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アヤタカ  作者: ふさふさ
オミクレイ国編
31/31

第31話「再開」

 「そういえばストロ先生。どうしておれたちが攻撃されてる時のこと知ってたんですか?」

 「ああ……校長先生から、水晶玉を渡されていてな。今回私の依頼だって口実で、本当はフレイヤのために私はオミクレイ国に寄越されていたんだ。アヤタカがフレイヤと一緒に私の元に来た時に、フレイヤを水晶玉で追えるよう魔法をかけさせてもらった。」

 「なるほど、だからおれたちのところに来れたんですね。」

 おぶさったまま、アヤタカが納得の声を漏らす。

 走りながら、ストロ先生はこくりと頷いた。

 今、動けないアヤタカをフレイヤが背負い、さらにそのフレイヤをストロ先生が肩車のように抱えて走っていた。

 出口を目指す一行を遮る敵はおらず、静かな大広間にはただひたすら、ストロ先生の足音が響いていた。

 出口はすでに見えている。薄暗いところにいたせいで、出口は光で真っ白に見えた。

 ストロ先生が速度を上げる。その光差す出口が目の前いっぱいに広がった時……。

 べぃんっ。

 見えない壁に阻まれた。

 「なっ……」

 ストロ先生が声を漏らす。フレイヤとアヤタカをおろし、あいた両手で目の前の見えない壁をぺたぺたと触った。

 「これも侵入者、もしくは逃亡者対策か。」

 おぶってもらっていたフレイヤから、放るように手を離され、ようやく自分の力で立ち始めたアヤタカが見守る中、ストロ先生は壁に右手をかざしだした。

 そして目を閉じ、ゆっくりと呼吸をしている。

 目の前の見えない壁が青く光りだし、淡い光の粒を撒き散らした。

 「……ダメだ。解除にはかなりの時間がかかる。」

 目を開けて、ストロ先生が吐き捨てるようにして呟いた。そして言葉を続ける。

 「大丈夫、窓から侵入できたんだ。ここからじゃなくても出口は……。」

 「先生!」

 唐突にアヤタカが指をさして、潜めた声をあげた。

 彼の指差す先に見えるのは、一体の精霊体。

 外から、よろよろと歩いて来る。

 ストロ先生は素早く出口から離れた。指で合図して、柱の影へアヤタカとフレイヤを向かわせる。

 柱の影からその謎の精霊体を覗き見たまま、ストロ先生が小さな声で言った。

 「ここの関係者……ではなさそうだな。泥棒か?」

 その怪しい男が、扉も何もない、ただ魔法の壁が鎮座するそこに足を運んだ時。

 何も無く、男は魔法の壁をすり抜けて行った。

 「えっ!」

 思わず三体が声を漏らす。

 慌てて各々口を塞ぐが、男は気付いた様子もなく、不慣れな足取りでそのまま歩き続ける。

 「……どういうことだ、あれは。」

 「分かりません」

 「分かりません」

 ストロ先生の独り言のような問いかけに、生徒である二体が答える。

 魔法を解除した様子も無い、通行手形等に魔法が反応した様子も無い。

 理由はわからないものの、男の前では、まるで魔法は元から無かったかのように、効果を為さなかった。

 「……よし、絞めあげて吐かせよう」

 「賛成」

 「反対」

 フレイヤの提案に、それは良い手だと賛成したアヤタカ、つい反射的にそれはどうかと反対したストロ先生。

 「……いや、そうしよう。」

 一拍遅れて、ストロ先生も賛成した。元よりこのメンバーでは、締めあげられるのはストロ先生しかいない。

 「お前は反対すると思ったんだけどな……」

 提案したフレイヤが、残念そうに呟いた。




 「……あれ、おじさん?」

 「君は、あの時エンブレムをかけた……」

 「ストロ先生、ちょっと待ってください! フレイヤ、このおじさん、おれにエンブレムの魔法をかけた絵描きのおじさんだ!」

 男の首根っこを掴んで、床に押さえつけているストロ先生を、アヤタカが止めた。

 ストロ先生が小さな手を離す。ごほっと咳き込みながら、絵描きことカルは起き上がった。

 目を伏せ、拳を握りしめながら、何かを考えている。そして一瞬だけ目をつぶり、次に目を開けた時にはアヤタカの目をひたと見つめていた。

 「……馬車が来た時、君を置いて逃げてしまってすまなかった。こんなこと言えた義理じゃないかもしれないけど、無事でよかった。巻き込んでしまって、本当に申し訳ない。」

 そう言って、床に膝をついたカルは頭を深く下げた。アヤタカは中腰になって、カルの顔を覗き込みながら優しく話す。

 「もう、いいんだよおじさん。そのおかげで……友達を守れたから。」

 アヤタカはちらりとフレイヤの方を見る。フレイヤはぷいと顔をそらし、気持ち悪い表現するな、と呟いた。

 カルが呟く。

 「友達……」

 アヤタカに、カルの心が震えるように揺らぐのが伝わってきた。アヤタカはどうしてカルがエンブレムをかけたり、エンブレムを知っていたのかを聞きたかった。しかし。

 「聞きたいことは山ほどあるし、お前のせいで私の教え子は危険にさらされることになった……。それが結果オーライだったとしても、私はお前に感謝はしない。そして、何故お前は魔法の壁をすり抜けられた? 何か知っているなら、罪滅ぼしとして私たちの脱出を協力しろ。」

