ダンジョンに行く羽目に
ヒューズの国に入り関所近くの街バラルフドにいる。
このバラルフド、ファンタジーの世界でよく見る中世的な街並みだ。
これ言って目立つものは無い。
言葉を悪くいえば、古そうな建物が多い。
そんな街に着いた途端、コベソは宿に運ばれる。
的確な指示をしているトンドなのだがその顔は、少し焦っているようにも見える。
「おい、どうしてこうなった?」
「いや、分からんです」
「でも、何か『まけん』とか言って倒れて」
「まけん?」
トンドは、その時に御者をしていた者と、コベソを介抱していた者から返答貰っていたが、額から滲み出てくる汗を拭っている。
ユカリとナツミは、眠気まなこを擦り少しふらつきながら、宿の部屋へはいっていく。
トンドが、気を利かせて俺とフェルセにユカリ達の部屋を取っておいてくれた。
「兄さん達。 明日コベソが起きたら何があったか教えてください」
「いや、そんな畏まった内容では無いぞ」
「ん?」
「魔剣……。 この魔剣レーヴァテインってのを見て倒れた」
俺が、透き通る真紅の刀身した短剣をトンドに見せる。
トンドは、目をひん剥いてその短剣を見詰める。
すると、背中から倒れそうになった所を踏ん張った。
「あっ、あぶなっ。 これか、これならわかる」
「これ、倒れされる何かあるのか?」
「兄さん、しまってくれ。 それなら納得だ。 明日、コベソから話あるからその時だな」
俺は、魔剣レーヴァテインをしまいトンドの話を信じて、部屋に行く。
既にフェルセは、ベッドに潜り込んで寝ていた。
また、同じ部屋なのか。
そう、思うが気にしせずに俺も休むとしよう。
ドンドンドンドンドンドンドン
ドドドドドドドドドドドド
激しく部屋のドアをノックする音。
ノックでは無いな。
ある意味嫌がらせ行為だ。
「すっすみませんッス。 起きてくださいー。 コベソさんが」
焦りが含んだ言葉を聞いた俺は、掛け布団を剥がし勢い直ぐに扉を開ける。
聞いたことある声なので、誰かわかった。
嫌がらせノックしたのは、ここに着くまでに御者をしていた一人だ。
「コベソが?」
「メイオウさん。 そうです!コベソさんが……。 着いてきてください」
御者の青ざめている顔をみて、俺は何が起きたか不安になりコベソのいる部屋に向かう。
フェルセも、着いてくる。
そして俺たちは、御者の一人着いてコベソがいる部屋に入る。
すると、俺とフェルセは、その光景を相見えることになる。
「コベソ!!」
「あんちゃん! 姉さん! 何が起きたんですか?」
「それは、こっちのセリフだ」
「コベソ死んだんじゃ?」
「姉さん。 酷いセリフですね。 ワシはそんな簡単に死にやせん」
食卓に並べられた少し豪華な料理を食べてるコベソ。
その並びにトンドとヒロアクツ商会の面々。
トンドが、俺と一緒に部屋に着いた御者の顔を見て口開く。
「そうか、オザメ。 お前が兄さん所に行ったから勘違いしたんだな」
「俺っすか? ただ朝食出来たって呼びに行っただけですよ」
「いやぁ、お前の事だ。 『コベソが、コベソが』と言って言葉足らずで連れてきたんだろ?」
「あっ」
「やはりか。 まぁ良い。 あんちゃんと姉さん。 食事どうですか? 是非。 オザメも席につけ」
締めくくるかのようにコベソが、声を出す。
俺とフェルセは、コベソやトンドに近い席が空いていたのでそこに座る。
「すまんな。 あんちゃん、姉さん。 オザメは、仕事出来るやつなんだが、あがり症でな。 しかも顔色あれが普通で」
俺は、再び確認する為にオザメの顔を見る。
やはり青白い顔色だ。
「それよりも、あんちゃん。 例の魔剣レーヴァテイン譲ってくれないか?」
「冥王さま。 ダメです。 あんなキレイな魔石」
「もちろん、タダとは言わない。 ダンジョンでドロップしたアイテムをウチに優先的に……。 いや、ウチのみに卸してくれれば。 三食宿付きで振舞ってやる。 この街に来たのも我が商会の料理人を連れていく為だからな」
「コベソ。 それでもあんなキレ……」
バタン!
壁に叩きつける程に勢い勝って閉めてたこの部屋の扉が、開く。
「ちょっと!オッサン。 なんで私達には食事ないの? って言うか呼ばれないの?」
ナツミが、ドスドスと床の音を立てながらコベソの近くまでくる。
ユカリもいるがユカリは、ゆっくりひっそりと音を立てないようにナツミの後を追う。
「当たり前だろ。 お主達はワシの客人では無いからな。 たまたまあんちゃん達が、助けたか仕方がなく乗せてきてやったのだ。 寝る所だけでも用意してやっただけ、有難いと思って欲しい。 あっ部屋代は後で貰うからな」
「なっ! なんて酷い。 私達は、勇者よ。 この国を救う者からお金とる?」
「勇者ならアークデーモンぐらいちょチョイのちょいで、倒して貰わんとな。 ワシからみたらお主。 そこいら辺にいる冒険者と何ら変わらん」
「――――いいわ。 部屋代は払うから朝食付きでね」
「なら、払えるなら良いだろう。 帝国以外各国都市に構えるホテル、その中にあるレストラン。 オッティマァアクツだぞ」
白い歯を見せてニヤって笑うコベソ。
それにレストランの名前を聞いて顔が引き攣るナツミ。
「なっ!オッ……。 オッティマァアクツ!? 超高級レストランじゃん」
「そこ、ナツミが何時も何時も、入ってみたいと言ってた所じゃない?」
「何でオッサンが、そんな超高級レストランで食べられるのよ!」
「何でオッサンがか……。よく名前を見てみろ。ワシはヒロアクツ商会の人間だぞ。 オッティマァアクツは我が商会のレストランだ」
高笑いするコベソを横にナツミは、悔しそうな顔をしている。
「わかった。 体で払ってやろうじゃない」
「ナツミ!? 体って」
「コベソ……」
ナツミを心配するユカリと、コベソに不安を感じているトンド。
俺とフェルセにその他のヒロアクツ商会の人達は、それを余所に食事を続けている。
コベソは、持っていたスプーンを置きナツミを真剣な眼差しで見る。
「よし、わかった。 確か近くにダンジョンがあったな。 アソコで下層の魔物からドロップ品を持ち帰ってきてくれ。 それが今回の代金としてやろう」
「わかった。 やってやる」
「まって、近くのダンジョンって確か」
「そうだ。 難易度高いって有名なダンジョンだな」
ユカリの不安は的中。
コベソの言葉で、ナツミは目を泳がせている。
「まぁ、中層に確か高位な魔法使う魔物がいると聞いた事がある。 そいつを倒せばお前ら自称勇者も本当になるってもんだ」
「私達は、勇者よっ!」
ナツミは、コベソの言葉に反論するが、少しオロオロしている。
その時、フェルセの目が輝く。
フェルセは、持っていたフォークを置いてビシッと席を立つ。
「コベソ。 私と冥王さまもついて行くわ」
「なっ」
そうなると思った。
分かってたんだ。
何となく流れでこうなると思っていた。
何度でも言いたくなる。
この朝食の後、直ぐにダンジョンに向かう事になったのは言うまでもない。