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召喚送還師  作者: 銀槍
10/15

卒業

「それじゃあ、ここでお別れだ」


「年緒さんもお元気で、落ち付いたら家に挨拶に行きます。」


「俺もまた日本酒が飲みたいから、早めに来てくれ。」


あれだけ飲んでまだ飲み足りないのかよ。日本酒二十本以上飲んだのに。


「出来るだけ早めに伺います。」


別れの握手を交わして俺達は別れた。


王都の人口七十万を誇る大都市だ。空には多数の飛行船が飛び交い、この都市の経済と人々の生活を支えている。そして俺は、飛行場近くの宿屋に泊らずに飛行場と歓楽街から遠く離れた宿屋に宿泊した。何故なら飛行場や歓楽街から遠くになる程宿の宿泊費が安く済むからだ。一泊素泊まりで三千円、安いでしょ。しかも部屋もちゃんとしている。トイレ、風呂付だし、食事は召喚で済ませれば安上がりになるし。

送還術で洞窟に戻れば宿泊費無料になると考えたが、王都は人目が多く、洞窟から他人にバレる事無く此方に戻る場所を確保するまで宿屋暮らしをする事に決めた。


資金的には雑誌の代金と魔石を換金すれば、かなり贅沢な暮しが出来るけど、長い事染み着いた貧乏性はそう簡単には抜けない。だってお金で苦労し続けて来たから……


だがそんな俺にも大金が手に入る。デススコルピオン討伐の代金が支払われる。今の相場の値段は知らないが結構な額になるらしい。


「お金を用意するのに一か月待って」


とトーマスさんが言っていたから。これは今から楽しみだ。一か月後が待ち遠しい。ベッドの中で悶絶するオッサンが一人、見た目気持ち悪いが、嬉しいいのだからしょうがない。


ハンバーグ弁当を召喚して夕食を済ませて早く寝る。明日から忙しくなりそうだ。


翌日、宿屋の従業員に図書館の場所を訊いて図書館に向う。図書館に向う途中で明らかに人間とは違う人種が混じっているのを見かける。流石異世界、コスプレとは全然違う。王都の図書館もかなりでかい、普通の市の図書館の十倍はある。まだ朝早い所為か図書館の中に人は数人しかいない。


適当に本を見繕って席に座る。俺が今居る国は大和国という名らしい。人間が中心となって起こした国の為、人口の殆んどが人間となっている。その他に人間の国と亜人種の国が複数寄り合い助け合って暮らしている。最初に教えられた通りだ。将来はお金を貯めて魔物が出ない平和な国で暮らそう。うん、そうしよう。


後は魔物と植物の本を読んでみるが、前の世界と生態系が全く違うので憶えるのにも一苦労だ。てか無理、憶えきれない。なんだよ知恵の実とか若返りの実とか、絵入りだけどこちらも多過ぎて憶えられない。帰りに本屋でも寄って買って手元に置いておこう。


図書館でする事が無くなったので、次に本屋に行く。王都だからか簡単に本屋が見つかった。その中から植物の本だけを買う。魔物の本も欲しかったが二つ合わせると五万円を超えてしまう。我慢しなくては。


宿に帰り、植物の本を見ている途中で気付いた。召喚術で呼べば良かったと。俺の三万返せ。返品は効くのだろうか。レシートも無いからダメか。


気を取り直して本を読み続ける。やはり気になるのは若返りの実、本当に食べれば若返るのだろうか。


思いきって若返りの実を召喚してみる。なんと召喚出来た。だが本当に食べたら若返るのだろうか?。ちょっと不安だ、誰かに食べさせて試すべきか…、しかし誰かに食べさせて本当に若返ったら騒ぎになるだろうし、言い訳も思い付かないので、近くをうろついている動物で実験してみた。ちなみに食べさせた動物の具合が悪くなったら後ろめたいので、年緒さんの自宅の近くで行う事にした。異常が出ても治癒術が使える年緒さんの家の近くなら多少は安全だし。


次の日、年緒さんの家の辺りをうろついていると、丁度痩せこけた中型の大きさの耳の垂れた犬を発見、周りに人も居ないので、お皿にドッグフードと若返りの実を半分混ぜた物を餌におびき寄せる。余程お腹が減っていたのか、目の前に餌を入れたお皿を置くと勢い良く食べ始める。


すると食べ続けている犬に変化が起きる。段々と小さく幼くなってゆくのだ。餌を食べ終わると子犬の姿まで戻っていた。そして俺を見続け、尻尾をぶんぶん振っている。


「成功だ。」


俺は、残り半分の若返りの実を食べてみるが、身体に変化は感じられなかった。五歳位の若返りではオッサンには差が無いという事だろうか。


実験は成功したので、ついでに年緒さんに挨拶でもして帰るか。年緒さんの自宅を目指して歩いていると、実験に使った犬が俺の後ろを尻尾を振りながらトコトコ歩いて付いて来る。


