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私は心が狭いんですよ


 目が笑ってないマリードさんとその後ろであたふたしてる受付のお姉さんに機嫌が悪そうなゼットさん、野次馬気味にこちらを気にしてるその他の間に挟まれた現在某ウサギのように口が×印になっている私です。



「ユキナグモ様はどこのご出身でしょうか? お顔立ちや髪のからでは判別できないので……」


「それはギルドが知る必要があるか? カードになる者の出自、身分等は気にしないと言う不文律があったはずだが」


「……えぇ、そうなんですが。では、どうしてメリルに来たのか」


「それも教える必要はないな」



 くだらない……、とゼットさんが鼻で笑う。その後も色々と私のことについて聞いてこようとしたけど全部ゼットさんが必要ないという一言で答えてる。確かにゼットさんの話ではカードになるのに必要なことは魔法の適正とある程度の戦闘能力なのにそれに全く関係ないようなことばっか聞いて来るもんなー。


 でもそろそろ何かしら答えてあげないとやばいんじゃない? 心なしか私に向ける視線に殺気が混ざりだしたよ。



「ではレミアス様とはどのようなご関係にあるのでしょうか? ……随分慕しいようですが」



 あれれ、もう笑いもせずに思いっきり睨んできてるんですけど……。さっきから思ったんだけどこの人絶対にゼットさんに気があるよね? だから私さっきからちょいちょい睨まれちゃってんだよね。ゼットさんモテモテー、でも絶対に分かってない。だって本当に嫌そうに顔を歪ませてるもん。



「それこそギルドには何も関係はないだろう。こんなくだらない話はやめて、登録を済ませてくれ。……それとさっきからサチカを睨むのはやめろ」


「……っ」



 マリードさんがギリッと音が聞こえるほど歯を食いしばって私を睨み、目を瞑ってから何度か深呼吸をする。次に目を開けた時には何の感情もない目に笑顔だった。



「申し訳ありませんでした。では登録の手続きに入りますが、そちらはこのイエリナが担当します。これからのカードとしてのお二人の働き、とても楽しみにしてますわ。私はこれで失礼します。……イエリナ、粗相のないように」


「は、はい」



 最後ににっこりと綺麗なお辞儀をして奥の扉に消えてった。なーんか、後味が良くないよね。でもゼットさんの約束でゼットさんが話していいって行った人としか話せなかったし。ゼットさんとの約束を守るか、初対面からいい印象を持てないマリードさんと話すかでは前者を選ぶ。



「え、えと、ではまずユキナグモ様には最終確認として魔法適正を見させて頂きたいのですが……」


「俺が間違いなくサチカが水の適性があると証言する。足りないようならセイフズの隊長や隊員も証言してくれるだろうがそれでも見る必要はあるか?」


「い、いえ……」



 それは流石に魔法適正くらいやっても大丈夫なんじゃ? ゼットさんの服を引っ張って耳に口を寄せる。



『ゼットさん、魔法適正くらいやってみてもいいんじゃないですか?』


「……」



 むっと口を噤んだゼットさんを見上げる。私的には右手でやれって言われてる訳じゃないし、左手で出るのは水魔法の青だから全然やってもいいんだけど……。でもゼットさんは首を振る。どうしてだろうと思ってると左手を掴まれる。それを持ちあげて昨日切った指を撫でる。



「昨日切ったばかりだ、サチカに痛い思いをして欲しくない……」


『………ちょちょ、待って待ってゼットさんっ? そんな、痛い思いってほんの少し指先切っただけだからね、痛みももうないし。そんな理由で魔法適正の検査しなくていいって言ったんすか?』


「そんな理由ではないだろう、きちんとした理由だ」


『いや、そこを訂正しなくていいっすからねっ。……そんなにむっとしてもダメっすよ!』


「しかし、な……」


『ゼットさん、勘弁して下さい……』



 ダメだ、この人。……めっちゃ可愛い。今気付いた訳でもないことだけど、この人めっちゃ可愛いでしょ? こんなちっちゃい傷でももうして欲しくないとか言われたらもう私の心臓が大爆発や……。もう頭ん中可愛いしか浮かんでこないし、顔がニヤけてしまいそうで顔を両手で隠す。そうすると慌てたようにゼットさんが中腰になって私の顔を覗き込んでくる。今は止めてください、そんな様子も萌えに変換しちゃってんじゃん。



「サチカ、怒ってるのか?」

 


 怒ってません、あなたの可愛さに萌えてます。って言えるわけねーだろ。指の隙間からちらりとゼットさんの方を見てみると目をきょろきょろさせて困った様子のゼットさんにもうキュン死に寸前です。同級生の美香ちゃん、君が教室で叫んでたことを思い出すよ。



