ストーリー設計:⑧伏線は作者の自己満足なのか?
作品の完成度を高めるために、伏線を組み込んだ方がいい、という意見はよく目にします。
ですが、それは本当なのか? と常々疑問に思っていました。今回は、伏線をテーマに考えてみたいと思います。
伏線の定義は、「後の展開で重要な意味を持つ出来事やヒントを、あらかじめ前のほうでさりげなくほのめかしておく表現技法」とします。
■ ありがちな伏線の例
まず一つ、例を考えてみます。
ユート(主人公)が、レオン(敵軍の大将)と一騎打ちをするシーンです。
◇
レオンが一直線に斬りかかって来る。
キィン。
剣と剣がぶつかり合う音が、戦場に響き渡る。さすがにレオンは強い。レオンの剣を何とか押し返そうと、ユートは両腕に力を込める。
そんなとき、レオンはユートの目元の傷をチラリと見た。その瞬間、レオンの目が驚愕で見開かれる。
「お前は、まさか……」
ユートは必死にレオンの剣を押し返しながら、続く言葉を待った。しかし、その続きを聞くことは叶わない。
遠くから火の玉が二人を目がけて襲い掛かって来る。誰の魔法だろうか。そんなことを考える間もなく、二人は後ろに飛びのいて、火の玉を避けた。
◇
架空の設定ですが、一見すると違和感はないように思います。
レオンは何かに勘づきましたがそれをユートに伝えることはできず、最終決戦の直前で「二人は実は生き別れの兄弟だった」という事実が明らかになる、というような展開です。
このシーンは、その展開を匂わすための伏線と言えます。
ただ、この描写単体としての評価は、「絶対ダメというわけではないが、あまりよくない」と思っています。
■ 伏線を無理やり仕込んでいないか
このシーンは、 レオンは「真実に勘づき、ユートにそれを伝えたい」、ユートは「レオンの話を聞きたい」という状況です。
それを、「終盤で明らかになる予定の事実なので、作者都合で会話を中断させている」というのがこの描写です。
一方でたとえば、「ユートと斬り合った後、優勢な状況にもかかわらず敵軍が退却した」、「その後しばらくして、レオンが敵軍内で反乱を起こした」などであれば、まだ理解ができます。
これは伏線が行動と結びついているからで、主人公視点(読者視点)で「なぜレオンがそのような行動を取ったのか」という謎があるため考察もはかどります。
ですが、先に挙げた描写は「伏線のための伏線」になってしまっており、キャラの行動が二の次になってしまっている、と言えます。
■ 連載作品における伏線の是非
さらに、これが一日一回更新の連載作品である、とした場合、伏線の有効性はさらに下がります。
一日に一話しか更新されないのですから、伏線を仕込んだ話から、30話後に伏線が回収される場合、それは一か月も後のことになります。
Web小説であれば、多くの読者は複数の作品を並行して読んでいると思います。また、読者には仕事、学業の時間だってあります。
そんな読者が、一か月も前に書いた伏線――「物語の途中でたった一回、軽く触れた程度の描写」を覚えていて、最新話で回収されて「ああ、あれはそういうことだったのか」と感心する可能性がどれだけあるでしょうか。
完結後、最初から読み返すときに、そういう楽しみ方をしてもらうのはうれしいことです。ですが、リアルタイムで読んでいてそのような気づき、感動してもらうことを期待するのはどうなのだろうか、と思うわけです。
であれば、数話で完結する規模の伏線ならともかく、数十話にまたがった大規模な伏線は連載作品向きではない、と考えられます。
■ 伏線は入れるべきかどうか
私の現時点での結論は、伏線は「入っていた方が面白くなる可能性は上がる」が、「狙って仕込むものではない」というものです。
まず、キャラの内面を深堀して、もれなく描写するということ。
「このキャラなら、この事実を知った時に誰にも知られないように隠すだろう」、「このキャラなら、主人公にだけ分かるような手がかりを残すはずだ」など、キャラの内面を追いかければ、そのキャラがしそうな行動が浮かび上がってきます。それを、サボらず描写します。
その結果、終盤で真実が明らかになった時、「すべてのキャラの行動がつながる」。これが私の理想とするところです。
【今回のまとめ】
・伏線は作品に必須ではない
・キャラの描写を犠牲にしてまで伏線を仕込む必要はない
・連載小説の場合、伏線回収までにかかる時間を考慮する
・伏線にこだわらず、キャラの行動の描写を優先する(それが結果的に伏線になっていた、というのがベスト)




