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矢印スキルで最強を目指す  作者: ミルクイズゴッド
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1話、プロローグ

  俺は今日ほど世界は不思議に包まれているのを実感したことは無い。教室は期待と憧れ、正の感情が溢れていた


  新入生の新学期。高校最初の日はみんなワクワクしてふわふわしていた。これから自分はどうなっていくのか、どんな大人に近づいていくのかと期待に溢れる空気


  俺は、そんなみんなの空気に当てられていた。俺は将来が決まっていた。だから高校も適当に選んだし、適当な気持ちだったのに、俺だけ浮いている感じがして、少し怖かった


「おはようございます。みんな緊張してるかな? 初めまして、私は岡本(おかもと)(じゅん)。1年間担任を任されました」


  ぺこりと小さく会釈をする。それに釣られて周りの少数の生徒も会釈をした


  「ふふっ。みんなだいぶ緊張してるね。部屋が石みたいに固まっちゃうぞー。じゃあ、まずは自己紹介からしていこうか」


  周りを見渡しながら話す教師。俺は番号が若く、一瞬ビクリとしてしまった


「とりあえず私からしますね。名前は岡本純。好きな物はいちご。趣味は今はちょっとした体力作りかな。名前と好きな物、趣味、入りたい部活動まで言えたら完璧ね! じゃあ1番の子から!」


  「え、えっと。私は安藤(あんどう)亜美(あみ)です。部活は吹奏楽部に入ります!」


  俺の番が来てしまった。いつも損するのは若い番号なのだ


「えー、」


  しかし、俺が自己紹介をすることは無かった。きちんと趣味も音楽鑑賞と言う模範的なものも考えたし、部活も決めていた。決して自己紹介したくなくてやらなかった訳では無い


  やれなかったのだ



 ピカッ



  部屋が光り輝く。そして、俺は、俺達は消えた。この世から完全に姿を消した。この事は後に集団失踪事件として何年も語り継がれることとなる


  そして、数年後それは大ニュースとして流れることとなる。しかし、それは後の話。今は、消えた彼らの話となる




 ──────────


  まず、彼らはただの生徒だ。どこかの社長の令嬢やイケメンハイスペック男子もいないただの生徒なのだ


  彼らの中には特別はいなかった。ただただとにかく運が悪かったとしか言い様がない。しかし、その中でも特別な技能を持つこと無く、特別な力を持つことなく、ただ、考え方が他の生徒とは違う生徒がいた


「ここはっ!?」「えっ!?」「教室じゃないぞ!?」「お、落ち着いてみんなっ! とりあえず固まってくださいっ!」


  そこは真っ白な空間であった。雲もなく太陽もなく月もない。ありえないくらい、白だった


「異世界転移、か?」


  眼鏡をかけた男子が呟く。いかにもオタクっぽく陰キャな雰囲気を醸し出している。立ち方も微妙に斜めっており、明らかにおかしい


「す、鈴木くんはコレが何か知っているの!?」


「.......よくある、ライトノベルなどでよくある事です。読んだことがない人もいるから説明します」


  異世界転移とは、文字通り異世界に転移すること。しかし、世界では転移は理論上不可能とされているためただのファンタジーとしか扱われていない


  しかし、それを現実として書いたのがライトノベルでよくある異世界転移だ。異世界転移する世界は様々であり、剣と魔法のファンタジーな世界、過去の世界、未来の世界、パラレルワールド


  だけど、異世界転移かつ教室の全員が転移する場合は絶対に決まっていることがある。それはスキルだ。1人に複数か1つのスキルが与えられる、そして優劣が決まり劣っている人が虐められるのだ


  大抵は俺みたいな陰キャとか、太っている人物。たまにイケメンがそうなるが、それは大器晩成型で後々に強くなりいじめていた人物が悲劇の死をする


  ようするに、


「僕達がこれから行く世界は剣と魔法のファンタジーな世界、もしくは剣のみ魔法のみの世界だ。そせて、これから僕達が会うのは神か、王、もしくはそれに準ずる立場の者か教会だ」