「年上のー、困った顔とか不器用な感じ? 厳つい人ほどそういうのがキュンキュン来ちゃうんだよねー」


『それって彼氏さんのこと言ってるんだよね?』


「やだー、幸架ったら分かっちゃうっ? もう可愛くてー、毎日が楽しいのっ! 幸架も付き合うなら年上にしなよー」



 美香ちゃんの彼氏さん、11歳上でガテン系で厳つそうに見えるんだけど礼儀正しくて美香ちゃんの行動に一々照れたり慌てたりだったなー。あの時の彼氏さんを見つめる弛みまくった笑顔の理由が分かりました。



「サチカ、何か言ってくれ」



 おっと回想が長すぎててゼットさんを放っておいてしまった。顔から手をどけて代わりにゼットさんの頬を両手で挟む。



『ゼットさん、ありがとうっす。ゼットさんのその気遣いとっても嬉しいです。さっきのは怒ってるとかじゃなくてちょっとした葛藤やら煩悩があっただけなので気にしないでくださいね?』


「……? よく分からないが、怒ってないのなら良かった」



 ほっとしたようなほほ笑みに心臓がキュンと音をたてる。本能のままに両手で挟んだ頬を引っ張って胸に押し付ける。ピシリと固まったゼットさんに私は気遣うことなく頭を抱え込み、髪をわしゃわしゃかき混ぜてこの萌えを発散する。



『っ、もうゼットさんかぁい過ぎ! 私の萌え殺すつもりですか!? 喜んでっ』


「ちょ、っと待て、サチカ! 頭、頭を放してくれっ。当たってるんだ!」


『可愛い可愛い可愛い可愛い×∞』


「サチカ! 聞いているのかっ」



「……あのー」



『「あ……」』



 騒いでる私たちに受付のお姉さんがとても申し訳なさそうに挙手する。そこで初めて自分たちがとても注目されていることに気付く。ばっと勢いよく離る。頬を染めて恥ずかしそうにゼットさんが乱れた髪を直して、せき込む。私もちょっと名残惜しさは感じてたけどあまりにもお姉さんが申し訳なさそうにしてたから大人しく座りなおす。



「えっと、魔法適正の方はレミアス様の証言でパスさせて頂きます。ということで、2人のカードの登録を完了します。こちらが2人のカードになります」



 白のカードを渡される。表には鎚みたいなのが描かれてて、裏には私の名前と魔法、武器、それと3の文字。ゼットさんも同じだ。



「そちらが皆さんがカードと呼ばれる由縁にもなってます、フリーカードと言います。そちらが身分証明としてもお仕えになりますし、バンクギルドでのお金の振り込み、引き落としも可能になっております。依頼の受け付け、達成手続きもこのカードですることになっているので失くさないようにお願いします。ここまでの確認はよろしいですか?」


「あぁ」


「では次に依頼に関してですが、お2人のカードのランクは最低ランク、初級ランクの3

となっております。依頼もご自分のランクの2ランク上まで受けることまで出来ます。ランクは3.4.5.6.7までが初級、.8.9.10.J|《11》.Q|《12》.までが中級、k|《13》.1.2が上級になります。ランクを上げるには依頼を一定量受け、達成することと階級を上げるには試験も必要になるのでお気を付け下さい。依頼は達成した場合のみ支払われ、依頼を達成できなかった場合には罰金やランクが下がることもあるので身の丈にあった依頼をお受け下さい。……ここまで何か質問はありますでしょうか?」


「……複数人で同じ依頼を受けるのは可能なのか?」


「はい、依頼を受けるのは可能ですが報酬やアイテムの分配はご自分たちで決めて頂き、裏切り行為や暴力行為があったとしてもギルドは干渉しませんのでお気をつけください」


「分かった、手続き感謝する。サチカ、今日は帰るぞ」


『はーい』



 ゼットさんに続いてギルドを出る前に奥の扉を見る。そこからはマリードさんがほんの少しの隙間から私を見ている。その目には暗く鈍い光があって、目が合うと背筋がゾクゾクっとする。あの目は嫉妬の色でドロドロだ。ゼットさんのこと好きなんだろーなー、でもそんな目を向けられても怖くない。私はマリードさんに少しだけ笑って、前を歩くゼットさんの背中の服をぎゅっと握りしめる。背中から感じる視線はより一層痛い。



 振り返ったゼットさんがくしゃっと私の髪を撫でる。その感触と手の重さに心が満たされる。マリードさんのことは知らなくて、もしかしたら良い人なのかもしれないけど仲良くならなくてもいいや。だって、ゼットさんと私が一緒にいるのをよしとしてない人が側にいたんじゃあ嫌だもん。


 私も嫉妬してるんですよー。あなたよりも容姿は良くないけどだからと言ってゼットさんから離れる気なんてない。あなたに気を引かせるつもりもない。可愛いゼットさんを知ってるのは私だけで、そんな風にさせるのも私だけでいいんだから入ってこないでよ。……って、私心せまっ!




この感情は嫉妬。そしてほんの少しの独占欲。

(This emotion is jealousy.And just a little bit of possessiveness.)


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