の騎士天使、青の騎士天使だぁぁぁぁぁ」」」
何言ってんの皆さん、こちとらしがない召喚送還師のオッサンですよ。そして自分の格好を見る。全身青尽くしに、おまけに背中にはド派手な光る翼が……
「俺、勢いに任せて何恥ずかしい真似してんの、見ないでくれぇぇ」
俺は弓と盾を回収すると、触った途端、俺サイズに小さくなったそれを持って、暗い大空に飛び立った。
その様子を見ていた街の多くの人々は、光り輝く天使が、天に帰ったのだと思えた。




