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召喚送還師  作者: 銀槍
3/15

危機

どうも、あれから毎日重蔵さんに連れられて…いや連行されて落ち人の森で魔物に止めを刺しまくっている召喚送還師の沖田総一です。喜々として魔物を剥いでいる従業員さんの顔が夢に良く出てきます。思えば異世界に落ちてから一週間が過ぎた。


今俺は泊っていたホテルを引き払って田所重蔵さん達のお屋敷にお世話になっている。と言うか拉致同然で屋敷に連れてこられた。


なんでも近くに居た方が何かと便利だろうという理由だそうだ。だがそれは建前だと俺は思っている。

朝飯に納豆定食が食べたいと言って朝から召喚させられ、昼はオムライス、夜はサンマ定食と止めに魔力が続く限り米を召喚させられ続けている。槍と装備をタダで譲り受けたので良いんですけどね。


重蔵さん曰く、


「友人の落ち人達にも米を食べさせたい」


そう言われたら出さない訳にはいかないし、それに彼に対して後ろめたい事が一つ有るし…

魔物との戦闘中に誤って流れ弾でアサルトライフルの弾丸を後頭部に当てちゃったんだよね。あの時は重蔵さんオークに周りを囲まれてたし、俺も銃の扱いに慣れてなくて、つい命中したんだよね。頭部に弾丸が命中した時、


「殺っちまった」


と一瞬焦ったけど次の瞬間


「痛てぇなこの野郎」


と言って後ろのオークをぶった斬っていたのを見て俺は思ったね。


「この人、人間なの?」


ライフルの弾丸が命中して痛いで済む人間を俺は初めて見たよ。この世界で銃が発達しない理由が判った気がする。そしてこの世界で俺はやっていけるのかと不安になった。


それでも接近戦はまだ怖いから銃のカタログや兵器の雑誌を召喚して使えそうな物を選んでいる。もちろん召喚して試し撃ちもしている。また当てたくないし。


それとこの屋敷の敷地は広くて東京ドーム四個分の広さがあり、屋敷の離れにある二階建ての一軒家を俺専用の自宅として改造している最中らしい。囲う気満々だね。行くあての無い俺にとっては有り難い話しでもある。更に追加でガラス張りの温室と米を栽培する為の水田も作成中との事。完成後には元の世界から、野菜の種と稲を召喚して栽培したいと重蔵さんは言っていた。


それからこの街の冒険者組合から苦情があった。なんでもオークやゴブリンを狩り過ぎて、森を抜けた湿地帯に住んでいるリザードマンやオーガが頻繁に森の浅い場所で現れるようになり、若手の冒険者から負傷者続出している。


沢山狩ったオークのお陰で、大量のオークのお肉が流通して、この街のお肉の値段が一時的に安くなり、庶民には助かるが、何事にもバランスは必要だと言う事だろう。


そこの所を重蔵さんも考えて貰いたい。今俺達は汽車に乗り、牛の獣人とは別とされる魔物のミノタウロスが生息している始まりの街から二つ隣りの駅に向っている。豚の次は牛ですか。


しばらく魔物狩りはお休みになり、この世界の生活や技術を調べようかと思っていたのに調べる時間も取れやしない。でも自分の能力は空いた時間が少しでも有れば調べている。備えあれば憂いなしと言うし。


俺達は焼き鳥と冷たいビールを召喚して車内で酒盛りをしている。元の世界では百円クラスの安いビールばかり飲んでいたが、今飲んでいるのは一本二百円クラスのビールだ。やっぱり高い方が味が濃くて美味い。俺はささやかな幸せを感じている。ホント自分でも安いなあとは思っているが…


