勇者達の帰還4
魔王エンビは、体を中心に多くのプラズマを放出している、まさにプラズマが見れる玉の様な状態をしながら、そして更に中心へ吸い込む力を使って俺を倒そうとしている。
俺は、魔王エンビを倒す為にプラズマの中へ猛突進している。
『おー勇気あるねぇ。 身動き取れなくなって焼けて…… 死ねっ』
「……」
『ほらぁっ! プラズマがお前をっ』
「……」
『なっ 何故だぁ! 何故死なねぇ』
「死など俺にないからな」
『なっ アガァッ!!』
俺の持つ二股の槍が、魔王エンビの左肩へ突き刺さりその部分が朽ちていく。刺した所から黒い煙が立ち、灰が舞い、そしてしまいには左腕が落ち、煙となって消えていっていた。
魔王エンビを中心に発生していたプラズマとサイクロンは、俺の攻撃によって既に消え、魔王エンビはフラフラとゆっくり後退しながら辺りを見渡しているように目が動く。
魔王エンビは驚きを隠せない顔をしているが、そんな事関係なく俺は槍を右側に突き刺し右腕を失わせる。
『何故だァ! 私は魔王だゾっ!! それに、あの天使から回復の力を貰っているんだ。 こんなの直ぐにぃ――――』
魔王エンビは無い腕をバタバタ振るような動きをし、俺に怒鳴ってくる。しかも、俺から避けるように離れていく。
俺も離れてどこかに行かないように、しっかりと距離を確保し、俺は魔王エンビを追い込むか込まないかという、絶妙なバランスを取ろうとしている。
『あのクソ天使めっ。 戻ったら泣きわめく様な事をしてやるぅっ』
「おい、あの天使は誰だ?」
『クソ天使の名前など覚えん。 この私を復活させたあのカボチャ帽子のヤツだよぉっ!』
「かぼちゃ…… あの従者か」
『どうでもいいわっ。 貴様をぶっ殺してこの先の世界を頂いてやる』
「お前には沢山聞きたい事があるけど……」
『逃げてあの光が近づく頃、 向こうへ逃げてやるわっ』
俺がトップスピードのまま魔王エンビへ突進をするが、先ほどの会話で少し間合いが開いて槍が届かない。魔王エンビは、逃げるもしくは回避のみに徹しているので、俺の槍に当たらない様に上手く交わしていた。
『いくら、武器が凄かろうとなっ! やはり使い手が弱いとな』
魔王エンビは辺りをキョロキョロしながらも、俺の槍に警戒しつつ回避に徹している。何度か俺の攻撃を回避して慣れてきたのか良く辺りを見渡すような動きをしてきた。
「どうした? 何を見ている」
『うっ うるさいっ!』
「そうだな…… そう言えばそろそろ着く頃か?」
『ああ、そろそろそうなんだが――――』
やはり、辺りを見渡す魔王エンビは、俺の言葉に気がついたみたいで、
『――――お前っ 何かしたな!?』
「まあな。 少しだけ時間を遅らせた」
『……はっ?』
「なぁに、この空間の時間を遅くしただけさ。 普通の――――」
『普通の何だ』
「消えるやつに言う必要はないと思ってな」
『はぁ? 消えるのはお前達だ』
魔王エンビは奇妙に震えるような動きをしに目を見開いた瞬間、俺は、魔王エンビに向かって槍を投げ付けヤツの体に突き刺した。
ヤツの体のど真ん中に二股の槍が突き刺さって次元の壁に貼り付けられている状態だ。
『こっ、これ取れぇ――――』
「それ、取れないぞ」
『この、裏方野郎が調子こきやがって』
「はぁ まぁ良いけどさ。 天使について聞きたいんだが」
『うるさ……。 これ取ってくれたら話してやるよ』
「それはイヤだな。 正直、腕と同様に体朽ちていってるか?」
『うおおぉぉっ!! てめぇ やべぇっだろぅ』
どうにかして逃げ出そうと、魔王エンビはもがいているがズレたり外れたりする事は無かった。
「よく見て安心しろ。 朽ちては無いだろ――――」
魔王エンビは刺さっている所を見て、煙もカスも出てなく出血や致命傷が無いことを安心している。
「――――お前には聞きたいことがあるからな。 ただ刺さっている訳では無い……」
『訳では無い?』
「お前の魔力やら魔王としの力をその槍が吸い取っている…… 勿論回復したり元に戻るなんて事は無いからな」
『ど、ど、どういう事だぁっ! まっ、魔法……』
さっきまで威厳のあった魔王エンビの大きい体が、次第に少しずつだが萎んで小さくなり顔や口さえ閉じきっていた。
安全とわかってフェルセは俺の所へユカリ達を連れてやってきた。
「冥王さま、これ!? エンビですか?」
「ああ」
「おい、あんなに大きかったのに萎んじまってるよ」
「バレーボールぐらいになっちまったな。 すげぇな」
ヤスユキとマサキが槍には近付かない様にしながらも、魔王エンビの変わった姿をまじまじと見ている。
「天使から貰ったって言ってたな」
「たぶん、これじゃないですか?」
フェルセは魔王エンビの魂の中にある物を指さす、それは如何にも回復を表すような緑色で、菱形した立体物の水晶だった。そして、刻字されていた。
「これ、再生の力だな。 ここに書いてある」
「これがあるから、ここでも回復してたんですね」
俺は、何も考えず魔王エンビの体内から緑色の菱形した立体物を掴んで取り出す。
「これで、こいつは回復しないな。 あとタルタロ――――」
『冥王様、お待たせしました』
俺達が、小さくなった魔王エンビを取り囲んでいたら、後ろから上品な声が聞こえたので、俺は振り返ると、そこに壺を持った男がいた。
「まさか、お前がくるとは。 タルタロスは?」
「何でも地球と言う世界で大勢の死者が出来て、その業務で忙しいと言う事で私が来ました」
黒い手袋をした手に大きい壺を軽々しく持ってはいるが、ビジネススーツを着て、オールバックに近い七三分けにメガネをかけた男、オリシスが平然と話している。
地球で起きた大量の死者の話を聞いて、ボソボソとザワつくユカリ達をオリシスは悟って声をかける。
「安心してくださいね、 戦争では無いですよ。 何でもテロとか言ってましたね――――」
ユカリ達は少し胸を撫で下ろすような雰囲気をみせる、オリシスはそんな三人をみて笑みを浮かべる。
「―――因みに御三方。 貴方達が戻る時は向こうで三時間程度しか経ってないので気にせずに」
オリシスの言葉に、三人一堂目を合わせ驚きを隠せてないが、オリシスはそんな事お構えなしに壺の蓋をズラしたのを、それを見て俺は、槍に手を伸ばし魔王エンビを引き剥がす。
「さぁ、そいつを入れてしまいましょう」
「そうだな」
タルタロスの壺には冥界の奥、無間地獄が広がっている。多くの大罪人がいるのだが一時的に閉じ込めて置くのも便利な所なのだ。
俺は、魔王エンビを槍から引き離しタルタロスの壺に入れようとすると、魔王エンビの魂が気持ち悪い振動と起こし、俺の手から離れて
『ダァッハッハッハッ、 私復活なり あの水晶取られたら一度だけふっ――――』
「黙って入ってろっ」
オリシスは、魔王エンビの首根っこ掴んでひったくる様に、タルタロスの壺へ詰め込んで蓋をした。
「冥王様の手を煩わせるな」
あまりにも一瞬で片付いたので、俺やフェルセにユカリ達も唖然としてしまったよ。
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