沈丁花
一応、小説とか書いてるので、辞世の句も書いてみました。同じのがあったらいけないから、ネット検索してみたけど、なかった。
屁みたいに スカして消える 我が身かな
ありがとう ありがとありがと ありがとう
咲く頃に 死ねればいいかも 沈丁花
題名「とてもリアル」
●登場人物
岳野
美馬
武内
河岸
裕志
吉成
(全員、六年生の男子。同じクラスの仲間)
岳野の母親
埋められた男(油絵の中の男・泥だらけの男・腐りかけた男)
刑事と鑑識と発見者
※時計は全てアナログ。時刻は任意で排除して可。
○ある山の中──死体発見現場(夕)
草の生えた場所。大雨。地面が削られている。削られた場所から男の顔が現れる。
○ある山の中──死体発見現場
晴天。刑事と鑑識と発見者がいる。縦長の穴がある。傍らには土山も。三メートルほど離れた場所に男の死体が横たえられている。(穴の深さ=五十センチくらい。穴の全長=男の背丈+二十センチくらい)
刑事「(死体の傍らで)死後、二ヶ月というところか──」
○岳野の家──台所
土曜日。岳野の母親が洗い物をしている。
○岳野の家──玄関
岳野が出かけようとしている。
岳野「行って来まーす!」
母親「(台所から顔を出して)明るい内に戻るのよ!」
岳野「はーい!」
○ある山の登山口
六台の自転車が止められている。
○ある山の中
六人が“死体発見現場”に向かっている。案内役は美馬。岳野の腕時計は午後二時。
吉成「まだ?」
美馬「もう少し」
平らな部分で道が枝分かれしている。
岳野「どっち?」
美馬「あっち! いや、こっちだ!」
裕志「間違いない?」
美馬「大丈夫。僕の場合、今日が初めてじゃないから」
武内「一応、道しるべの目印を」
小枝に赤いテープを巻き始める。(歩いて来た道に生えている木の小枝に)そのとき吉成の奇声が。
吉成「うぎゃ!」
河岸「な、何!」
吉成「ヘ、ヘビ!」
体長二十センチほどの小さな蛇が地面を這っている。
美馬「お前、びっくりし過ぎ!」
河岸「も、もう帰ろうよ……」
裕志「(不満そうに)えーっ!」
岳野「(河岸の肩を叩いて)行こう。まだ三十分しか経ってない」
○ある山の中──死体発見現場
浅く小さくなった穴。土山も消えている。岳野の腕時計は午後三時。
河岸「ここ?」
美馬が、うなずく。
吉成「浅くない?」
岳野「埋め戻したんだろ?」
武内「思ったほど怖くない」
河岸「(空を指差して)あれ!」
不気味な雨雲が急激に出現する。
○ある山の中
六人が大木の下で雨宿りしている。前が見えないくらいの大雨。岳野の腕時計は午後四時。
河岸「(小声で)だから嫌だと言ったんだ」
岳野「……」
※以下、“止む”の記述があるまで雨が止むことはない。
○ある山の中──死体発見現場
窪みに雨水が溜まっている。溢れている。
○ある山の中(夕)
三叉路。日が暮れかけている。雨は小降りになっている。岳野の腕時計は午後六時。
武内「ない……。どこにもない……」
裕志「……」
四人が赤いテープを探している。そこに、少し遅れて美馬と吉成が到着。全員が揃う。
河岸「目印が消えた! ねえ! どっち?」
美馬「(周りを見回して)あれ……?」
分からない様子。
河岸「そ、そんな……」
吉成「腹が減った」
武内「気楽なこと言わないでくれ!」
吉成「何だよ! お前が、ちゃんと巻かなかったせいだ!」
岳野「やめろ! いまさら仕方ないじゃないか!」
美馬「みんな、ごめん……」
裕志「あ!」
河岸「な、何?」
裕志「見て!」
林の中に明かりのついた家が見えている。
