魔王エンビ戦1
勇者ヤスユキとマサキと着いてきている冒険者達が、大きな声で掛け合いながら魔王エンビと戦っている光景が見えている。
離れているとはいえ向こうも戦いに集中しているのだろう、こっちに気付いてなさそうだ。
王子が、魔王になったと聞いていたのでいかにも少年の様な姿と思っていたら魔王エンビの姿は、オールバックに彫りが深い熱血漢の様な顔立ち、そして王族が着そうなフルプレートの鎧と装飾が施されたマントを纏っている。
ヤスユキとマサキの連携プレーも見事だが、着いてきている冒険者達の魔法での攻撃など、魔王エンビの攻撃の手数を増やさないようにしていた。
『たかが、冒険者ごときが我の攻撃を阻むか』
口は動いて無いが、確かに魔王エンビから声が聞こえると冒険者達に向かって火の玉を数発放っては2人の勇者の攻撃と冒険者の攻撃を交わしている。
冒険者達の8名ぐらい後衛のタイプで、弓を射る者もいれば魔法で攻撃をする者や回復や支援をする者もいる。後は6名ぐらいか前衛と思える武器を持って魔王エンビに攻撃を仕掛けていた。
「魔王エンビ。いい加減姿現せ!!」
『何を言うか、コレが我が姿だ』
「ふざけるな。この国の王子の肉体に乗っかっただけたろ」
『クックック、分かっているなら何度も言うな』
勇者であるマサキとヤスユキが魔王エンビに注意を向けさせるように声を掛けているのは、冒険者達も個人ランクがBと言う強さではない。チームもしくはその中でBなのが1人なので、個人個人では低い者もいるけど多分最低でもCと言える強さかな。
その冒険者達も水分補給をしたり、回復などする為に入れ替わり攻撃をしている。
「ねえ、入りにくい状況ね」
「そ、そうですね。上手く攻撃をしているので、ここで入ったら崩しちゃいそうで」
「危なくなったら入るのが良いな」
扉の横に隠れそうな台が、合ったのでそこに俺達は隠れて入れそうな様子を伺っている。
「でも、入らないと笹本君や高木君が……」
「危なくなったら、ユカリは、魔王エンビに攻撃を仕掛けて直ぐに入ればいいよ」
そんな事をコソコソ話して、魔王エンビの攻撃方法を見ていると思うフェルセとユカリ。
『ちょこまか、ちょこまかと。小賢しいわ』
魔王エンビは、少し後方に下がり前衛の冒険者と2人の勇者に向けて手を前に出した瞬間部屋全体に紫掛かった光が眩しく輝く。
俺もフェルセやユカリも目を閉じてしまっていたが、開けた瞬間驚いてしまった。
「何人か倒れてるじゃん?」
「何が起きたの?」
勇者ヤスユキとマサキと冒険者数名は、体が倒れないように手持ちの武器で支えているが、数名は膝を着いていたり横たわって痙攣を起こしている者もいる。
『さすが、勇者といえる。これで倒れないのは褒めてやる』
「倒れる訳にはいかないんだ。俺達は帰る」
「ああ、康幸の言う通りだ。俺達は日本に帰るんだ」
踏ん張って立ち上がり武器を構える。それに応えて倒れていない冒険者達も立ち上がり各々、倒れている者の救護に入ったり攻撃態勢になったりと行動に移していく。
『チェッ、もう一度喰らうが……』
「食らうかって言うんだ」
マサキの攻撃が離れていたのにいつの間にか近づいていて魔王エンビの手のひらを傷つける。
『グッ、ギャァァァォァァァ』
魔王エンビは、魔物が傷つけられてもがいている声に近い悲鳴を上げるが直ぐに気を取り戻したのか、手のひらに力を込めている仕草をするとみるみる傷を回復していく。
『クッ、ハッハッハ。そんな攻撃では私は倒せ……』
言葉の途中でヤスユキが、武器を構えながら飛びかかって斬りつけていく。
『うりぁ!まだ私が話を……』
今度はマサキが、攻撃を仕掛け魔王エンビに喋らせないようにしているみたいだが、多分2人の勇者は気付いているみたいだ。その様子をみてフェルセも気付く。