「その内諦めて何処かへ行くだろう。」


年緒さんの家に到着して動きを止めると、子犬の方もお座りの姿勢になりながらも尻尾を振りまわしている。ここで小学生だったら「わ~可愛い」とか言いながら子犬を撫でまわし、親に子犬を飼えるお願いでもするだろうが、残念だったな、こちとらオッサンなんだよ、その手は効かない。


俺は子犬を一瞥すると、年緒宅の玄関のドアを叩き、中に居る住人を呼び出す。


ドアの隙間から年緒さんが顔を出すが、顔色が凄く悪い、具合でも悪いのだろうか…


「御無沙汰しております。沖田ですが、今宜しいでしょうか。」


「ああ、沖田君か、さあどうぞ、散らかっているが其処は我慢してくれ。」


ドアを開けて中に通されるが、通路一面に紙が散乱している。


「紙が散らかってますけど、どうかしたんですか?」


年緒さんは落ち込んだ表情でぽつぽつと話し始めた。


年緒さんの孫娘のマリアは十二歳になるのだが、自分は転生者だと話している。年緒さん以外のこの世界で生まれた家族はその話を信じる事が出来ず、寧ろ頭のおかしい子として母親以外の家族から嫌われていた。落ち人である年緒さんは、孫娘の前世の話しを聞いて孫娘が転生者だと確信した。家族に嫌われていた孫娘を引き取ったは良いが、問題はその後発覚した。孫娘の前世への執着である。どうしても続きの気になる漫画があり、その漫画はアニメにもなるほど人気があった。この世界では続きを見る事が不可能なので自分で想像して続きを書き始めたらしい。


俺は説明を受けて床に散らばっている紙を拾い上げ中身を覗いた瞬間


「うっ……」


身体に怖気が走った。


紙に書かれた内容は、所謂男同士の絡みのある作品で、世間一般のボーイズラブな作品であった。


俺が、いや俺達が通路で漫画の内容に固まっていると、前方の部屋のドアが開き、中から丸いメガネを掛けた茶色い少しパーマのかかった可愛い女の子が部屋から出て来た。この子がマリアか。


マリアは俺を見ると、目の色を変えて興奮した様子で近寄って来た。


「ねえ、あなた落ち人でしょ、ドキドキ男学園っていう漫画知らない?」


俺が知らないと答えると、「そう」と返事をしながら落胆し、彼女は俺に興味を無くし部屋に戻って行った。それにしてもなんて漫画のタイトルだ。


俺が呆れていると、年緒さんが、


「すまんな、本人はアレでも一生懸命だから許してやってくれ。」


「別に構いませんよ、人の趣味はそれぞれだし。それよりトイレを貸してくれませんか。」


「トイレなら案内しよう」


通路の奥のトイレを教えられてトイレの中に入り、ズボンを履いたまま便座に座る。別にトイレで用を足したい訳では無く、別の目的でトイレに入ったのだから。


俺は元の世界と繋げて、携帯でドキドキ男学園を検索する。すると漫画は今現在も連載中で単行本も六十巻まで発行されていた。


「こんなのが何で連載が続いているんだ。作品紹介で男子高校生同士の絆と友情の物語と説明されているが、内容を少し覗いてみたが、どう見ても友情を通り越して危ない世界に足を踏み入れている漫画としか思えない。男同士が裸で……てどう考えても友情超えてるだろう。


「こんなのドコが面白いんだ?。」


甚だ俺には理解不能だった。トイレを出て年緒さんに部屋へと案内される。そこには既に空のコップが用意されていた。この人飲む気満々である。


早速お酒を召喚して2人で飲み始める。やはり酒は一人より2人の方が楽しい、しかし酒乱の人は御免だが。ツマミも召喚して盛り上がる。酔いたい気分なのか年緒さんは治癒術を使わなかった。


「あの子はこの家に来てから外には余り出ず部屋に籠ってばかりいる。過去に捕らわれず未来に目を向けてこの世界で生きて欲しいが、何か良い方法はあるかね。」


「外に出す方法なら有りますけど、彼女が続きを読みたい巻数てわかりますか?」


「確か二十八巻からだと聞いたが、それと外に出せるのと関係があるのか?」


治癒術で酔いを覚まして年緒さんが尋ねてくる。


「良いですか、これから言う事をよく聞いてください。それと俺の能力は絶対に彼女には内緒にして下さい。」


能力が知られて、彼女に付き纏われたりしても困るし…


「判った、絶対に君の能力は話さない、約束する。」


「でしたら………」


丁度、年緒さんに説明が終わった頃、外から雨の音が聞こえて来たので、ある物を召喚して年緒さんに渡す。別れの挨拶をして家を出ると…


「く―――ん」


子犬が雨に濡れながらも、お座りをして俺を待っていた。


「………」


俺はタオルと傘を召喚して子犬をタオルで包み抱きあげ、一緒に傘に入りながら宿屋に帰った。


俺はこの日ボッチを卒業した。人間ではまだだが。


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