新鮮なのが良い事
商人達が、冒険者ギルドのカウンターで騒いでいる、そんな状況を横目で見ながら、話しかけてくれた商人らしき恰幅のいい男性に尋ねる。
「戦争は、二フライだろ? オブルまでならそんなに護衛とか必要無いんじゃないか?」
「あんちゃん、ダメだぜ。帝国の南側は、最悪さ。街の中ならまだ良いんだが外に出りゃ盗賊団にしろ魔物にしろ、直ぐにもの欲しさに出てきて物資奪われちまうんだぞ」
「多くの冒険者を護衛に付ければ盗賊からは、襲われ無いんだけどな。魔物は関係無いのさ。そこが厄介だよな」
「それは、商人の皆さんにとって厄介だな」
「兄さんわかるねー。税金もかかるし、護衛の依頼にもお金かかるしよ。利益を出せるかどうかわからんよ。入ってしまったから商売するしか無いんだけどな」
二人の商人が腕を組んで頷いている。俺がこの二人と話をしているとフェルセは、カウンターにいる受付の人に話をしてる。それをみて俺は、商人達に別れを言い、嫌な予感をしながら小走りでフェルセの方へ向かう。
「――――――これは、フェルセ様。この依頼やってくれるのですか?」
「もちろんだよ。こんなの滅多っ」
「なにしてるフェルセ?」
「冥王さま。どっどうして?話は?」
「お前の動きが気になってな。何しでかすか」
俺はカウンターに出されていた依頼の紙をまじまじと見て取り上げる。
「私を気になっちゃうなんてっ冥王さまったらあー。あっ!その依頼ぃー」
「イヤな予感的中だ!このキマイラってのは?」
「キマイラの討伐ですね。ランクBの依頼です」
受付の人が、笑顔で俺達に薦めてきながら説明を続けてきた。
「どうです?キマイラなんて滅多に見られない魔物ですよ。しかも討伐なんて戦う事さえもっと困難な事なのにそれが出来る依頼ですよ」
「そうですよねー。冥王さま受付の人が、こう言っているんですから受けても……」
「滅多に見られないって事は、この地域にキマイラなんていないんだろ。なんでいるんだ?」
「そうですね。実は前にテイマーの方が連れてたんですけど、その人殺られてしまって、そのまま野生になってしまいました」
丁寧に説明してきてくれる受付の人は、笑顔を絶やさず依頼書を俺達に見せてきたら、急に机を叩き前のめりになって、俺達に真剣な眼差しをしながら小声で伝えてくる。
「実は、このキマイラですが、オブル付近で見られ商人達が、迂闊に出発出来ないんですよー。後、護衛をしていた冒険者達も戻って来られず、今ギルド内はこの様な状況になってます。ランクAでおらっしゃる双翼のフェルセ様に討伐して貰えればと……」
「冥王さま、やりましょう。人助けだと思って」
「やらない。やって何か面倒事きそうだ」
「お二人共、やらないと乗合馬車も出ないのでオブル行くの徒歩になりますよー。どうせ徒歩で行ってもキマイラと当たる確率、高くなるかも知れませんねー」
笑顔からしたり顔になって言ってきた受付の人は、フェルセにキマイラを討伐させようと、必死になっているのがわかる。
「あー、わかったよ。討伐しよう。だが、これだけだぞ」
「いえ、お二人共。護衛の依頼を受ける方が、オススメです。出来ましたら、二組の商人を受けては如何ですか?」
「それは、面倒臭いよ」
「いえいえ、フェルセ様。人間の肉が好きなキマイラもランクAの魔物です。お二人共行かれても警戒して出てきません。そこで商人達という新鮮な餌がございましたら……」
したり顔だった受付の人が、今度は悪どい顔をして俺達に小声で囁くように言ってきた。
「あんた、顔ヤバい事になっているぞ」
「それにはご心配なく。こうしないと低ランクの冒険者共に示しがつかないので……」
「オブルに行った冒険者達が、倒しているかも知れないよね」
「フェルセ様、それは無いですわ。オブル行った冒険者の殆どがキマイラに恐れて、ダンジョンへ向かってしまいました。クソ共が…… 失礼」
咳払いをしてから笑顔に戻った受付の人は、ニコニコしている。
「じゃあ、受けるか。その護衛の依頼もそちらで、決めてくれ」
「ありがとうございます。では、少しお待ちください――――――」
受付の人が、席から立つと、俺と言うかフェルセを呼び戻す。
「フェルセ様、フェルセ様」
「なんですか?」
「そう、ご存知でなければ、Aランクの冒険者が最近突如現れたんですよ」
「へー。それは凄い」
「しかも、グリーンドラゴンを一撃粉砕ですって。フェルセ様もドラゴン倒してますよね?」
「まぁ、そうだけど……」
「しかもその人も女性テイマーで、なんと――――――」
タメて話してくる受付の人に、聞き入ってしまっている俺達。ドラゴンを一撃で倒す女性、ただならぬ人物だなぁと思いつつ、もう一方の思いでは、嫌な予感しかしなかったが的中していた。
「――――――ランクSSSの魔物ケルベロスを連れてたんですって。しかもワノクニの着物っていう衣装を纏って……」
それを聞いて俺とフェルセは、目があって一緒に同じ事を言う。
「「ケルベロス」」
受付の人は、ワノクニの着物に憧れているような目をしているが俺達は連れているケロベロスにいささか、不安が過ぎる。
「……しかもですよ。黒い着物にワノクニの花である桜が描かれててドラゴンを粉砕した破片が、桜吹雪みたいに舞った所から二つ名が、できたんですよね」
「そのAランクの名前って?」
フェルセは、恐る恐る受付の人に聞いてみると、
「二つ名は黒い桜って書いてこくおうって呼ぶそうです。【黒桜】のヘカテーさんですね」
ヘカテー……。
俺とフェルセは、その名を聞いた途端項垂れてしまった。俺はまたしてもやってしまったと思ってしまったよ。
「あら、フェルセ様?もしかしてお知り合い?」
「いやぁー。そーなのかなぁー。ねえ冥王さま?」
手を振り否定的な素振りをするが、俺に意見を求めてくる。なんで俺に振ってきたのか分からないが、フェルセの目をチラッと睨みつけて受付の人に適当な事を言って納得させた。
「フェルセとヘカテーは、同じ師の元で旧知の仲なんですよ。それで……」
「あー、そうだったんですね。なら納得です」
こんな適当な事で納得して貰って良かったと胸を撫で下ろしたら後ろからつい先程まで聞いてた声が俺を呼んできた。
「あんちゃん達、やはり冒険者だったのか!俺達の依頼受けてくれてありがとうな」
「さすが、兄さん達だぜー。俺らの方もよろしくな」
「こちらの……」
受付の人の人が商人達を紹介してくれたが、長身でお腹ボコっと出てる男と、丸い体型の男がニコニコしてあまり耳に入らなかった。