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【五行を統べる半妖は】冷徹に異能学園の頂点を目指す――ⅩⅢ 現代群像戦線  作者: 神野あさぎ
一年生・皐月

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case.19「それぞれのクラス」

「は~……ごめんね、私がしっかりしてれば毒にも対抗できるのに……いざってなると動けなくなっちゃう」


 深い溜息と共に口を開いたのは、A組の少女・錆御納戸雫(さびおなんど・しずく)だった。


「大丈夫だって……なんならこの場では──……」


 隣を歩く少女・青藤葵(あおふじ・あおい)が言葉を濁し、横目で火乃宮朱美(ひのみや・あけみ)へと視線を流す。


「コントロールできない火乃宮が暴走したら厄介だよなあ」


 前方を歩いていた紅桔梗志紀(べにききょう・しき)が、葵の視線の意図を正確に言語化した。

 炎を操る朱美の異能は、出力こそ高いものの精密な制御を欠いている。木々が密集するこの山中において、彼女の能力行使は明確なリスクとして認識されていた。


「はあ!? 何言って」


 朱美が歩みを止め、志紀へ向けて鋭い怒気を放つ。


「此処森だぜ? 引火してみろよ、なあ?」


 志紀は挑発的に追い打ちをかけ、周囲の生徒たちへ同意を求めた。


「つーか、アレでよく灰塚(はいづか)を馬鹿にできるよなあ……逆に感心って言うか」


 頭の後ろで手を組みながら、蘇芳(すおう)レイヴンが呆れたような声で続く。


「何よ! トロ子より私の方が役に立つでしょ!」


 朱美は声を荒らげて反論する。

 比較対象として名指しされた灰塚こころは、騒ぎに加わることなく、最後尾でただ視線を落として歩き続けていた。


「あんたら喧嘩してないでさ……」


 列の前方から、紺野爪戯(こんの・つまぎ)が振り返って制止を試みる。


「はあ? あんたには関係ないでしょ!? 半妖の金魚のフン!」


 矛先を向けられた爪戯に対し、朱美の語気がさらに強まる。


「殺されたいわけ?」


 爪戯の目つきが鋭く細められ、即座に応戦の構えを見せた。

 A組の列を包む空気は、最悪の様相を呈していた。


「いい加減にしろよお前ら!」


 色波樹(しきなみ・いつき)が後ろを振り返り、苛立ちをぶつけるように叫ぶ。


「あんたは黙ってなさいよ! 決闘は勝敗がつかなかったけど、実質私の勝ちのようなものだったし!」


 朱美は腕を組み、傲慢な態度で言い放った。

 確かにあのアリーナでの決闘は途中終了となったが、状況としては朱美が優位に立っていたのは事実である。


「決闘のことは関係ないだろ、今は仲間割れしてる場合じゃないって話!」


 樹は険悪な空気をどうにか収束させようと声を張り上げる。


「火乃宮さんってちょっと……」

「ねえ……」


 雫と葵が顔を寄せ合い、声を潜める。

 朱美の攻撃的な態度に対する、冷ややかな評価がそこにあった。


「はあ……なーんで全員でゴールなんだろうなあ……一人だったら余裕だったのに」


 レイヴンが頭の後ろで手を組んだまま、忌々しげに呟く。


「チームワーク拒否ってこと?」


 隣の志紀がすかさず突っ込みを入れた。


「まあ、紅桔梗とかは強いから良いけどさ~灰塚・火乃宮・色波は正直足手まといつーか」


 レイヴンは深い溜息と共に、容赦のない言葉を落とした。

 名指しされた朱美と樹の顔面が、屈辱に歪む。


「ちょっと! 私をトロ子と一緒にしないで!」


 朱美は右手を胸に当てて声を張り上げる。その左手は固く握り込まれていた。

 一方の樹は、己の無力さを痛感しているがゆえに、一切の反論を返すことができなかった。


 その直後、山に放し飼いにされている異形の魔物が、木々の隙間から列へと突進してきた。

 だが、その巨躯が彼らに届くことはない。

 先頭を歩く佐倉真白(さくら・ましろ)の周囲から放たれた光線が、魔物の肉体を一瞬にして貫き、霧散させた。


 真白は背後の喧騒にも、眼前の脅威にも一切の反応を示さず、ただ無言で先頭を歩み続ける。


「良いからお前ら真白さんに続け!」


 最後尾から、強矢翠柳(きょうや・すいりゅう)が進行を促す。

 終始まとまりのないA組の行軍。そのただ中で、大空蒼(おおぞら・そう)だけは退屈そうに欠伸を噛み殺していた。



 一方、単独で先行した六大路辛(ろくおおじ・かのと)と、それを追う黒川玄(くろかわ・くろ)


