ダンジョンから帰還したが1
マジシャンスケルトンモナークの骨に欠片が砂の山のように積み上がる。
その上に落ちた黒いハルバードを取りに行く俺。
「冥王さま……」
「ちんたらしている場合じゃないだろ」
「で、でも」
「ほれ、これだろ」
ハルバードに突き刺さった光を失った玉をフェルセに投げる。
フェルセは、急に投げられた玉にあたふたしながら受取り俺を睨んできた。
「こんなの、ただのガラクタ! ゴミクズですよ。 あー、金色の光がっ!!」
光を失った玉を地面に叩きつけた途端、破片が飛び散り砕け散る。
だが、その瞬間、何やら光る物体が出てきて部屋が一段と明るくなる。
「これっ」
「中で光ってたんだな」
慌てて取りに行くフェルセの姿を見て、そんなに慌てなくてもと少し引く。
その中で、ユカリとナツミが黙っているのでどうしたのだろう。
「ナツミ、やったね。 上がったよ」
「わたしも、レベル上がったじゃん。 あいつボスっぽいもん」
「あれボスでしょ。 ここ最下層だし」
「あー…… そうじゃん」
レベルが上がって喜ぶ二人と、金色の光を纏った小さい玉を眺めているフェルセ。
あの魔物を倒して、ダンジョンに潜って良かったけど、俺、後ろで見てたのが多いかったな。
「メイオウさん! フェルセさん。奥がっ」
ユカリの声がこの部屋に響き、俺とフェルセは、奥に目をやる。
金色の光の玉と同じぐらいの輝きをする魔法陣が浮かび上がっている所に俺達は足を進める。
「これって…… 転移の魔法陣じゃないですかね」
「地上に戻れるヤツじゃん」
「わかるのか?」
「さっきレベル上がって何やらスキル上がりまくり」
「そうなんです。 勇者としてのスキル増えて」
ユカリ達のグレーになっていたスキルが、白く表示してあると同時に、ダメそうで勇者として邪魔されていたスキルが灰色になっている。
あの、姫と呼ばれていたドリル髪ポニーテールの槍士とスキルの入れ替えがあったみたいだが、向こうに影響ありぞうだ。
「冥王さま、地上に行きますよ」
「あぁ」
俺達は、光り輝く魔法陣に乗ると光に包まれ目を閉じた。
――――爽やかな風、小鳥の鳴き声。
俺は目を開けると、目に入ってきたのはユカリとナツミが、姫と呼ばれていたドリル髪ポニーテールの槍士と言い争っていた所だ。
フェルセは、俺と共にその光景を見ている。
「失敗勇者が、なんでダンジョン踏破しているのよ!!」
「勇者なんだから挑戦するでしょ」
「そうじゃん」
「勇者として失敗なんだよ。 レベルもスキルもダメダメなのにぃ。くそっ」
「でも踏破したのは現実だから、悔しがってれば」
「そうじゃん」
「ふん、そんな事どうでも良いわ。 お前たちを亡き者すればいいだけ!! お前たち」
「……」
「そうじゃん……。 あっ」
流れ的に違う言葉に、ここにいる一同ナツミを直視する。
「あはは、私たちと戦うって事じゃん」
ドリル髪ポニーテールの槍士とその仲間が、頷くが既に武器を構えていた。
ユカリも咄嗟に剣を構え、ナツミに後ろへ行くよう促す。
それに気づいたナツミは、その緊張感から相手から目を離さないよう少しづつ後退する。
「冥王さま、あれにも参加して良いんですか?」
「殺さなければ良い」
「冥王さまは?」
「自分に何かされた訳でもない。 ここで見ている」
俺の言葉を聞いて、フェルセは微笑みながらユカリ達の所に向かう。
無闇に人の命を奪う事はしたくないが、自らその渦中に飛び込むのも好きではない。
ドリル髪ポニーテールの槍士は、ユカリ達に槍を突き付けて、言い争っている。
ソコに、大盾を持っている一人の、槍士を姫と呼んで最後まで戦っていた戦士が、前に出てくる。
「姫。 ここは国の為、コイツらを」
「……そうだな。 コイツら失敗勇者とその仲間を捕らえる。 殺すなよ」
もう一人の戦士が、前に出てくると同時に、姫と呼ぶ大盾の戦士もユカリ達に近づく。
「いいか、絶対に殺すな。 そして油断するな。 コイツらダンジョンをダンジョンを踏破している。 どうせ汚く卑怯な手を使ったんだろうけど。 我ら戦乙女の使徒の名に泥を塗るなよ」
「失敗なんぞに負けるかよ」
「姫様、回復……」
「あぁ」
女神官が、ドリル髪ポニーテール槍士に駆け寄り、小瓶を渡した途端、直ぐに後退する。
槍士は、中身を一気に飲み、小瓶を投げ捨てた。
ガシャン!!
「ユカリ、来るよ」
「うん」
「やれ!!」
小瓶の割れた音が、ユカリ達と戦乙女の使徒との戦いの合図だったみたいだ。
ユカリは、剣を構え、少し顎を引くと同時に赤い光が纏うと直ぐに消える。
戦乙女の使徒の大盾を持つ戦士二人が、ユカリの前に出て盾を構え、姫と呼ばれていた槍士への行く手を阻む。
大盾の二人に、緑色の光が包み込まれる。
奥の神官が何やら魔法を掛けたみたいで、ユカリの時もナツミが掛けていたと思う。
「――――だっ!!」
「姫を守れ」
ユカリの剣と大盾のぶつかる音が、辺りに響くと同時に、大盾二人が衝撃でバランスを崩す。
その隙間に、ナツミが放った五つの炎の玉が、姫と呼ばれていた槍士に向かっていく。
「ファイア……ボール!!」
「させるか!!」
剣を持つ一人の男が大盾二人の間からユカリに飛び掛ってくるが、その男の前にはナツミが放った炎の玉。
だが、その男に当たる前に黄色の八角形の板が現れ、炎の玉がそれにぶつかり消えていく。
「失格ぅ!!」
「……」
男は、ユカリの頭上へと勢い良く剣を振り下ろすと、それに反応したユカリは、剣で受け止めるとそのまま滑らせ体制を崩した男の脇に逸れる。
そしてユカリの剣は、男の胴へ斬りつけようとする。
男の前に、黄色い八角形の板が現れると、ユカリの剣が弾き返される。
「ちっ。 なんなのアレ」
「何でも防御みたいじゃん」
「俺は無敵だぜぇ~」
迫る男は、剣を振り回しながらユカリに迫る、ユカリはその正体を見極めるのか男を間合いを開けるために少し後退りをしている。
大盾の二人が左右に分かれてる所にユカリは、一瞬目を男から逸らしてしまう。
「ユカリ危なっ!」
「えっ!?」
目の前にいた男が、何故か脇に避けると、放たれた矢のように一本の槍が近づく。
姫と呼ばれていたドリル髪ポニーテールの槍士の持つ槍が、ユカリを貫抜こうと突進し迫っていたのだ。