魔族は祭り好き?
「人違い——もとい神違いです」
それともこの世界じゃあ、異世界の神はすべからく邪神だというのか!?
「いやいや、この辺りを旅する人族の男女二人組なぞ滅多におりませなんだ」
ピンポイントで特定されている、だと!?
なんか体調が心配になるくらい青白いじーさまが「自分たちは間違ってない」と自信満々な件。とゆーか数十年単位で鎖国中のハズだよね、魔国。なぜ人族の見分けができるのだ……。
「それはまあ、人族自体が居ないわけではないですので」
「なんか普通に話してるけど、人間と魔族って敵対してたんじゃなかったけ?」
少なくともこうやって普通に街へ足を踏み入れることは無いと思っていた。ましてや歓迎されるとか絶対にないと思ってたんだが……?
そう言うとじーさまも苦笑い。
「わしらも好きで敵対していた訳ではないのですよ」
魔王や上の者たちは別として、下っ端の魔族は人間が攻めてくるから仕方なく応戦していたと言うのが正直なところらしい。
「で、なぜ俺らが邪神とか呼ばれるハメに?」
「貴方方というよりは貴方様のことなんですがのぅ」
あ、うん。それはわかってた。
「魔王様からの通達がありましてなぁ。今日の昼過ぎにこの街を通りかかる人族の男女の内、男性が我らの神であると」
……あー、うん。これ逃げられないやつですね、わかります。逃げても地の果てまで追いかけてきそう。なにそのホラー。つーか人間が神でも良いのか、魔王?
「ちなみに俺ら、これからどうなるんすかね?」
「じきに王都から迎えの使者が来ますから、連れの方も一緒に彼らと王都へ行く事になりましょうなぁ」
それまでは街総出で歓待しますぞ! とか張り切るじーさま。……気持ちは受け取ったから、あんま無理すんなよー。
*
この街の名前はスミストルというらしい。そしてじーさまの宣言通り、街総出の歓待が始まったのだが……力の入れようがおかしかった。
隠し芸大会のゲスト審査員とか、一日町長とか……おい、俺たち単にダシにされただけじゃねーか? これ、みんなお祭り騒ぎしたかっただけだよな?
立ち並ぶ露店グルメは確かに美味かった。「じゃしんさまー、じゃしんさまー」とじゃれてくるちびっ子どもには少し思うところあったが、まぁ微笑ましいっちゃ微笑ましかった。じーさまばーさまには「生き神様じゃぁー」と拝まれた。俺を拝んでもたぶん利益とかないぞじーさんばーさん達よ。
「なぁ、どう思うよこの現状?」
「どうとも言えませんわ」
「罠にしちゃあ、本気度がおかしいんだよな」
俺らをダシにしているとは言え、祭りの熱気は本物だ。老いも若きも皆、心の底から楽しんでいるのがわかる。
「先ほどのおじい様が仰っていた事は本当、ということでしょうか」
「今の魔王は人間に敵対心がないっつーことか?」
「さあ? そこまでは。リュージだけが例外かもしれませんもの」
……まぁ、魔族の神様だもんなー。例え憎き人間がそれだったとしても飲みこまざるを得ないとか。けど——
「もしそうだとしたら、シータも一緒に行くのはヤバいんじゃあ……」
「私はいざとなればダンジョンに籠りますから大丈夫」
こういう時即座に「いざとなれば守ってやる」と断言できないのが悔しい。強くなったとは言ってもあくまでも自衛ができるようになったって意味であって、まだ他人を守れるほどの強さは俺にはない。だからこそ彼女の自衛手段が多いのは安心材料でもある。今回の旅で俺だけじゃなく、彼女も強くなってるからな。
将来、尻に敷かれそう——って、もう既にそうなっている? ま、まだ慌てる時間じゃないサ!
「何はともあれ、王都から使者が来てからが勝負でしょうね」
「いっそ直球で聞いてみるのも手かもな」
——さて、魔王さんよ。本当のところどっちなんだ?




