表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
路地裏の錬金術師 〜魔境のような村から出てきた錬金術師〜  作者: Ruqu Shimosaka
一章 路地裏の錬金術師

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/102

ワイバーンの革鎧−10

 アレックスはピュセーマの部屋から一階に戻ってくる。

 メグとまだ喋っていたいが、ワイバーンの鎧を急ぎ製作しなければいけない。

 メグに作業を始めると伝えると、見学したいと言う。

 作業自体は隠すような事もないので、見学してもらう事にした。


 作業場に移動して鎧と昨日ザックに作って貰ったミスリルを取り出す。

 鎧の装飾を考える必要がある。

 防具店のハンクから貰った図案を元に改めて装飾を考え直していく。


 魔道具を作る際には魔石から供給される魔力が通る回路を作る必要がある。

 今回作る結界を張るような魔道具は軍事利用される事が多いので、質の良い回路が何種類も存在している。

 新しく設計するより、既存の回路を選んだ方が質が良い。

 何より製作時間が短縮できる。


 今回使う回路をどのような物にするか考えていく。

 街の結界のように、結界を常時張っていると効率が悪い。

 必要な時に結界が自動的に発動するのが一番良いだろう。

 高価な馬車や、魔導士がローブに結界をつける場合に選ばれる事が多い、一時的に強力な結界を発生させる回路が良さそうだ。


 装飾の図案と回路を組み合わせて回路だと分かりにくくする。

 戦闘用に使う魔道具は、回路の見た目で判断できないように装飾で偽装する事が多い。

 今回はそこまで必要無さそうだが、出来る限りの偽装は行っていく。


 何度も装飾を修正して納得できる物がなんとか完成した。

 ずっと作業を横で見ていたメグが声をかけてくる。


「綺麗な鎧になりそう」

「女性用の鎧みたいだから女性目線で綺麗なら安心できる」

「私は綺麗だと思う。ギルド員ではここまで装飾にこだわった鎧を着けた人は見た事ないけど」

「ここまで装飾が多いと普通なら式典用とかになるかも。普通に付加する場合はここまでしないから」


 錬金術で能力付加をする場合は装飾に付加をする場合が多い。

 付加が最低限の場合は鎧にそのまま付加をするのだが、普通は付加が乗りやすい素材を使って装飾を付ける事になる。

 普通の革鎧であれば革自体に彫刻をして、その上に装飾する。

今回のワイバーンの革は鱗がついている為、彫刻する事が非常に難しい。

 彫刻をすれば鎧の防御力を上げている鱗を剥がしてしまう事になる。


 今回はミスリルを糸状に加工して、鎧の強度を落とさないように穴を開けて縫う事にする。

 ミスリルの糸以外にも、能力付加の為に別の金属を糸にしてミスリルの糸と撚り合わせていく。


 最初にミスリルの糸を作り出していく。

 炉を熱してミスリルが柔らかくなるまで温度を上げる。

 次に魔道具の糸車を取り出す。


 糸車は高温でも耐えられ、糸の細さを自動で調整でき、自動で巻き取り続けてくれる優れ物だ。

 魔道具の糸車でミスリルから糸を作り出して行く。

 ミスリルの糸は結構な量が必要になるので半日は糸車を回し続ける事になる。


 糸車が回っている間に鎧に回路の下書きを書いていく。

 下書きに使うペンは特殊な物で、書き上がった状態で魔石を取り付ければ効果は弱いが魔道具として効果が発揮される。

 回路を書き込み終わったところで、一度魔道具として効果が出るか確認をする。

 回路が効果を発揮するのを確認した後に、鎧を一度分解して下書きに沿って穴を開けていく。


 ミスリルの糸が完成したので糸を撚り合わせていく。

 合わせる糸は、アクセサリー作りで使用するオリハルコンを少量混ぜ合わせた金属の糸にする。

 オリハルコンは希少さと金のような見た目から高額ではあるが、硬さで言うとそこまでではない。

 その為、どちらかと言えば装飾や錬金術の能力付加素材として使われる事が多い。


 効果も重要だが、見た目を華やかにしたいので、今回はミスリルの銀とオリハルコンの金色を合わせる事にした。

 メグに創作の意図を説明すると糸を見つめている。


