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エトワール  作者: 都望偲
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招かれざる客

一週間が経った。

門に取り付けてある、インターホンが鳴った。

「はい。どちら様でしょう。」

「東雲あさりよ。庄吉いるんでしょ。開けなさいよ!」

幸い、エイジは自分の部屋に居たので、この来訪には気付いていない。尚美は大きく息を吸い込んだ。

「そのような方は、ここにはおりません。どなたか存じませんが、お帰り下さい。」

「なあに、その言い方!私を知らないですって?大スターの東雲あさり、なんですけど。」

「どなた様であろうと、このような強引な来訪を受ける筋合いはございません。どうぞ、お帰り下さいませ。」

「キ~ッ!なんて女なの!開けないなら、警察でもマスコミでも何でも呼ぶわよ!」

…困った女だ…。尚美は途方に暮れた。

「尚美さん、僕が話しするから、開けてあげて。」背後にエイジが立っていた。


玄関の扉を開くと、東雲あさりが飛び込んできた。

「庄吉~~!」と叫び、エイジに飛びついた。

「あさりさん、落ち付いて!」エイジがなだめた。

「だって、庄吉ったら、急に居なくなっちゃうんだもの。私がどれだけ心配したと思ってるの?」

さっきとは別人のような、甘えた鼻声だ…と、尚美は冷めた気分で思った。


リビングのソファに二人は座り、尚美に出されたコーヒーを飲んだ。

「庄吉、一緒に東京に帰りましょう。」あさりが言った。

「…あさりさん、ごめんなさい。僕、まだ帰りたくないんだ。」

「え~、なんで。一緒に帰ってくれないと、私困るのよ。だって、マスコミが『滝川エイジさんは、どこに居るんですか』とか、『早く連れ戻してくださいよ』とか言うんですもん。皆、私があなたの居場所を知っていると思ってるのよ。まあ、こうやって探し当てられたんだから、間違ってはいないんだけどね…。」

「あさりさん、僕、あなたとは…。」

「ああもう、それ以上言わないで。でもね、庄吉、私達、たった一度だけど関係を持ったのは確かなんだからね。男の責任ってもの、あるでしょう。」

「本当にごめんなさい…。僕、本当にあの日の事は覚えてなくて…。酔っぱらってたから、なんて言い訳にならないけど…。」

聞いていて、尚美は思った。

エイジは意外と酒に弱い。少し飲んだだけで酔うし、すぐ寝てしまう…。これは、もしかしたら東雲あさりの、罠かもしれない…。

「エイジくん、あなた、この方と一緒の時、酔って寝ちゃったんじゃないの?」尚美が聞いた。

「余計な事言わないでよ。あんた部外者でしょ。」あさりが尚美を睨んだ。

「…うん…。朝起きたら、ホテルのベッドの上にあさりさんと二人で寝ていて、でもその夜の事、ぜんぜん覚えてなくて…。」

「酔っぱらってたから、覚えてないだけよ。私は、ちゃんと覚えてるわよ!」あさりが喚くように言った。

「東雲さん、あなた、話題づくりのために、エイジくんを利用したんじゃありませんか?」

「馬鹿言わないで!庄吉、なにこの女。もう、こんなとこさっさと出て帰りましょうよ。」

あさりは立って、エイジの腕をつかんで引っ張った。

「痛っ!あさりさん、引っ張るなよ!」

「止めて下さい!無理強いしないで!」

エイジと尚美がほぼ同時に叫んだ。

あさりは、二人を交互に眺めた。

「…ふ~ん、そう言う事か…。庄吉、あんたこの女とできてるの?私を差し置いて、許せない!だったら、この場所も、この新事実も、ぜ~んぶ、マスコミにぶちまけてやる!」

そう言って、あさりはドカドカと帰って行こうとした。

「待って!あさりさん。頼むよ、そっとしておいてくれよ。」

エイジが懇願した。

その言葉を聞いたあさりが、ゆっくりと振り向いた。

「あ~ら、庄吉。私に『頼む』ですって?だったら条件があるわ。たった今、この女の目の前で私にキスしてよ。」

「あさりさん!」

「ほら、ほらほら。」

尚美は、この状況をどうやったら収められるか、必死で考えた。

「あさりさん、あなた、勘違いしてらっしゃるわ。エイジくんと私は、ただの客と店のオーナーの関係よ。エイジくんは、芸能界に疲れて、ちょっと安らぎを求めて宿泊していただけよ。」

「ふん。そんな言葉で納得するとでも思ってんの。」

「だって、それが真実なんですもの。もし、よろしかったら、あなたも今晩お泊りになりませんか。そうすれば、エイジくんが何故、ここに留まっているのか理解できると思いますよ。」

東雲あさりは考えた。…お洒落なオーベルジュで、庄吉と二人っきりで過ごすというのも、悪くない…(もし、ほんとうにこの女がただのオーナーだとしたら、だが…)。

「そうね…。じゃあ、一泊だけしようかしら。でも、これは確認のためなんだから、お金は払わないわよ。」

「結構です。私も変な噂が立ったら、店の信用にかかわりますので…。」


かくして、「オーベルジュ・シェル・エトワール」は、この夜招かれざる客が一名、宿泊する事となったのだった。

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