 辛は飛来した「紙」のベクトルと、自身の有する五行の異能を活用して得た環境情報を照合し、B組の潜伏座標を正確に割り出していた。

 迷うことなく、最短経路でその地点へと肉薄する。


 木々の隙間を高速で縫うように走る辛。

 玄も遅れることなく、その背後にピタリと追従する。


 突如、虚空から無数の紙が現れた。

 それらは鋭利な刃へと形を変え、辛と玄の周囲を完全に包囲する。


 辛は一切の減速を行わず、地を強く踏み込んだ。

 掌から高密度の金属刃を生成し、流れるような動作で一閃。

 鋼の軌跡が、包囲する紙の刃を瞬時に両断した。


「よお、あの時の借り返すぜ」


 紙の残骸が散る向こう側。

 そこには、浅黄(あさぎ)ゴウと、紙使いの少女である花緑青小春はなろくしょう・こはるが立ち塞がっていた。


「一方的に絡んできておいてそれはないんじゃない?」


 辛の背後から顔を覗かせた玄が、弛緩した口調で事実を指摘する。


「てめえに用はねえ!」


 ゴウは顔の筋肉を怒りに歪め、殺気立った声を上げた。

 彼が行動を起こそうとした瞬間、周囲の木々が不自然にうねりを上げ、大量の木の葉が刃となって襲い掛かってきた。


 辛は重力に逆らうように跳躍し、空中で身を翻しながら木々と葉の刃を的確に斬り落としていく。

 玄も即座に影を隆起させ、死角からの攻撃を完全に防いだ。


「邪魔すんじゃねーよ」


 ゴウが苛立ちを露わにして背後を睨みつける。

 そこには西森(にしもり)シルヴァの姿があった。先ほどの自然操作は彼女の異能によるものだ。


「そ、そんなこと言ったって……」


 シルヴァは気圧されたように言葉を濁す。


 辛が着地し、再び刃を構え直したその瞬間、場の空気が一変した。

 敵対行動を取っていたB組の生徒たちを含め、その場にいる全員の視線が一点へと引き寄せられる。


「これはこれは……A組のお二方、御迷惑をおかけしてごめんね?」


 ゴウたちの背後から、静かな足取りで一つの影が歩み出てきた。


 辛は無意識に刃の切先を下げ、警戒のレベルを最大まで引き上げる。

 玄もまた、普段の緩みを消し去り、両目を細めた。


「六大路辛君だよね?」


 歩み寄ってきた少年は、辛を真っ直ぐに見据えたまま言葉を放つ。

 頭の左側に三つ編みを編み込んだ、物腰の柔らかい少年。B組の天竜天色(てんりゅう・あまいろ)である。


「なんだ、お前……」


 辛の口から、警戒を含んだ低い声が漏れる。


 辛の記憶領域にも、玄のデータベースにも、この少年の情報は存在していない。


 天色は顔に笑みを張り付かせたまま、口を開いた。


「いろいろ調整で遅れたけど、入学式と決闘ではお世話になったみたいだね?」


 穏やかな声色で告げる。

 彼の斜め後ろには、朱殷実果(しゅあん・みはか)という見慣れない少年が控えていた。


「それで? オレ達に仕返しをしようって訳~?」


 玄がいつもの調子で問いかけるが、その顔には明確な緊張が走っている。


「違う違う! 確かに此処におびき寄せたけど……A組をどうこうしようって意図はないよ」


 天色は両手を軽く振り、明確に敵意を否定した。


「どういうこと?」


 玄の問いに対し、辛は沈黙を保ったまま相手の細かな挙動を解析し続ける。


「話がしたかったからおびき寄せた。その為の攻撃。うちには毒使いの子がいるけどね、それを使うつもりはないってこと」


 天色は表情を崩すことなく、事もなげに答えた。


「信じろって?」


 玄が視線を鋭くして問い詰める。


「まあ、信じてもらうしかないかな? こちらとしても毒を使ったら巻き込まれるんだ。使いたくないというか使えない。これはクラス全員での登頂が目標だからね」


 天色は辛から目を逸らすことなく、論理的な根拠を提示した。

 入学式で毒を暴走させた生徒はB組にいる。だが、無差別に散布される毒を用いれば、B組の生徒たちも確実に被害を受ける。


「それに、入学式と決闘でお世話になったから、今回はこれ以上A組に手は出さないと約束するよ」


 天色は穏やかな笑みを浮かべ、確約の言葉を口にした。


「信じれる?」


 玄が辛へ判断を委ねる。

 辛の脳内で、提示された情報と目の前の状況が高速で照合される。天色の発言に虚偽の兆候は検出されない。

 何より、天色が姿を現した瞬間から、ゴウを含めたB組の生徒たちから一切の攻撃意思が消失していた。


「分かった」


 辛は短く結論を下し、刃を消散させて踵を返した。


「良いの?」


 玄が確認を求める。辛は無言で一度だけ頷いた。


「戻るぞ」


 辛はそれだけを告げ、来た道を引き返し始める。

 玄がその後を追い、背後では天色がゆっくりと手を振っていた。


「本当に良いのかよ」


 天色の隣で、実果が不満げに問いかける。


「まあまあ、焦らない焦らない。のんびり行こう、ね?」


 天色は相変わらずの笑顔で、実果を宥めた。


「オレ的にはあの半妖と戦ってみたかったけどな」


 実果は両手を腰に当てて吐き捨てる。

 小春とシルヴァが安堵の息を漏らす中、ゴウはポケットに両手を突っ込み、深く舌打ちをした。


「さて、俺達も登頂を目指そうか。日が暮れる前に」


 天色は軽く手を叩いて注意を引き、B組の生徒たちへ行動の再開を指示した。

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