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【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線  作者: 神野あさぎ
一年生・文月

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case.46「VIP護衛戦Ⅱ」

 第一訓練場。

 互いの陣地である白線で囲まれた正方形の空間を背に、A組とB組が対峙する。


 A組からは灰塚(はいづか)こころ、B組からは花緑青小春はなろくしょう・こはるがVIPとして選出され、それぞれの陣地内に立ち尽くしていた。


「問題は天竜の異能が何か、か」


 六大路辛(ろくおおじ・かのと)が微かな声で呟き、背後の佐倉真白(さくら・ましろ)が短く頷く。


「あっちは花緑青か……」


 蘇芳(すおう)レイヴンが敵陣の配置を視覚情報として処理し、確認する。


「中間のペナルティで異能が制限されている以上、攻撃には加われんからな……妥当じゃね?」


 紅桔梗志紀(べにききょう・しき)がレイヴンへ向け、敵の戦術的意図を読み解いてみせる。


「各クラス、VIPが選出され位置についたな。では始める」


 B組の担任が開始を宣告すべく、右手を上げる。


「A組の皆さん、お手柔らかにお願いします」


 天竜天色(てんりゅう・あまいろ)が、親愛の情を装った笑みを浮かべ、右手を差し出した。


「やめとけ天竜。お相手さんは、そんな余裕ないって」


 朱殷実果(しゅあん・みはか)が天色の肩に腕を回し、A組への明らかな挑発を投げる。

 天色は困ったような苦笑を作り、ゆっくりと右手を下ろした。

 A組の生徒たちの視線は、既にその二人へと固定されていた。


「天竜、朱殷……始めるぞ。位置につけ」

「はーい」


 担任の短い制止を受け、二人は前線から僅かに後退する。

 張り詰めた空気が、訓練場を満たしていく。


「それでは、VIP護衛戦始めっ!!」


 号砲のような声が響いた。


 辛の身体が爆発的な速度で駆動する。

 左手に金属生成で構築した刀を顕現させるのと同時、彼の眼前に朱殷が肉薄し、鋭利な剣を振り下ろしていた。


 硬質な金属音が鳴り響き、辛の刀が朱殷の剣を正確に受け止める。


「へえ……反応するんだ?」


 鍔迫り合いの至近距離で、朱殷が嗜虐的な笑みを浮かべる。

 激突の余波が広がり、A組の生徒たちが一歩遅れて事態を認識した。


「速っ……!」


 黒川玄(くろかわ・くろ)の目が見開かれる。


 朱殷は辛の刀を剣で弾き流すと、脚力を解放して上空へと飛翔した。

 辛は即座に『土』の異能を励起させ、足元の地面を隆起させて自身を空へと射出し、追撃を図る。


 朱殷の背部に、炎で構成された片翼が出現した。

 重力から解き放たれた二人は、そのまま空中での高速戦闘へと移行する。


「辛!」


 紺野爪戯(こんの・つまぎ)が空を仰ぎ、声を張る。


「上ばっか見るな! オレ達も動く!」


 レイヴンが爪戯の意識を地上へ引き戻し、地を蹴る。

 強矢翠柳(きょうや・すいりゅう)も腰の刀を抜き放ち、前線へ躍り出た。


 二人の進路上に、B組の浅黄(あさぎ)ゴウが巨体を立ちはだかせる。


「来いよA組ぃ!」


 ゴウが自身の皮膚を鋼鉄の強度へと硬化させ、攻撃を受け止める構えを取る。


「迎撃」


 冷徹な声と共に、真白が形成した光の珠から高圧縮のレーザーが放たれた。

 閃光が空気を灼き、ゴウの巨体を正確に撃ち抜く。


「っ!?」


 装甲を貫通する衝撃に、ゴウの身体が後方へと弾き飛ばされた。

 その光景を前にしても、天色は微動だにせず、ただ微笑みを保っていた。


「ゴウ! 何やってんの!」


 西森シルヴァが叫び、自身の異能を励起させようと構える。

 だが、身体能力を極限まで強化した翠柳が瞬時に距離を詰め、刀の峰打ちでシルヴァを無力化した。


 レイヴンが『結使い』の能力で自身の剣を引き寄せ、対象を天色に定める。

 踏み込みと共に放たれた斬撃。