「あいつ、喋っている時隙ありすぎ」
「魔王エンビですか?」
「ええ、しかも自分が優越感浸っている時は尚更隙だらけ」
確かに、鼻高しい上から目線の時は、時々目をつぶって隙を与えてると思ってた。
『お前ら、私に最後まで喋らせない気だな』
魔王エンビが、怒ってこの部屋全体を見ながら睨みつけ顔が、険しくなり手のひらを前に突き出してとたん、部屋全体が激しく光が充満して何も見えなくなる。10秒ぐらいか経つと光は消えたが、勇者ヤスユキとマサキにそして、冒険者達も光が消えた途端、座り込んだり、倒れている者がいて苦しがっている。
『お前らは、何か勘違いしているぞ――――』
魔王エンビは、腕を組み姿勢よく立ってもがき苦しんでいる勇者達の光景を見渡して、そのまま笑みを浮かべながら続ける。
『――――この部屋にある信託の流水という像は何も我ら魔王の発見や弱体化、勇者召喚に使われるだけのものでは無い。この世界としてはそれだけで充分だが。生きる者に生命力……。回復力等癒しの力も与えてくれるのが、この場所だ』
魔王エンビの後ろにある、女神の像である信託の流水に向かって歩み続け背中に向けた勇者達に語り続けている。
『長年掛けて殺られては復活し続けた私を含む魔王達はこの信託の流水がある場所を――――』
魔王エンビは、振り返り勇者達の方へまた、いやまだ語り続けている。
『――――我ら魔王と連なる者に恩恵を与える場所へと書き換えていたのだ!つまり、貴様達には何も無い普通の部屋だが。貴様達が幾ら攻撃をしてきたとしても、常に私は回復し全快になっている、素晴らしい部屋なのだよ』
拍手をしながら語り始めた所まで歩いていく魔王エンビは、『そう言えばどうだね。先程の攻撃は?苦しいだろうね。君たちの体力等を極限にまで減らす程のダメージを与える技はどうだったかね、クックックゥー』
部屋の中心にまで歩いていて勇者ヤスユキとマサキの前に立つ魔王エンビは、2人に向かって『さぁ、君たちの体力も魔力も尽きかけてる。私はこのようにピンピンしているぞ、さぁどうする?選択肢は1つしかないけどな……』
魔王エンビは、その言葉と同時に両手を天井へ突き出し手のひらに黒い炎が現れ揺らめいて『これで最期は、苦痛と共に焼かれ……』
「魔王ぉぉぉ!エンビィィ」
隠れていたユカリが、冷静さを失ったのか魔王エンビに真正面に飛び出して攻撃を繰り出そうとしている。
「ユカリ!」
「フェルセ」
「あっ、はい」
「あの、炎を消して勇者ヤスユキとマサキと冒険者達に攻撃が来ないよにしてくれ」
「わかりました。冥王さまは、回復ですか?」
「全員を回復とか支援魔法できたらする」
『まだ、隠れて嫌がったのか?くっそぉ』
ユカリの剣が、振り下ろされ魔王エンビの首元に入ると、同時に魔王エンビの手のひらに合った黒い炎が、振り下ろされヤスユキとマサキに目掛けて飛んでいく。
「待っ、あー」
ユカリが剣を振り切るが目線は、その黒い炎の行方。その先にはヤスユキとマサキでユカリの表情が暗くなって泣きそうな顔になる。すると、2人の勇者の前にフェルセが現れ、2本の剣で2つの黒い炎を一瞬で壁へ弾き飛ばしている。
「ユカリ、頭に血が上ってるんじゃない?」
「フェルセさん……」
「勇者達と冒険者達は冥王さまに任せて。わたしがこの後ろに攻撃させないようにするから」
「わかりました」
『何が勘違いしているぞ。勘違いしているぞ、私がこの場では無敵なのだぁ。出てきた事を後で後悔しても知らんぞ』
魔王エンビは、ほくそ笑んでユカリを睨み。その対面に後ろが安心になって落ち着いたユカリが、真剣な表情で魔王エンビに剣を向けて構えている。
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