魔王エンビ戦 4
ユカリとレビオの連携攻撃がリズム良くのり、魔王エンビの防御を崩し、2人の攻撃が入るようになりつつある。
今まで余裕を見せていた魔王エンビだが、ここに来て無言になり2人の攻撃に対応する為、集中してはいるが防ぎきれなくなっていた。
俺の目の前にいるのは勇者であるマサキとヤスユキ。青白く光り輝いて、魔王エンビに掛ける秘術を使う隙を伺っているようにも見える。
「てぇっやぁぁぁ!」
『グァァギャァ!!』
大きくバランスを崩していた魔王エンビの左肩へユカリは、両手に持った剣を力強く振り下ろし、どす黒い血のようなものが吹き出した。
魔王エンビは傷口に右手で抑えようとするが、レビオが傷口に拳を思いっきり殴り魔王エンビを突き飛ばす。
魔王エンビは中々回復しない傷口を手で抑えながら、ユカリとレビオを睨み立ち上がろうとしていた時に、マサキとヤスユキは魔王エンビに向かって手を突き出し、秘術の名前を大きく口にする。
「魔王エンビ、これでも喰らえ!」
「アブソード――――」
『貴様らそれは!?』
「「――――デビルソウル…… キックアウト!!」」
『おォォ、何故貴様らがそれを使えぇぇ』
ヤスユキとマサキに覆ってた青白い光が力強く発行し、部屋全体が光に包まれながら、時が止まったかのよう感覚になる。
2人の勇者からの出される光が徐々に、魔王エンビと2人の勇者を結ぶ一本の線になっていった。
『グォォォォ……』
魔王エンビの悲痛な叫び声と共に、青白い光は球体となって魔王エンビを飲み込んでき、球体から少年のような姿の人が倒れおちる、魔王エンビはいまだ球体の中で叫んでいる。
『おのれぇぇ、貴様ら…… この魔法よくもぉぉ』
球体にヒビが入り、やがて爆発するかのように砕け散る。中にいた魔王エンビの姿が見えてくる。
「あれが、魔王エンビ?」
「足ないぞ……」
「確か魂だけの魔王だもんな、幽霊って事だよな」
勇者三人が魔王エンビをじっと観察するようにしていると、魔王エンビはケタケタ笑ってデカい鼻は揺らし、口角が釣り上がった大きい口、目は細くて鋭い。
「あれ、まるでゴブリンに似てないか?」
「あぁ、似てるな。 真っ白だけど」
マサキとヤスユキが魔王エンビをみながら言っているが、ユカリはウンウンと頷いていただけだった。
『ゴブリンだと? そんな下等の魔物と一緒にするなっ』
耳とデカい鼻を揺らし、宙に漂う魔王エンビは汚い唾を飛ばしながら怒りを露わにする。
『もぅ、そのガキの肉体なんて必要ない。 目の前に活きのいい……』
魔王エンビはこの部屋を見渡し、乗り移れそうな肉体を選んでいて、
『お前に決めたぁぁ! 裏方ぁ』
何と俺をめがけて勢いよく飛んでくるが、目の前でデカい鼻が曲がり思いっきり壁にぶつかった様な気持ち悪い顔をする魔王エンビに、俺は引いてしまったよ。
『なっ、何だァ? 壁だとぉ…… しかもコイツ』
希桜が両手で壁を作っている体勢をしていて、魔王エンビは眉間に皺を寄せながら希桜を睨み付けている。そんな横からレビオが魔王エンビに殴りぶっ飛ばす、壁をなぞり舌を出しながら崩れ倒れていく。
『なっぜっだぁ! 私に物理攻撃は効か無いはずなのにぃ』
顔は白いが怒りを吹き出している魔王エンビ自信、自分の発言にハッとなり両手で口を塞いでいる。
「そうか、物理攻撃が効かない……」
「あいつ自分で言っちゃってるな」