○ある山の中の古い小さな洋館──玄関(夕)
六人が古い小さな洋館の前にいる。二階建。全室に明かりがついている。岳野の腕時計は午後六時十五分。
武内「映画で見るような家だ……」
岳野「(玄関に向かって)こんばんは! こんばんは! 留守なのかな……?」
裕志「でも、明かりが」
そのとき内側からドアが薄く開かれる。岳野が中を覗く。だが、誰もいない。
岳野「……?」
○古い小さな洋館──リビングとキッチン(夕)
六人が上がりこんでいる。服から水が滴っている。岳野の腕時計は、リビングの置時計と同時刻。午後六時二十分。
裕志「やっぱ、いけないよね……」
武内「一応、非常時だから」
美馬「電話だ!」
電話を見つけて受話器を持ち上げる。が、通話は出来ない状態。自宅にかけてみる。──やはり繋がらない。
美馬「駄目だ」
吉成「いい匂い」
ドアを開けてキッチンに入ると、テーブルに料理が並べられている。ごはん、フライ、酢豚、サラダ、スープなど。(全て六人前)椅子も六脚ある。
岳野「……」
吉成が数を数え始める。
吉成「一、二、三、四、五、六。一、二、三、四、五、六。一、二、三、四、五、六。これ、僕達の……?」
武内「そんな訳ないだろ!」
河岸「(小声で)本物の馬鹿だ……」
そのとき二階から物音が。六人が天井を見上げる。
岳野「(二階に向けて)勝手に済みません! 道に迷ったんです!」
返事はない。
○古い小さな洋館──階段(夕)
六人が階段を上がっている。
吉成「ドリフみたい」
○古い小さな洋館──二階の一室A(夕)
手前の部屋。六畳間。人の気配はない。子供部屋らしい。二段ベッドがある。
岳野「隣か?」
○古い小さな洋館──二階の一室B(夕)
六畳間の隣。八畳間。人の気配はない。がらんどう。壁に一枚の油絵。草が繁った地面が描かれている。それと掛時計。掛時計は午後六時三十五分。
河岸「もう部屋はないよ……」
○古い小さな洋館──風呂、トイレを含んだ、一階、二階の全室(夕)
画面を分割して全室を映し出す。が、六人以外、誰もいない。
○古い小さな洋館──キッチン(夜)
六人が料理の前に立っている。リビングの置時計は午後八時。
吉成「これ、食べちゃいけないのかな?」
武内「(ぼそっと)いい訳ないじゃん」
吉成「もう我慢出来ない!」
フライを掴んで頬張る。
裕志「食べた!」
岳野が、二つ目のフライを取ろうとしている吉成の右手首を掴んで、
岳野「やめろ!」
○古い小さな洋館──リビングとキッチン(夜)
六人がリビングの床の上で眠っている。全員、下着姿。(岳野だけ首に御守りを提げている)服はキッチンの椅子の背もたれに。料理は、そのまま残されている。リビングの置時計は零時。
○古い小さな洋館──二階の一室B(夜)
油絵に描かれた草が繁った地面。その土中から男の手が。(絵の内容が変わっている)掛時計は零時五秒。
○古い小さな洋館──リビング(夜)
裕志以外の五人が眠っている。(一人分の場所が空いている)リビングの置時計は午前二時二分。
吉成「(寝言)むにゃむにゃ……」
○古い小さな洋館──二階の一室B(夜)
油絵の前に下着姿の裕志が立っている。絵の正面にいるから画面は見えない。掛時計は午前二時二分五秒。
○古い小さな洋館──リビング(夜)
裕志以外の五人が眠っている。(一人分の場所が空いている)突然、美馬が上半身を起こす。表情のない顔。(何かに操られているような表情)リビングの置時計は午前三時。
○古い小さな洋館──二階の一室B(夜)
油絵の前に下着姿の美馬が立っている。絵の正面にいるから画面は見えない。(裕志はいない。美馬しかいない)掛時計は午前三時二分。
