失敗勇者2
さっきの聖騎士アデオ、ラノベに出てくるカッコイイ脇役に似ているな。
そう思うと同時に、悪寒がしてきた。
「なぁ、聖騎士のヤツ。 アイツの顔殴ってしまった事に、恨んでこないよな?」
オレは、みんなに聞いてみるが、ユカリとナツミは、黙ってそっぽを向く。
すると、フェルセが口を開く。
「恨んで向かってきたら、今度こそ顔ぐちゃぐちゃにすれば。 あのタイプ見ててゾッとする」
「生理的に無理な感じだよね」
「うーん」
「もしかして、ユカリ。 アリなの?」
「だって、ケンジ君に雰囲気似ているじゃない?」
「「似てない!!」」
フェルセとナツミが、揃ってユカリに迫る。
「えっ。 ケンジ君よく話すし、あんな話し方じゃない?」
「いいナツミ。 ケンジは、希桜一途だし。 何だって硬派」
「そう!あのアイツは、ハーレム野郎だし。 『オレイケメン聖騎士〜』ってくそオーラ出てたじゃん」
フェルセとナツミが、どんどんユカリを押していき、ユカリはたじろぐ。
というか、ケンジは希桜事ピノッキオに一途?
それってもしかしてBL的な話なのか?
ますます、内容がわからん。
「わかったよー。 確かにケンジ君は、硬派だしハーレム野郎でも無いし」
「でも、やはりレビオが良いかなぁ。 硬派も良いんだけど」
「うーん。 分かります。 フェルセ姉さん」
「あの、希桜の窮地に現れる所すきなんだよねー」
「あの、崖っぷちのところですよね」
女性三人、俺の分からない物語で盛大に盛り上がっている。
聖騎士アデオと会った階から更に二階程降る。
この階に来るまでの間だが、幾つかの魔物と出会い倒して来た。
その中でも特にゴブリンと対峙する事が多く、中でもワイルドボアに跨ったゴブリンと戦った。
ワイルドボアは、殆ど一直線に向かって突撃するか、噛んでくるかの攻撃。
だから、跨ったゴブリンが、進行方向を急に変えようとしても無理で、全部壁に激突してやっと方向転換出来てたよ。
俺も疑問に思ってたけど、フェルセが直ぐにユカリにナツミに尋ねる。
「ねぇ、失敗勇者ってなんで?」
「召喚された時に、スキルが今ので」
「で、奴ら私たちの能力見て初っ端から『ふん、出来損ない。 失敗か』なんて言ってきやがった」
「それで失敗勇者?」
「それもだけど、その時もう一人いて……」
「思い出すだけでムカつくけど、クソアイツ。 アルスがいた」
「奴らというかあの王様。 アルスを見て『おお、成功したか』と」
「アイツ見下した目で私たちを見てさ。 『失敗勇者だな』ってあの顔イライラする」
召喚された時の事を思い出してナツミは、怒りを込み上げて顔を赤くする。
「でも、不思議だったね」
「何が? アイツら見下す感がムカついて、しまいにお金渡してどっか行けとばかりに」
「その前にアルスと戦って一方的にやられちゃったけど」
「でも、おかしくない? なんでアイツあの時からレベル高いの?」
ナツミの怒りが収まることは無さそうだが、話していて若干冷静になってきていた。
その横で冷静な状況のユカリとフェルセが、先を進む。
アルスが、王と何か話をしてユカリ達と戦う事になったらしい。
「召喚時、高ステータスやらとかじゃないの?」
「いや、二度目だから何となく分かるけど召喚された時は、レベル低いと思う」
「アイツ、余裕ぶちかましやがって。 今度戦う時は、ぼろクズのようにしてやる」
「ナツミ、その戦うとなった時だけど」
「あっ、あの動きキモかった」
「それもだけど、その時アルス。 王様とか初めて会うはずなのにヤケに親しく話してなかった?」
「そう言われると、なんで…… だ?」
ナツミの発言と同時にその先から金属音やら、声がこちらまで聴こえてくる。
刀身が長い菜切り包丁と備中鍬をぶん回している巨体な鬼一体と、五人の冒険者が、攻撃を弾いたり交わしたりと、また隙を着いて魔法で攻撃など、介入しにくい攻防が広げられていた。