今居る面子は俺と重蔵さんと新しく護衛に付いた同じ落ち人のソフィアさん、彼女は十歳の時に此方の世界に落とされて、初めて出会った人間が不味かった。ソフィアさんが初めて出会った男は、彼女を奴隷のごとく扱い、何とか逃げ出して神殿に保護されたがすっかり男性不信になった。この地域の人間は東欧系の人ばかりだから、イギリス出身の彼女が落ち人だと周りが気付かなかったらしい。以来十年間一人で生きて来たそうだ。彼女の職業は魔術師、中々強力な職業だから一人でも生きてこられたのだろう。全く美形で胸が大きくてスタイルも良いのに勿体無い。この話は全部重蔵さんから聞いた話で、俺自身は彼女とは一言も話しをしていない。俺が召喚した食べ物を興味深く観察していた。


更にフライドポテトを追加で召喚したら彼女の目の色が変わった。この世界ジャガイモも無いからね。これはもしやと思い、某フランチャイズのハンバーガー、フライドチキンを袋付きで召喚すると、身を乗り出してきた。


「あの、一つどうですか」


男性恐怖症のせいか手を出すのを躊躇しているが、表情はとても食べたそうだ。誘惑に勝てず、素早く手を伸ばして袋を目の前から攫っていく。


男性恐怖症だからあんまり見詰めるのも可哀想だろう。俺は流れゆく汽車の窓の景色を見る。農夫が畑で作業している姿が見える。風景を見る限りは此処が異世界とは思えない。ビールを一口飲む、美味い。


車内でビール缶一本飲み終わる頃、目的の駅に汽車が停車する。駅の周囲はミノタウロスの肉を加工する加工所と其処に働く従業員が泊る宿泊所、加工所から出荷される肉を買う商社が入る建物とその人達を相手にする雑貨屋しかない。人口五百人位の小さな場所だ。ちなみにこの加工所、重蔵さんの商会の子会社だと教えられた。ミノタウロス狩りの準備が未だらしく、出発まで二時間ほど掛ると言われたので、案内された部屋のソファで仮眠をとる。アルコールを抜くには丁度いい。


意識が夢の中に落ちる寸前ソフィアさんが近付いて来た気がする。


「どう…、先……ありが…と……まし……」


何を言っているのか判らない、そのまま寝てしまった。


二時間後重蔵さんの顔面ドアップで起こされた。出来れば美人に起こされたかった。今度の狩りの人数は大所帯の二十人、俺と重蔵さんとソフィアさん、護衛の人が七人と肉を処理して運搬する人を含めた十人


俺達と護衛の人達だけで先行してミノタウロスがいる平原に向う。歩くこと三十分、目的地に到着。


ここにはミノタウロスの他に、縦二メートル全長十メートルのミミズみたいな姿をしたワームと呼ばれる魔物が地面から飛び出して人間を襲うので注意しろと言われた。ワームは身体が大きいから、襲われる直前地面から振動を感じるからそれで注意しろと……、初心者に無茶言うよ…てか、帰りたい。


平原を歩き続けること一時間、三百メートル前方に三匹のミノタウロス発見。ゆっくり近づく。


ミノタウロスは腰に獣の皮を巻いたままの状態で両手には何も武器を持っていない。距離百メートルになるとミノタウロスの方も此方に気付き襲ってきた。リザードマンに比べて遥かに遅い。


ソフィアが三つのファィヤーボールを空中に発生させると、


「ファィヤーボール、発射」


ミノタウロスめがけてファィヤーボールを発射する。打ち出されたファィヤーボールは其々のミノタウロスの頭に直撃し頭の周りに纏わりつく。火の中に頭が収まっている格好になる。


堪らないのはミノタウロス、熱いし、息は出来ないわで苦しむ。どんなに頭を動かしても火は離れず消えもせず頭に纏わりつく。


五分後、ミノタウロスは地面に倒れた。


油断せずにミノタウロスにゆっくり近いてゆきながらミノタウロスの頭を確認する。目、鼻は焼かれて機能せず口だけで息をして何とか生きている。


「ささ、総一君」


「またですか―――。」



心臓を一突き、もう慣れました。慣れたく無いけど…、ミノタウロスの皮膚はオーガに比べてかなり柔らかい、これならライフルでも通用しそうだ。だが重蔵さんの例もある。油断は禁物。


