表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
しがない悪役令嬢ですが死に戻らせて頂きます~精霊使いが家出したとたんに聖騎士と義妹が保護しようとしてきます  作者: 奏多


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

2:立場を奪った悪役令嬢として、処刑宣言された回帰前

 歩きながら、私はマリーシアの変わりようについてつい考えてしまう。


「あれ、どういうことなんだろう」


 野菜売りをしているなんて、前回の人生では聞いたことがなかった。

 それに、キャベツキャベツと連呼することもなかったし。

 できるだけ、庶民生活のことは話したがらなかったもの。


「だいたい、私と会って感動して泣くのも変……」


 なにもかもが不思議すぎる。


「私が二年戻った結果、何かが変わったのかしら? ……どうしてこんなことになったのかも、よくわからないし。でも不思議といえば、私が時間を戻ったのもそうよね」


 そうして私は、少し前、自分の部屋で目覚める前のことを思い出す。



 ※※※


 今から二年後……18歳になった私は、王宮のパーティーに出席していた。

 どうしても来るようにと、父に命じられたからだ。


「本日は、我が娘マリーシアと王子殿下の婚約を発表できて、本当に嬉しい限りです」


 ――広間の中心で、父フィディアス伯爵が話し始めている。

 父の隣にいるマリーシアは、沢山のレースと真珠を縫い付けた華やかなドレスを着て微笑んでいる。

 そのマリーシアの横にいるのは、婚約相手の王子だ。


(早く終わらないかな……)


 私は何一つ楽しくはなかった。

 知り合いもいないし。

 ドレスは母の遺品を着ているせいで、さっきからひそひそ噂されているし。


「あの方、フィディアス伯爵家のレイナ嬢? 初めて見たわ」


「体が弱いから外に出ないし人にも会わないと聞いていたけど……」


 私は体が弱いわけじゃない。

 父に嫌われている私は、仕事をしないと食事を抜かれる毎日で。


 嫌な記憶を思い出して、私は無意識にきゅっと唇を引き結ぶ。

 この一年は、毎日のようにマリーシアに魔力を一時的に強くする花を咲かせさせられていた。

 それでマリーシアは、魔法使いとして名声を上げ、王子に見染められたのだ。

 これからも同じことが続くのかな……と想像すると、鬱々としてくる。


「なんだかドレスも古……古風な品を着ていらっしゃるのね」


 着ている古ぼけた赤のドレスは、私のベージュ色の髪にも緑の瞳にもよく合うけれど、周囲の貴婦人達に嫌そうな目を向けられていた。

 悪口を聞くまいとしていた私の耳に、とんでもない話が飛び込んできた。


「王子殿下と娘マリーシアの結婚について、不安を抱いている方がいたことは存じております。でもその懸念はなくなりました。マリーシアこそ、亡き妻の娘だったと判明したのです! この喜ばしいご報告ができて、本当にうれしく思います」


「え?」


 今、なんて言ったの?


「長年、亡き妻の子は長女のレイナだと思っていました。しかしそれは違った……。元使用人だった女が、自分の娘と取り換えたことがわかりました」


 呆然とするしかない。

 あれほど、母と似ているから私の顔を見るのも嫌だと言っていたのに。


 当のマリーシアでさえその話は聞いていなかったのか、ぽかーんと口をあけている。

 広間が騒然とする中、一切動揺していない王子が命じた。


「その者は、本物の令嬢であるマリーシアを庶子だと貶めてきた悪人だ。牢へ連れて行け」


 王子が指さしたのは、会場のどこにいたらいいのかわからなくて、窓際で小さくなっていた私だ。


「そんな!」


 ずっと父に命じられた通りに働いてきたのに。牢獄生活!?

 と同時に悟った。


 ――このために、私をパーティーに出席させたんだ。


 私を悪役に仕立て上げて、お気に入りのマリーシアの方を正統な令嬢だと見せかけるために。 


 私は思わず逃げた。

 驚きと混乱のせいか、足元がふらふらとしてもつれそうになる。

 そんな私を、兵士達が追いかけてくる。


 なんとか廊下へ出て、角を曲がったその時――手を引いてくれた青年がいた。


 どこかの小部屋に入る。

 足音がすぐ近くを通り過ぎて行った。


 しばらくして、少し離れた場所で騒いでいる声が窓を通してかすかに聞こえる。

 助かった?

 ちょっと安心して、ようやく私は助けてくれた人を見る。


「あの……」


 さらりとした銀の髪。

 一瞬、私を振り返った時に向けられた紫の瞳。

 絵画の騎士のように綺麗な容姿の人だ。年齢はたぶん、私の三歳か四歳上ぐらい。


「急にすまなかった」


「いえ、助けていただきありがとうございます。その、お名前をうかがっても?」


「ルディアス。……ルディアス・レーンだ」


「聖騎士の?」


 私が尋ねると、彼がうなずく。

 聖騎士の称号も爵位も持つ人、ルディアス・レーン伯爵。

 私ですら、名前を知っている有名人だ。


「どうして助けてくださったんですか?」


「あまりにも一方的な状況だったから……。見過ごせなくなった」


 ルディアス様の返答は、ものすごくふわっとしていた。

 でも、こんなことをするほどの理由には思えない。


「私を助けたら、ルディアス様まで何かしら罰を受けます。なのに、見過ごせないだけでそんなことをなさったんですか?」


 私に聞かれて、ルディアス様は少し迷ったように下を向く。

 そうすると、なんだか私がいじめてるみたいだ。


「その……。実は、以前からあなたのことを知っていたんだ、レイナ・フィディアス伯爵令嬢。お母上のご実家が、精霊使いの支援をしていらしたから」


「母の家とご関係が?」


「ああ。そういうことだ」


 まさか噂の聖騎士が、母の実家と関係性があるなんて初耳だった。母も神殿とつながりがあるなんて話はしていなかったし……。


「だからって、聖騎士様がその称号に泥を塗るようなことを……」


 今からでも「思い直して」と言おうと思ったら、どこからか声を聞きつけられた。


「こっちから声が聞こえる!」


 とたんに、ルディアス様は私の腕を引いた。

 そして窓から抜け出し、暗い庭をどこかへ走る。


 だけど足音のせいなのか、私達の居場所がわかったようだ。

 向かおうとしている方向からも、人の声が聞こえる。


(無理だ)


 逃げ切れない。

 もし逃げ切れたとしても、どうにかして父は私を殺そうとするだろう。


 それにこのままじゃ、私を庇ったルディアス様も……。


 助けてくれた人まで、死なせてしまうかもしれない。

 行き先の見えない不安。

 他人ませ死なせてしまうかもしれないっていう罪の意識から、私の心は、あっという間にあきらめの気持ちに染まった。


 ――ふいに、強い風がふいた。


 横を向けばここが高い場所だとわかる。

 遠く、下の方にぽつぽつと人家の明かりがある。それ以外は真っ暗だ。


 高台に建つ王宮の片側は崖になっていて、下には川が流れていると聞いた。

 耳を澄ませば、川の流れる音がわずかに聞こえる。


 ……私は深呼吸した。

 それからルディアス様に言う。


「聖騎士様、ありがとうございました」


 味方をしてくれた優しい人。

 彼が傷つかないよう、これが私の選択したことだとわかるよう微笑んでみせて……私は崖へ走った。


「レイナ! 待ってくれ! ここさえ通り抜けられれば――」


 私の名を呼ぶルディアス様の声がする。

 振り切るように私は庭を囲む低い塀を蹴って、まっすぐに川に落ちていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