「綺麗な糸」

「ありがとう。上手くいっているようだ。この糸だけで凄まじい金額になりそうだけど」

「言われてみればそうね」


 アレックスはオリハルコンの在庫が心配になるが、依頼は随分と高額なのでこの程度の素材の消費は仕方のない事だろう。

 糸を撚り合わせて完成させる。

 次は縫う事になるのだが、まだ穴を開け切っていないので、先に穴を開けて鎧を再び組み立てる必要がある。

 穴を開けている途中で夜になった。作業はまた明日だ。




 それからアレックスは何日もかけて、鎧に穴を開け、組み立て、回路に沿って糸を編み込んでいく。

 マンティコアの魔石を嵌め込んで問題なく結界が張られる事を確認した後は、偽装する為の装飾を更に作り込んで行く。

 オリハルコンと偽装した装飾に能力の付加をして鎧は完成する。


 鎧の縫う範囲が大きかった事や、下準備に時間が掛かったこともあって、完成まで三週間ほど時間がかかってしまった。

 代わりに鎧の出来は素晴らしい物になった。鎧をメグに見せると、メグも綺麗だと褒めてくれた。

 完成した鎧を早速ハンクさんの元に持って行く事にする。


 ピュセーマに乗ってハンク防具店に着いて中に入ると、すぐにハンクさんから奥の部屋で話そうと案内される。


「魔道具ですからもう少し時間が掛かると思っていました」

「かなり急ぎましたから。そういえば魔法鞄の件ありがとうございました」

「いえいえ。無茶な依頼をお願いしたお礼です」


 作業三日目にハンク防具店から使いが来て、魔法鞄用の皮鞣しができる工場が見つかったと連絡が来た。

 その時にマンティコアとオルトロスが手に入ったので、アレックスが担当する鎧が一つになった事も伝え聞いていた。


 ハンクが早速完成した鎧が見たいと言うので、アレックスは魔法鞄から鎧を取り出す。鎧を見たハンクさんは一言「素晴らしい」と声を上げた。

 ハンクさんは鎧を細かく確認している。


 アレックスが鎧に取り付けた結界の魔道具を発動させてみせると、ハンクさんは非常に喜んでくれた。

 ハンクさんからの依頼は初めて受けたので、どのような反応になるか心配していた。

 今のところは問題がないようだ。


 敢えて装飾を入れてない場所は紋章を入れる為に残した場所だと説明し、使った材料や加工方法を話して行った。

 全て話し終わると、ハンクが深く頷いた。


「想像以上の出来です。これならばお客様も納得されるでしょう」

「そう言って貰えて安心しました」

「これで私への納品は完了とします。代金をお支払いするので少々お待ち下さい」


 アレックスが待っているとハンクさんが大きな袋を複数持ってきて、目の前の机に置いた。


「前金と合わせて金貨千枚です」

「千枚は多くありませんか?」

「いえ、急ぎの依頼ですし、ミスリルとオリハルコンを使った事を考えれば妥当でしょう」


 確かにハンクさんのいう通り、ミスリル、オリハルコン、特急料金の三つを考えれば妥当な金額かもしれない。

 だが錬金術師が儲かると言っても、一度の依頼でここまでの額を稼いだ事は初めてで動揺する。


 ハンクさんから次回も依頼を受けて貰いたいので、正当な金額は受け取って欲しいと言われる。

 ハンクさんはその場での利益を重視するのではなく、職人との付き合いを重視する姿勢を示してくれたようだ。

 納得して報酬を受け取る事にした。

 アレックスがお金を受け取った事で納品は完了した。


 アレックスはハンクさんに見送られて店を出る。

 アレックスが自分の店へと戻ると、店の中にはメグが店番をしてくれていた。

 鎧の納品が無事終わった事をメグに伝えると、自分の事のように喜んでくれた。

 次は何を作ろうかと考えていると、メグから話しかけられる


「アレックス、ところで店の名前は決まったの?」

「アレックス錬金工房が分かりやすいかな?」

「いいと思う。だけどギルドの依頼を大量に出したからか、路地裏の錬金術師が既にギルドで有名になって来ているみたいよ?」


 店の名前が決まっていなかったので路地裏の錬金術師で出したのだが、個人名のアレックスで出すべきだったか。

 アレックスは失敗したと頭を抱える。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