 アヤタカが聞くより早く、ストロ先生がドスの効いた声で喋っていた。

 カルがもう一度深々と頭を下げる。白髪交じりに髪が、カルの顔にはらりとかかる。

 「本当に、申し訳ない……。あの、私はモリオンの精霊体、又の名を、黒水晶という鉱物の精霊体なんです。魔法が効きにくい体質……。そのため、魔法の壁を通り抜けられたのは恐らくただの私の体質でしょう。」

 「モリオン……」

 ストロ先生が、私の討伐依頼にあった獣と同じ精霊体だ、と呟いた。

 先生が依頼で倒した獣、ポエナは魔法が効かなかった。

 残念そうに、彼女は呟く。

 「……そうか。なら、どうしようもないな。手間をかけたな。行ってくれ。あなたが何をするためにこの城に侵入してきたかは、私も言及しない。ただ、私たちという侵入者がいたため城の警戒心は今かつてないほどだろう。気をつけ……」

 「会いたい誰かがここにいるの?」

 口を挟んだのはアヤタカだった。

 周りからなんて思われるか分からない脈絡のない言葉、話してる途中に割り込む行動。アヤタカがこれまで避けてきたこと。

 しかしカルから伝わってくる、狂おしいほどの思慕の感情に、アヤタカの口が勝手に動いていた。

 カルが目を丸くして呟く。

 「そう、だが……。君は一体。」

 その場にいた全員から不審に思われているのはアヤタカも感じていた。しかしそれ以上に伝わってくる思慕の感情が、アヤタカを呑んでいく。

 「そんなに、大事な相手なの?」

 悲願、自己犠牲、カルから伝わってくるのは、そんな意思ばかりだった。

 そうしてまで会いたい相手。

 カルはアヤタカの目を真っ直ぐ見つめ返す。

 「そうだよ。」

 答える瞬間にカルは真剣な目を見せた。それはとても強く、澄んだ目。

 しばらく二体が見つめ合い、そして。

 「……協力するよ」

 アヤタカの口からは、そんな言葉が出ていた。

 「はあ!?」

 「おい!」

 すかさずストロ先生とフレイヤが反発の声を漏らす。その声にアヤタカはハッと我に返った。

 「バカかお前は! そんな場合じゃないだろ! 何考えてるんだ本物のバカか!」

 フレイヤがビシバシと罵声を浴びせてくる。我に返ったアヤタカも、自分はこんな時に何を言ってるんだと自分で自分に思わずにはいられなかった。

 まさかカルから伝わってくる感情に感化されて協力したくなってつい口から出てしまったとは言えないアヤタカは、何と答えればいいのか、視線を宙に彷徨わせながら考えた。

 「その、正義心を刺激されて……」

 「なに、何かの主人公みたいなこと言ってるんだ!」

 「おれだって分かんないよ、でもただとにかく、おれもその精霊体に会いたいんだ!」

 「はあ!?」

 アヤタカはまたもや自分の言ってることに あっと思い、冷静になれと自分に言い聞かせる。

――やばい、この絵描きのおじさん、感情が強すぎる。

――やばい、このままじゃ呑まれる。この「会いたい」の気持ちはおれの感情じゃないんだから。勘違いするな自分。こらえろ、こらえろ……。

 頑張って自分に言い聞かせる。言い聞かせるけれども。

 「ああ駄目だ! 会いたい! 会いたいよねおじさん! すごいやっとって感じするもん! 協力するから、行こ!」

 アヤタカはあまりのカルの「会いたい」の強さに抗えなかった。

 フレイヤの訳が分からないと戸惑う感情も、ストロ先生の心底呆れるような感情もアヤタカの心に伝わってきてはいたが、それ以上に、カルの強い感情に完全に飲まれてしまった。

 しかし当のカルからすらも戸惑いの感情が伝わってくる。

 「き、気持ちは嬉しいけど……おれもどこを探せばいいか分からないんだ。この宮殿にいるとも限らない……。おれが探しているのは王の仮面、王に顔を取られた昔の親友だから。」

 その言葉に、アヤタカとフレイヤがぴくりと反応する。ストロ先生だけが、その言葉に首を傾げる。

 「王の仮面……」

 その単語をアヤタカが復唱する。

 こうしている間にも、アヤタカの心にはカルの強い願いが入り込んできている。アヤタカはただひたすらに考えた。

――会いたい、会いたい。どうすれば、何か方法は……。

 そうだ、とアヤタカは呟いた。

 「ついて来ておじさん。ここにいるかどうかくらいなら、分かるかもしれない」

 それだけ言って、アヤタカはカルの手を引き、適当な通路に入っていった。

 「ま、待てサイオウ!」

 「おい! フレイヤまで……ああもう! お前たちが行くんだったら、私もついて守らなきゃいけないじゃないか!」

 フレイヤとストロ先生がそれぞれ声をあげ、その後をついて行く。

 自分が身勝手なことをしているのを分かってはいるものの、アヤタカは自分で自分が止められなかった。

――どうせ他の出口を探すついでみたいなものだと思えばいい。もういいや。

 ただひたすらアヤタカは、カルの親友に会いたかった。

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