↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

1.水蓮院の巫女

 人の魂とは、どのような形をしているのだろうか。


 その問いにある人は幽(かす)かに灯る火玉のようだと、ある人は天翔ける鳥のようだと、またある人は繊細に舞う胡蝶のようだと答える。いづれも定かではない。


 しかし、一つだけ言えるのはどれほど崇高で清らかな魂でも、未練を晴らさずして常世にいけることは決してあり得ない。例えどれほどの月日がたとうとも。


 ―少女はゆっくりと瞼を上げる。途端に視界が明瞭になり、目の前の朱色の小さな社が、それを取り巻く小川の水のせせらぎが、緑のにおいが体に流れ込んでくる。

 そんな中、ひらりと飛んできた蝶が水面に浮かぶ睡蓮へ軽やかにとまった。


「安らぎの場所は見つかりましたか?」


 微笑みをこぼす少女の問いに、蝶は動かない羽で返答する。その流れで水面に映った人影と目が合った。翡翠色の髪に蓮(はす)の色がかかったびわ茶の瞳。彼女は視線をずらすと再び祈りを捧げる。

 そんな人と自然と神の領域が交差する中、草を踏みしめこちらに向かってくる気配がした。


「ああ、ここにいたのね」


 少女はゆっくりと振り返った。その拍子に翡翠の色した三つ編みが巫女服の上を滑る。


「お祈りは終わった?―なずな」


 その問いに少女―癒禱木(ゆとうぎ)なずなは清く純粋な蓮華のような笑顔で答えた。


「終わったよ、あずさ」


 ―その瞬間、問いかけた少女・癒禱木(ゆとうぎ)あずさの穏やかな笑みは一瞬にして崩壊した。


「そういうことじゃないわよ!なに”とっても”って!もうすぐ儀式が始まるし、今日は父様母様兄様も来るんだから、巫女の私たちが遅れたら癒禱木の恥(はじ)!分かってる!?」

「う、うん、もちろん」


 正直、反省の念が湧かない。相手が自分と瓜二つの双子の姉のせいか、同じ声だからか、はたまたいつものことだからか。


(あ、あずさの巫女服葉っぱついてる)


「聞いてる?」

「えっと祈祷の話だよね。そろそろ演奏の準備でしょ?」

「分かってるなら早く行くわよ」

「見放さないで・・・・・・」

「美優が信じているものは見放さないから大丈夫」

「薄情・・・・・・」


 同じく翡翠色の二つ結びをなびかせ踵を返す姉に、妹は泣く泣くついて行く―が、ふと足を止め瞼を閉じた。

 ここからは双子の姉妹としてではない、神に仕える巫女として接しなければならないのだ。


「行こうか、翠蘭(すいらん)」


 声色と雰囲気を変えたなずなに、あずさ―巫名(かんなぎめい)・翠蘭は笑みを深めた。


「そうね、豊乃(とよの)」


 翡翠色の三つ編みに蓮(はす)の色がかかったびわ茶の瞳を持つ少女、癒禱木(ゆとうぎ)なずな。

 彼女は、巫女だった。

 

◇


 隠れ郷・大和郷(やまときょう)には三つの柱がある。

 天照大御神(アマテラスオオミカミ)を祀り、郷(さと)の統治を司る天照(あまてる)一族。

 月読命(ツクヨミノミコト)を祀り、天照の右腕として郷の未来を司る月読(つくよみ)一族。

 天宇受売命(アメノウズメノミコト)を祀り、神々と人間の架け橋として祭事・儀式を司る神門(みかど)一族。

 そしてその三柱(みはしら)を支える九つの一族と合わせて十二の一族で、大和郷は成り立っている。その中で神門一族が管理する水蓮院(すいれんいん)では今日、祈禱があった。


(普段より人が多いなぁ)


 ちょうど厄払いの時期と重なったせいか、拝殿には大勢の人が参列していた。そのため急遽、祈祷の内容を変更したので、神楽も演奏も普段より幾分華やかである。なずなが楽人として本日神楽笛(かぐらぶえ)を奏でるのもそんな理由だった。

 演奏の腕が高いとか、そんな高尚な理由で選ばれることは今生、断じてないのである。あり得るなら嬉しさで卒倒するだろう。あり得ないが。


「それでは、祈祷を始めます」


 銅鑼の音がここ、水蓮院に響くと同時になずなは気を引き締めた。



 まずは修祓(しゅうばつ)の儀。前に進み出た水蓮院宮司(ぐうじ)・桃仙(とうせん)が祓詞(はらえことば)と共に大麻(おおぬさ)を振る。垂手(しで)―先端についている白い紙が重なり合う音は心地よい。

 続いて祝詞奏上を行うのは禰宜(ねぎ)・昴月(こうげつ)。大和郷一(いち)祝詞が美しいと言われている。確かに彼の紡ぐ調べは女子(おなご)と見紛うような美貌と相まって、非常に目の保養である。

 ちなみに宮司(ぐうじ)も禰宜(ねぎ)も役職名で、立場的には水蓮院のまとめ役である。つまりなずなが話すことすらないような人たちだ。遠目で見る彼らに巫女たちの目が釘付けなのも当然だろう。


(神の御前で巫女がそんな姿になるなんて、いいのかな?)


 そして最後が神に捧げる神楽舞。見やすいように神楽殿という神楽のための舞台で、なずなたちが奏でる旋律に合わせ、鍛錬を積んできた巫女たちが舞う。

 天女が降臨したかのような神秘的な光景に、今度は郷の民の目が釘付けだ。

 その中でも一際(ひときわ)目を引く巫女がいた。


 天巫女(あまみこ)・神楽(かぐら)。


 まばゆく煌めく金髪に、雪のような肌、そしてなにより、アメノウズメを祀る神門の血を引くのに相応しい芸の才覚。彼女は郷に天恵と繁栄をもたらすと言われている”金の踊り子”だった。

 神楽という巫名(かんなぎめい)が与えられるのも当然だ。揺れる金髪も、踊る衣装も、響き渡る鈴の音も全てが彼女のためにある。他の追随を許さない極めた努力の結晶が輝く。

 美しいものに目が肥えたであろう昔の貴人も、心を揺さぶられ読んだ、【天つ風 雲の通ひ路 吹きとぢよ をとめの姿 しばしとどめむ】という光景はまさにこれではなかろうか。


「ああ、美しい」

「生き弁天ですわ・・・・・・」

「さすがアメノウズメを祀る家門!」

「心晴れる思いであるなぁ」


 崇めと感嘆と称賛が飛び交う。息を忘れるような光景であるが、なずなの心は姉のあずさに向かっていた。


(あずさ、本当にきれい)


 神楽には劣るものの、鈴の音(ね)、目線、指先から爪先に至るまでの細かな動きが丁寧だ。ただ圧倒される神々しい金の踊り子と違い、癒されるようなあずさの舞。まっすぐな想いが突き抜けるように届いてくる。目が合うと、彼女はにこりと微笑んだ。


 『あの天女のような少女たちの舞をもっと見ていたい、感じていたい。どうか終わらないほしい』


 その心は誰のものだったか。

 なずなは一層胸を弾ませ奏でた、豊かな音色が巫女舞を美しく彩っていった。

目玉は巫女舞です!素人ながら頑張って調べて描写しました。おかしなところがあるかもしれませんが、暖かい目で見て欲しいです。


面白かったらブクマ・コメ・星でよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。