二時間後、計八匹のミノタウロスを回収、帰途の途中、全身青い鎧を着て大剣を装備したミノタウロスを発見。


「なんで、ミノタウロスがあんな立派な鎧を?」


装備している武具は神様からのプレゼントらしい、何それ、神様が贔屓していいのか。神様のお気に入りの魔物はどれも強いから直ぐにこの場所を離れようとしたその時。


地面から振動を感じて急いで走る。その瞬間、元居た場所からワームが地面から飛び出した。その騒ぎでミノタウロスが此方に気付き向って来たぁぁぁぁ


しかも速い、俺達に迫る。その距離およそ三百メートル。大剣を抜いて襲ってきたワームを一撃で切り裂き、ワームの胴体と頭が離れて首が地面に落ちる。


「一撃かよ」


大剣を持ちながら、一直線に此方に迫る。


「出来るだけ安全に狩りたかったが、こうなっては仕方ない。やるぞ」


「「「「はっ」」」


重蔵さんが輝いて見える。


「何時もの手筈で倒すぞ。」


重蔵さんと護衛の人達がミノタウロスに向って走る。その間ソフィアさんが集中して魔力を高めているのが判る。


重蔵さんの一撃を大剣で軽く受け止めるミノタウロス、重蔵さんがミノタウロスの正面を受け持ち、残った護衛で左右、背後から切りかかる。段々ミノタウロスの鎧以外の身体に傷が増えて行く。


突如、咆哮を上げるミノタウロス、と同時にミノタウロスの角が金色に輝き、角から稲妻が走る。

全方位に飛び散った稲妻によって吹き飛ばされる八人、


瞬間、ミノタウロスが立っている場所を中心として、ミノタウロスを包む様に魔法陣が現れる。


「フレアストーム」


ミノタウロスを中心に青白い炎の柱が吹き上がり、ミノタウロスの姿を隠す。


魔法の発動と同時に大量の魔力を失い、ソフィアが膝をつく。


「ソフィアさん、大丈夫ですか」


「…………」


男性恐怖症でした、そうでした。


「やったか?」


魔法陣を囲んで炎を見詰める八人。魔法陣の外には炎も炎の熱も伝わらないが、魔法陣の中は地獄だろう。だが燃え盛る青白い炎の所為でミノタウロスの姿が見えない。


「しまっ……」


突如、炎の柱の中から大剣が付き出される。かわし切れずに大剣が剣を持った重蔵の右手首を切り落とす。ポトリと剣と右手首が地面に落ちる。


「「「重蔵様」」」


剣と右手首を残して後ろに飛び下がる重蔵


「ぐっ…ぬかったわ…」


燃え盛る魔法陣の炎の中から無傷のミノタウロスが現れたが鎧の色が変わっている。青色から鎧に使っている鉱物の色の灰色に変化している。


「一体何が……」


「マジックアイテム」


「ソフィアさん、何ですかそれ」


「あの鎧には魔法の効果を無効にする魔力が込められていたの」


「じゃあ灰色に変化したのは…」


「効果が切れたみたい…、もう一回フレアストームを撃ちこめば倒せるけど私の魔力は残り少ない…」


ミスリルの剣を踏みつけ、ミノタウロスが重蔵に迫る。


護衛の三人がミノタウロスと重蔵の間に入り盾となり、残りの四人は重蔵を抱えてその場を離れて行った。


「放せ、何をする」


護衛の四人は重蔵を抱えて総一の居る場所とは反対の方向に逃げて行った。


「えっ、重蔵さん達何処行ったの?」


「………フライ…」


呪文を唱えるとソフィアの身体が宙に浮かぶ。


「ごめんなさい……」


「えっ、何ですか?」


ソフィアも空高く飛んで、この場を離れて行った。


「えっ、もしかして見捨てられたの俺……」


ボー然としている間に三人の護衛はミノタウロスに切り捨てられていた。


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