 その軌道上に位置する天色の肉体が、瞬時に竜の鱗へと変貌を遂げた。

 刃が鋼のように硬い鱗に弾かれ、火花が散る。


「おわっ!?」


 想定外の反動に、レイヴンが体勢を崩す。

 その隙をカバーすべく、玄が天色の足元の影を操作し、その動きを拘束した。


 そこへ真白の追撃の光線が叩き込まれる。

 しかし、竜化した天色の装甲は、その熱量を完全に乱反射させた。


「駄目か……」


 玄が推測を口にする。

 天色は小春の陣地の直前に陣取り、強固な盾として機能し始めていた。


 レイヴンと翠柳は天色の突破を一時放棄し、左右から回り込んで背後の小春を狙う軌道を取る。

 しかし、天色の背部から巨大な竜の翼と尾が顕現し、回り込もうとした二人を力任せに薙ぎ払った。


「こいつをどうにかしないと、届かないか」


 地面を転がりながら、レイヴンが戦況を再評価する。


 A組陣地。

 灰塚こころは、胸の前で両手を固く握りしめ、顔面から絶えず冷や汗を流していた。


 彼女の視界の端で、空間が不自然に歪んだ。


 B組の梅重御影(うめかさね・みかげ)

 自身の影を極限まで薄めることで隠密性を高める異能。彼女は完全に気配を消し、こころの至近距離まで肉薄していた。


 こころの瞳孔が収縮する。

 その瞬間、猛烈な炎の壁が二人を分断した。


「トロ子! あんた立候補したんだから、ちゃんと戦いなさい!」


 火乃宮朱美(ひのみや・あけみ)の怒号が響く。

 こころは震える息を吐き出すと、自身の『念』の能力を励起させ、御影の身体を後方へと弾き飛ばした。


「色波ももっとちゃんと守りなさいよ!」

「ああ、もう! 煩い!」


 朱美の叱責に、色波樹(しきなみ・いつき)が苛立ちを露わにしながらも警戒のレベルを引き上げる。


 真白は展開する光の珠の数を増殖させ、天色へ向けてレーザーの雨を降らせる。

 だが、強固な鱗は貫けず、着弾の衝撃で巻き上がった土煙が視界を遮る。


 真白が微かに目を細めた。


「佐倉さん! 任せて!」


 錆御納戸雫(さびおなんど・しずく)が『浄化』の能力を発動させ、空間に漂う土埃などの不純物を強制的に排除する。

 レーザーの威力を減衰させるブルーミング現象を未然に防ぐための戦術的サポート。


「私の時使いが、範囲広かったらなあ……」


 青藤葵(あおふじ・あおい)が悔しそうに唇を噛む。

 彼女の異能は効果範囲が狭く、後方支援の位置から天色や小春まで干渉することは不可能だった。


「近づく? でもそうすると、灰塚を守る手段が減るか……」


 志紀が戦力の再配置を思案するが、防御網の低下リスクがそれを躊躇わせる。


 上空。

 辛の刀を捌いた朱殷が、翼を畳んで急降下を開始した。

 その直線上の標的は、陣地内に固定された灰塚こころ。


 爪戯が瞬時に大気中の水分を凍結させ、こころの頭上に分厚い氷の盾を形成する。

 落下する朱殷の剣が氷を穿つが、貫通には至らず弾かれた。


「ちっ」


 朱殷が露骨な舌打ちを漏らし、再上昇へ転じようとする。

 その軌道を予測したレイヴンが、跳躍して朱殷へと斬りかかる。

 刃が交錯するが、朱殷は空中で姿勢を捻り、レイヴンの剣を巧みに受け流した。


 レイヴンが着地するのと同時。

 空中で辛が金属の足場を生成し、それを蹴って朱殷の頭上を取った。

 重力を乗せた一撃が振り下ろされる。

 朱殷は迎撃の態勢を取り、剣を交差させて辛の刀を受け止めた。


「……半妖!」


 朱殷の口から、敵意を孕んだ言葉が吐き出される。

 空中で再び、激しい刃の衝突音が連続して響き始めた。


「上のあいつは一旦良いか……オレ達は目の前の天竜君をどうにかしないと、だね」


 玄が上空の戦闘を視界から外し、防衛線を維持する天色へと集中する。


 玄と真白のもとへ、レイヴンが駆け戻ってきた。


「結びつけは出来たよ。後はタイミング!」


 レイヴンは口角を上げ、親指を立てて合図を送る。

 そして再び、B組の陣営へと向けて地を蹴った。

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