「「「..............」」」


「最も厄介なのが教会だな。俺達は異世界人。だから人として扱われず、人体実験の日々も可能性はある」


「「「っっ!?」」」


「僕が知っていのはこれぐらいだ。でも、それは少ないと思うけどね。自論だけど」


「な、何でなのかな?」


「貴重な異世界人だ。人体実験をして異世界人を解明したいかもしれないけど、魔法がある世界なんだ。文化はかなり劣っている。人体実験なんて腐るほどやっているだろう」


「え..............」


「僕達はこれからそんな世界に行くのかもしれないんだ、覚悟はしておいた方がいいと思うよ。..............、出来ないと思うけどね」


「「「..............」」」


  鈴木の最後の言葉は自分も不安だと言う事だろう。まだ高校1年生。そんな覚悟ができるのはいない。教師ですら出来ないだろう



『安心せぃ。そんな非道なことはしないからのぅ』



  老人の声。しかし、なんとなく安心する声は後ろから聞こえてきた


  一斉に、ばっ、と振り向く。そこにはスーツ姿でシャッキリと立つ老人の姿があった



『初めまして。ワシはアマテラス。日本の神じゃ』


「「「っっ..............」」」


  声が出せなくなる。おかしい。声帯が震えているはずなのに、声が出ていない。まるで、真空空間だ


『むっ。すまぬな。神とお主とらでは次元が違う。わしが一方的に話すことしか出来ぬ。ま、大体は彼が話してくれたが』


「っ!」


  少しビクリとす鈴木。その顔は満更でもない顔だった


『仕事は手短にやる質でのぅ。早速説明するぞ。お主らはこれこら異世界、『アースト』に行く。そこで魔王を倒せばこの世界に戻ってこれる』


『これからお主たちに試練を与える。これにクリアすればそれに見合った「スキル」を与える。これは異世界に行く時のしきたりじゃ。嫌かもしれないが、すまんな』


  ちっとも罪悪感のない顔で話す老人の神。


『試練とは人間の3大欲求に抗うこと。色欲、睡眠欲、食欲。これにどれだけ抗えるかでお主たちのスキルが強くなる。耐えてすぐに戻ってこれるように強いスキル取れ。早く魔王を討伐してくるじゃ』


『では、色欲から始めるぞ』



  思考が塗り替えられる。情欲がふつふつと湧いてきたと思ったら、耐え難い感情がドカンっ、と下腹部を貫いた


  まだ始まって数秒も経たずに複数の生徒が気を失った。耐えられなくなると気を失うらしい。俺は、この地獄の感情を歯を食いしばって、噛み砕いて耐える


  俺は耐えている中で考えていた。なんで、耐えているのか、日本に戻る、俺には親しい友達も親も家族もいない。日本に帰っても変わらない日常を送るだけ。だったらたえなくてもいいんじゃないか? と


  しかし、俺の頭に(よぎ)ったのは親のかわりをしてくれた親戚でもなく、ラブレターを必死の形相で渡してくれた親戚の子供でもなく、漫画だった


  今じゃ題名も思い出せないくらい昔の漫画。その中の主人公の友達の言葉だったはず



【俺は神をも超える、最強の男だ!!】



『終了じゃ。生存は2人か。なかなかじゃなでは次、睡眠欲じゃ』



  下腹部の感情が消えると今度はまぶたの裏が落ちた。学校の授業でよく来る睡魔だ。ただの睡魔なら頭を振れば取れるが、コレは別格だった


  俺は思いっきり下唇を噛み切る。猛烈に痛い。下唇が貫通し、上の歯と下の歯がぶつかっている。俺は、なんでここまでしているのか、



【最強】



  俺は、なりたいものが無かった。高校を卒業したら親戚のところで働いてお金を返す。この事しか頭になかった。だから、お金をもらっても使わずに貯めていたし、ものも買ったことなどなかった


  その漫画は親戚の子供が俺に貸してくれた初めての物だった。【最強】、俺はその言葉に揺れていた。この世界で最強を目指すのもいいんじゃないか? 日本に居ても、つまらない日常を送るだけ。だったら、ここで心機一転した方が


  俺はまぶたが落ちるのを必死で下唇をもっと噛み潰すことで耐える。激痛と睡魔の中をひたすらに耐える。ひたすらに耐える



『おおっ。なんと、これに耐えるのか、人間。凄まじい精神力。凄まじい執念じゃ。なぜ耐える? なにがお主をそこまで追いやるのじゃ? んん? そうか! 最強を目指すか! ならばくれてやる。お主の最後にして最大の試練をっ!』



  眠気が吹き飛ぶ。そして、痛みも無くなった。血の味がしていた口の中には血の味がしなくなり、痛みも消えていた


  が、これまでにない地獄が俺を襲う。飢餓、飢えるとはここまでの重みがあるのか。俺は日本という国がどれだけ平和で幸せだったのかを考えるまでもなく膝から崩れ落ちた


  一瞬で悟った。コレには耐えられない、と。比喩でもなく今の俺は背中とお腹がくっついている。俺は、生きるためにはと喰らいつく



 ───────己の腕を



  噛みちぎり、咀嚼するまでもなく呑む。必死に生きようとする。いやらしく、(みじ)めに足掻く。しかし、コレは人間が、生物が耐えられるものでは無い



(ああ、ここで俺は終わる。俺は諦めなかったんだな)



  なにもしてこなかった人生で、初めて俺は『自分』を主張した


  そして意識がブラックアウトした




 ──────────



『..............ふぅ。やっと落ちたか。あの子は凄まじいのぅ。前回の子や前前回の子と違って魂は常人のそれと何ら変わりなかった』


  一筋の汗が老人の頬を垂れる


『..............やはり、人間は恐ろしいのぅ。ちょいとやりすぎてしまったが、アレを3秒も耐えるとは.......。有り得ないことを成し遂げてしまう』


  その目は遥か遠くを懐かしむように細まる。そして、少しの間目を瞑るとそこから老人は消えた。跡形もなく。そして、白の空間は音もなく崩れ落ちた






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