五人の冒険者達も、先程会った聖騎士アデオのパーティーとは違い、肌を露出するような武装はしていなかった。
三人前衛の身なりが戦士の様な武装をし、残りの二人は後衛の軽装な装備をしている。
三人のうち二人は剣を持ち、もう一人は槍を持って鬼を翻弄させつつ攻撃をしている。
魔法を使う後衛二人と、槍で攻撃してるのは女性の冒険者だ。
俺達は、この部屋に入りその攻防を観戦している。
ただ、参加する気も無いし、入りたいとも思わない。
「あれ、凄いね」
「攻撃を上手く誘導させているみたい」
「あの冒険者パーティー、さっきの聖騎士……。 あれよりも高いんじゃない?」
「たぶん、あのパーティー。 ヒューズで高ランクのパーティー」
「あぁ。 たしか戦乙女の使徒っていうパーティー名だったような」
ユカリとナツミは、この部屋で戦っているパーティーの事を話してくれた。
しかも、城を追い出されて冒険者になった話や、その時に強い人人をチェックしていたと言う。
「なら、冒険者ランクどのくらいなの?」
「たしか、Bだったような」
「ナツミ、あの魔法使う二人の内、一人がCだったよ」
「そうだっけ……」
聖騎士アデオのパーティーより強い。
連携も上手く、あの鬼の魔物が、すこし苛立ちしているのがこちらまで伝わる。
「あのオーガ、普通のオーガじゃないね」
「鬼みたいに角生えてる」
「今、調べたらあれ、ブルータルオーガっていう魔物ですよ」
「ブルーチーズ?」
「ブルータス。 でそのオーガ」
ナツミのボケなのかそれをも気にかけずにユカリは、ごく普通に真面目な顔で言い直す。
フェルセは、自ら鑑定せずにユカリ達に聞いたのは何故か分からないが。
ブルータルオーガの咆哮が、この部屋に反響し、振動を与え、壁から塵や小石が落ちる。
女魔法使いが、その咆哮に臆したのか片膝を地に着く。
それを見逃さないブルータルオーガは、女魔法使いに向かって巨大な菜切り包丁を女魔法使いに向かって振り下ろす。
距離が離れているにもかかわらず、振り下ろした菜切り包丁は、女魔法使いに当たらない。
だが、振り下ろした物は、軽いものじゃ無い。
包丁も相当重量あるように見え、尚且つオーガの力一杯に振り下ろした威力で地面が、削られ破片が、石礫のように放たれ女魔法使いに迫る。
そこに一人の男剣士が、持っている盾で女魔法使いの守りに入るが、間に合わず。
少し大きめの石が、女魔法使いの胴にあたり吹き飛ばされ、これぞとばかりにブルータルオーガは、守りに入った男剣士の盾に勢いつけて蹴りを入れる。
蹴りの威力で盾が粉砕され、その衝撃で男剣士も吹き飛ばされ、地面へ転がり落ちる。
陣形が崩れ、間合いを取りながらも少しづつ後退するもう一人の男剣士と、女槍士。
魔法を使うもう一人の女が、倒れた剣士に駆け寄り何やら呪文を唱えている。
「あの娘、神官なんじゃん」
「回復追いつかないみたいですね」
「私だったら…… ちょちょいのちょいだよ」
「使えたらの話でしょ」
「まぁね」
気軽なナツミの言葉に溜息を吐きながら答えたユカリは、少し異変に気づく。
迫り来る一人の槍を持つ女性。
息を切らしながら駆け寄ってきた。
「そこに立って観ているなんて最低な奴らだな! 今、どういう状況かわかるだろ! 我々の助けに入れ。 低級な冒険者お前らでも一時的だが我々、戦乙女の使徒のパーティーになることを許す。 陣形を立て直すまで盾となれ!!」
上から目線というか、助けてもらう立場の奴が言える言葉じゃないぞ。
女槍士が、ブルータルオーガの元に駆け戻る。
途中でも「いいな!!」と念押ししてきた。
戦乙女の使徒の女槍士が放った言葉に、うちの女三人とも目と目の間が少しづつ赤く染まっていった。