○古い小さな洋館──リビング(夜)
裕志と美馬以外の四人が眠っている。(二人分の場所が空いている)突然、吉成が上半身を起こす。表情のない顔。(何かに操られているような表情)立ち上がり、そのまま階段に向かう。リビングの置時計は午前四時。
○古い小さな洋館──リビング(朝)
雨が降り続いている。部屋には岳野しかいない。目を覚まし、上半身を起こして周りを見回す。リビングの置時計は午前七時三十分。
岳野「みんなは……?(窓の方を見て)まだ止んでない……」
○古い小さな洋館──二階の一室B(朝)
誰もいない。油絵に描かれた草が繁った地面。そこに“死体発見現場”にあったような穴が。掛時計は午前七時三十分五秒。
○古い小さな洋館──リビングとキッチン(朝)
下着姿の岳野がキッチンに。が、誰もいない。服も料理も、そのまま残されている。リビングの置時計は午前七時三十二分。
○古い小さな洋館──風呂とトイレ(朝)
下着姿の岳野が風呂とトイレに。が、誰もいない。
岳野「二階か……?」
○古い小さな洋館──階段(朝)
岳野が階段を上がっている。半乾きの服を着ている。
○古い小さな洋館──キッチン(朝)
テーブルの上に御守りが残されている。
○古い小さな洋館──二階の一室A(朝)
誰もいない。
○古い小さな洋館──二階の一室B(朝)
誰もいない。が、油絵の内容が変わっていることに気がつく。
岳野「え? 何で……?」
自宅で料理している岳野の母親がリアルに描かれている。(フェルメール風)
岳野「凄い……。写真みたいだ……」
画面に触れる。すると指先が吸いこまれる。
岳野「あ!」
急いで油絵から離れる。
岳野「……」
一階に戻ろうとドアに向かう。が、泥だらけの男が、「う、う、う……あ、あ、あ……」と、うめきながら廊下を這っている。
岳野「うわ!」
ドアを閉じてロックする。ガチャガチャと外からノブが回される。次に、ドンドンと激しく叩かれる。今にも破られそう。
岳野「た、助けて……。(油絵に向かって)お母さん!」
画面に手を伸ばす。そのまま全身が吸いこまれてしまう。
○岳野の家、或いは油絵の中(夕)
岳野の自宅の台所。目の前に母親がいる。
母親「あら? いつ帰ったの?」
料理している包丁の手を止める。そのとき岳野の手が傍らのテーブルに触れる。手にテーブルと同じ色の絵の具がつく。母親を含め、台所の全てが絵の具で出来ていることに気がつく。足元も、ねちゃついている。
岳野「!」
母親「どうかした?」
包丁を持ったまま息子に近づく。顔が崩れ、絵の具の下から腐りかけた男の顔が露出し始めている。額の一部と、片目と、口元と、頬と顎の一部は、まだ母親のまま。
岳野「そ、そんな……」
壁際まで追い詰められる。
母親「(男に移行しつつある声で)怖がらないで。お母さんよ」
舌を出して息子の顔を舐めようとする。今にも舌が届きそう。
岳野「うう、ううう……」
○ある山の中(朝)
雨の中、古い小さな洋館が見えている。そこに岳野の悲鳴が響き渡る。
岳野「うわぁぁ!」
(この柱まで雨が降り続いている)
○ある山の中
雨が止んでいる。空気が浄化されて太陽が輝いている。
○古い小さな洋館──リビングとキッチン
料理が消滅し、食器は片づけられている。服とかも消えている。
○古い小さな洋館──二階の一室B
光の加減で、油絵に何が描かれているのかが見えない。カメラが絵の正面に移動して、それが見えるように。そこには岳野を含めた六人が描かれている。全員、服を着ている。微笑んでいる。
了