ヤスユキとマサキが魔王エンビを見て失言に笑い、ユカリも一緒に武器に魔力を宿し三人構えて魔王エンビに仕掛ける。
『クッソォ! このままでテメーらを殺すまでだ』
宙に揺れながら魔王エンビは舞い上がって臨戦態勢になる、三人の勇者が武器で斬りかかっていく、レビオを合わせてユカリに着いていき四人で魔王エンビに攻撃を開始する。
魔王エンビは四人の攻撃を紙一重に交わしている、中々当たらない事に痺れを切らしたマサキが少し離れる。
ユカリとレビオの連携にヤスユキも混じって何度も地面を蹴って攻撃する、魔王エンビは宙に漂いヒラヒラと交わし余裕を見せていた。
「みんな、どいてくれ!」
飛ぶ音が激しくなって行く中、マサキの右手が魔王エンビに向けて閃光が放たれる。
一直線に描かれた様な閃光を魔王エンビは軽々横に避ける、だがマサキはそのまま魔王エンビの避けた方へ腕を動かす、放たれた閃光はそのまま魔王エンビの横腹に当たる。
『うげぇっ。 避けたはァァァーーー』
くの字になった魔王エンビはそのまま閃光に圧され飛んでいく、動きが止まったところにユカリを始め三人が魔王エンビに襲い掛かっていく。
魔王エンビはボロボロになって宙を漂いながら睨みつける、今までなら直ぐに回復していたが、全く回復すらしない。
「ねぇ、あいつ回復してないんじゃない?」
「そう言えば…… してない」
「なら、このままヤっちまおう」
『貴っ様らー。 この私がぁ、肉体を持っていなぁーーあぺっぇ!』
レビオが魔王エンビの左頬に強烈なストレートパンチを入れ床に叩き落とす、ヤスユキが持っている武器を振り下ろし魔王エンビの胴体を貫き通おす。
よろめきながら立ち上がろうしている魔王エンビの首を跳ねるマサキに、魔王エンビは部屋全体に反響する悲痛な叫び声をあげる。
『きっさまらを、追いかけ……』
魔王エンビの小さい声を黙らせる様にユカリが縦に一閃斬り付けると、魔王エンビは無言のまま少し笑みを残して消えていく。
「大丈夫?鈴木さん」
「ええ、大丈夫だよ。でもエンビ最期笑ってた」
「負け惜しみだよ」
「まぁ、そうだよな魂たおしたんだから」
「でも、あの姿が元々こんな少年だったなんて」
「全く違うよな。魔王入るだけでイカついオッサンになるなんてゴメンだぜ」
「ヤスユキ、お前も少しイカついぞ」
「うるせー」
確かに俺もじっと戦いを観てた、だけど魔王エンビは攻撃すらしていないのに違和感を感じ、そして消えていった。
本当に消えていったのか? 存在すら感じて無いので魂が消滅する事自体、その時は何も感じて無かった。
レビオと希桜はユカリに手を振りながら消えていく、ヤスユキとマサキは俺が介抱した冒険者達の様子を見に駆け付け談笑している。ユカリはフェルセと話しながら俺の所にやってくる。
「冥王さま、あの魔王エンビなにかおかしい」
「俺もおかしいと思うけど、あれだ異世界もんだから何かだろう」
「なんですかそれ?」
「お二人とも兎に角お城に戻りましょう」
「そうだな」
ここにいる者全員でベルクホルンの城に戻る話に纏まった。
「ヤスユキ、お前この子おんぶして行けよ」
「なっ、なんでだよ?」
「お前、体育会系なんだから当たり前だろ。 しかも戦闘系なんだから」
「笹本君、お願いね」
ユカリは笑顔でお願いをする、ヤスユキはユカリの笑顔にやられたのか、元気よく返事をし張り切って少年をおんぶしていた。
読んでいただきありがとうございます。
これからもどうぞ、よろしくお願いします。