ログム国国内暴動3
サムズアップしたコベソは、このこじんまりとした会議室みたいな部屋から出ていく。
俺は、窓から外の様子を伺っていた。
やはり、『帝国!帝国!!』と大気が揺れる程に声を高らかに上げていた人々。城門が開き、その人々が雪崩込むように城内に入ってくると思ってたら、一向に動かずただひたすら声を上げている。
「本当に、大丈夫なんですかね。 あのまん丸」
「俺は、大丈夫だと思う。 コベソ見たいなタイプは、タダでは転ばないからな」
「確かにあのまん丸、転んだら止まらなさそう」
「さて、どうするか? コベソ達は支店に向かったけどな」
「私は、ユカリ達が気になりますね。 あの勇者グレードデーモンを倒したとか言ってたけど」
「というかまた、勇者とか関わるのかぁ」
「仕方ないですよ、冥王様。 ユカリは、一度関わった勇者なんですから」
フェルセは、そう言って扉を開け部屋を出る。
俺は、そのままコベソ達の所に行くのも有りと思ってた、しかし、なんだかんだ言って一度関わっているし、異世界転移を二度しているユカリの状況が、若干だが気になっていた。
多分、フェルセも女性同士だし気になっているのだろう。
俺達は、城内から出る為、少し駆け足になる。
一度、通った事のあるだからスムーズに、いとも簡単に出る事が出来た。
「冥王さま、ここから……」
「――――あぁ」
城門付近に近づくにつれ、先程まで聞こえてたあの騒がしい声が無くなっていた。
さらに、集まっていた人々もいつの間にか、閑散して人一人として誰もいない。
いるとしたら守衛の兵士が二人ほど。だが、その兵士は何故か俺達には気づいていない。
「ちょっと早く、ユカリ達の元に行きましょう」
フェルセは、俺に言い放って更に速く現場に向かっていく。
グレードデーモンは、あの七三分け金髪の帝国勇者によって倒されているのに何故急いでいるのか、分からないが俺もフェルセのスピードについて行く。
「なぁ……」
「なんですか?」
「何故急ぐ?グレードデーモン。 あの帝国の勇者が倒したって言ってたじゃないか!」
「そうなんですが……。 まぁ、なんと言うか……」
「二人が現れないのも分かるが……」
「――――女の勘です。 ついでに言えば神の勘も追加で」
走りながら、目を輝かせてしたり顔で言い放ってくるフェルセ。
女の勘ってよく当たると言うが、神の勘は正直、全くと言っていいほど信用に当たらない。
世界の危機的状況に陥った時、その世界の者で対応出来るのであれば神託を通してたり、または、神自身が降りて救済をする。
その時その時に世界の状況をみて『あっ、やべぇじゃん。これ救わなきゃ』って思った時にやっているだけだ。
つまり、未来を見通せる訳では無い。神は、世界の管理者なだけである。
「二人いないからな、何か起きてるのかもな」
「そうです。 そこに勘が働いたんですよ」
何か少し使い方が、違うかもしれない。
女の勘と神の勘で、不安が当たる確率が半々ぐらいだな、と思いながら走っている。
辺りの建物は焼け焦げたり、崩壊したりとしているが人影は無い。
意外と洗脳されてても避難等は、しっかりされているのかなって見回しながらも、ダンジョンの入口がある広場に着いた。
『でぇぇぇぇ!!』
『フレイムアロー』
百何本もの火の矢が、雨のように降り注ぐ。
黒いローブを纏い銀色の長髪をした男と、戦士の様な鎧で黒い長髪を靡かせた女性が、火の矢が降り注ぐ場所に突進している。
『コンナもの足止めにもナラン!』
『レビオ!』
『……』
ユカリの声にレビオは、コクリっと顎を引き頷く。
二人の目の前にいる、茶褐色した背丈が少し高い魔物。
魔物は二体いる。
それぞれに攻撃を仕掛けて突進してきたが、そこにもう二体の魔物が大盾を持って二人の攻撃を弾き返す。
魔物の後ろには、更に二体の杖を持った魔物が、魔法の壁を作り出して、降り注ぐ百何本もの火の矢を防いでいる。
「やはり、キツいわね」
「ナツミ、ウチらも四人になっているんだから、いけるわ」
ダンジョンの入り口の広場には着いたが、まだ彼女らに認識されるような位置に居ないと筈で、疑問に思いフェルセと目を合わせている。
すると、ユカリの近くにはレビオ。
その後方には、ナツミ。
その間に一人の小柄な男性。
魔王エンビの時見た櫃野希桜事ピノッキオだろう。
後、ユカリとレビオに近くピノッキオの間にいる、身長がレビオと同じぐらいの男性が一人。
よくよく見てみると、白くまるで狼のような髪型にピンと張った獣耳がある。
顔は見えないが、服装からして男性なのだ。
「冥王さま、あれ。 ユカリ達が戦っている魔物」
「魔物? 明かりが少し薄暗いから、よく分からんな」
「グレードデーモンですよ。 全部」
「はっ!? グレードデーモンは、帝国の勇者が……」
「あの大盾見覚え……」
俺は、良く見ていると茶褐色した魔物グレードデーモンが大剣を構えている。
大盾を持っているグレードデーモンは、赤褐色したグレードデーモン。
その後ろにいるのは、灰色したグレードデーモンだ。
「あれ、帝国の勇者と一緒にいた仲間ですよ。 だってあの大盾そうですもん」
フェルセの言葉に俺は、少し目をひん剥くほどに驚きそうになるが、フェルセに気付かれない素振りをしておく。
帝国の勇者は、七三分け金髪だし動きがナルシストっぽい目をキラっとさせて言葉を発し歌を歌い終わる度にキリッとキメ顔していた。そんな帝国の勇者がいたからこそパーティーの仲間の印象は、動きこそ連携がしっかりしていたぐらいの印象しか残って無く、後は全く記憶すら消えていた。
「あぁ、そうだと思っていた。 って言うことは、ヤツら元々人間に成りすましてたって事だな!」
「う〜ん。冥王さま、分かるんですよ私」
フェルセが、俺に上目遣いをしながら言ってくるが、口はにやけている。
「――――アイツら忘れてましたね!!」
「わわわ忘れてなんかいないぞ」
「冥王さまの、嘘をつく時の素振り何となく分かるんですからねっ」
「とっ、それよりあの白髪の獣人っぽいのは誰だ?」
「あっ、アレは……」
「アレは?」
「あっケンジくんですよ!あの小説のっ」
「あれが……。 って知らん」
「ココは、しないんですね」
「……」
フェルセのしたり顔を見てほんの少しだけ苛ついた。
だが、そこは大体予想出来ていたし、ユカリのスキルである召喚も知っていたので、ほんの少しだけだったのだ。
「冥王さま、ユカリ達を助けましょ」
「ユカリ達が、どんだけ強いか見なくて良いのか?」
「グレードデーモン六体ですよ。 一体でも軽々倒せてないんですから」
ユカリとナツミは、ダンジョン内部でグレードデーモンと遭遇し戦っていたのを思い出す。
「よし、参戦するけどな、程々に振舞えよ」
「了解です。 グレードデーモンの魔石、たまに凄いらしいですからっ」
フェルセは、俺の元から走り去りユカリ達が戦っている所へ駆けていく。
俺は、フェルセの事だからユカリ達よりも、やはりそっちなのかぁ〜ってつくづく思い知らされたよ。