ログム国王との食事会
行く先々で街の街灯が灯り、建物が夕暮れ色に染まりながら徐々に夜へ変わっている。
遂に街灯と共に建物の窓や扉から灯りが、街を彩っていく。そうなる少し前に城の中に入る事ができたコベソとトンド一行とそれに同行している俺とフェルセは、街の外が一望できる廊下を歩いている。
城に入ってコベソ達が小綺麗な格好に着替えていたけど、俺とフェルセの服装はこのままでいいと言われて着替えてない。
「良かったですよね。 私たちこの格好のままだから食事貰えなくて嫌がらせ受けるのかと思ってましたよ」
「そうだな。 あんな豪華な食べ物が並んでいるのに食べれんと言われて腹が立つな」
「ですので、取ってきますね。 冥王さまどうします?」
「取りに行くかな」
俺は、国の王を含めた上の人達とコベソやトンド達のヒロアクツ商会だけでやる会合なのかと思ってたけど、この広い会場を見渡すとコベソ達と似ている商会の人やら少し軍人っぽい人達もいる。
それに、俺らと同様に護衛と思われる武器を携帯した人が、ちらほらといるなぁと見ていたら、ある一箇所だけ十数人ほど固まっていたよ。
そんな事お構えなしにさらに盛り付けているフェルセの跡を追うかのように俺も並べられている食事を皿に移している。
「冥王さま、これなんでもビュッフェって言う形式の食事会ですって」
「バイキング形式ってなんだ?」
「…… 冥王さま、日本かぶれだからー」
フェルセは、俺の質問に沈黙したまま盛り付けてスタスタ元にいた場所に戻っていく。
俺は、飾られた食事を各々取っていくというのがビュッフェで、食べ放題がバイキング形式と思っていたんだけど、結局分からないじまいで、俺も食事をとって元に戻っていく。
食事の豪華さに目を映していた俺だが、離れていたけどこの国の王を見ることができた。
獣人の国なので王が、ライオンの様な顔かと勝手な思い込みしていたら、早老の様な顔だった。だが、髪や髭がライオンに見立てているみたいなので、意味不明な安堵感があったよ。
揉め事も無い食事会であり、このまま美味しい食事を貰って満足しているんだけど。
「王がいて、人が沢山いる所に突然魔物やら何かが現れるんですよね」
「このまま美味しい食事会で終わるのが良いんだけどな、フェルセ、お前がそれ言うと起きそうだから止めてくれよ」
可愛いぶるように、謝るフェルセだが、何故だかこいつが言う近い事が起きる。
俺は、薄々と感じてはいたんだけど、フェルセは豊穣を司っていた女神だから、もしかして俺の異世界探索のイベントを豊穣している?とまで疑問を持ってきたよ。
殆どの人が気づいてないのか、一人の男性獣人が早歩きで国王に近づき、国王と何人かの取り巻きと共にこの会場から出ていく。
何か、不可解な光景を見ていたらトンドがやって来る。
「兄さん方、不味い事が起きそうだ」
「トンドさん、不味いってそんな事ないですよぉー」
皿を片手にモグモグと食べているフェルセが、照り焼き肉を刺したフォークを持っている。
「…… 確かに了解は不味くないですけど、今起きている状況が」
「だから、不味く――――」
そんなボケいらんという目で俺はフェルセを睨んだら案の定、分かってて言ってたのが判明。
「トンドさん、何が起きているんですか?」
「多分だが、魔物が街に現れたらしい。 部屋に入ってきたヤツが言ってたのを聞き逃さなかったからな」
「でも、らしいなんですね」
「実際、見てないからな俄に信じがたいけど……」
トンドの言葉を聞いていたフェルセは、片手に皿を持ったまま窓越しに外を覗き込んでいる。
「情報が、ほしいな」
「同感だ」
少しずつざわめいてくる先程まで行っていた食事会をしていたこの部屋は不安を纏った空気に包まれていく。そんな状況になって直ぐ国王が、いつの間にか鎧を装備して現れてきた。
「すまぬ、皆の者よ。 我が屈強たる兵士と冒険者で手分けして街に現れた魔物を退治している所だ。この場所まで来るにも相当の時間が――――」
王の発言している言葉尻が聞こえなくなるぐらい声を上げてコベソと同じぐらいの割腹良い商人風の人が、王に詰め寄ってくる。
「ここに魔物やらはくるのか?」
「今、それを我が国の兵や冒険者達が……。 確実とは言えぬ……」
「くそっ、だから獣じ―――」
「お主、その言葉あまりにも不敬だ」
「フンっ」
割腹の良い商人は、王に付き添っている仕官を鼻でわらう。その商人の凛々しい服の下には、鎖帷子がチラッと見えている。
「なら、国王よ。 私と私の部下達も参戦させてもらうとする。 ダンジョンから出てきた魔物なのだろう」
「そうだ」
「冒険者ギルドも絡んでいるのだ。 魔物を倒したら何か報酬みたいなの有るのかい?」
「ドロップ品として報酬に……」
「甘い、甘い。 ドロップ品は成功報酬の一つだ。 このスタンピードを起こした国が滅ばないように手を貸すのだよ。 わかるか国王?」
国王は、眉間にシワを寄せ悩みに悩んでいるよう目も赤くなっている。その隣にいる仕官は、言い寄ってくる商人に睨みを効かせて怒鳴る。
「お主!」
「止めぬか」
「失礼……」
「報酬は考えて置こう。 冒険者ギルドとの兼ね合いもあるのだ、勝手に決める事は今出来ぬが」
「その言葉しかと聞いたぞ。 よし!お前たちここから出て魔物退治だ!」
その商人の言葉を聞いた部下達は、雄叫びを上げて王に詰め寄ってた商人のあとを追い外に出ていく。
「国王! 本当によろしいので?」
付き添っている仕官が、怪しい汗を拭いながら国王に訪ねていると、その国王は優しい笑みを浮かべる。
「良いんだ。 あの恐ろしい魔物を倒してくれたらそれでいい。 出来なくとも足止めさえ出来ればそれだけで充分だ」
静まりかえった部屋一面に国王の『恐ろしい魔物』と言葉が耳に入った者は、ゆっくりと唾を飲み込み窓から外を眺めている。
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