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しがない悪役令嬢ですが死に戻らせて頂きます~精霊使いが家出したとたんに聖騎士と義妹が保護しようとしてきます  作者: 奏多


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1:なんだか義妹の様子がおかしいんですが?

 伯爵家の邸宅のエントランス。

 扉からほど近い場所に私は立っていた。

 一緒に並んでいるのはメイド達。


 フィディアス伯爵家の令嬢レイナである私がメイドと同じ場所に立っていても、誰も何も言わない。

 私が父伯爵に嫌われていて、使用人のように扱われているせいだ。

 むしろメイドと一緒に並ぶのが当然だと思われてる。


 でも私は、今日限りでこの家から出て行くつもり。

 だけどこっそり脱出するには、義妹がやってくるこのイベントの後にしなくてはならない。


(一応、また父に叩かれなくちゃいけないのかしら)


 今後起こることを想像して、私はそっとため息をついてしまう。

 実は私、処刑されそうになって崖から飛び降りたと思ったら、二年も時間を戻っていたのだ。

 だから家出しようと思ったし、この後の出来事を知っている。


(たしか……父が義妹のマリーシアは実子だと紹介したのよね。で、私と同じ16歳だと聞いてショックを受けたのよ。それって父が母の妊娠時から浮気をしていたってことだから。びっくりして挨拶もできずにいたら、態度が悪いからと、父に張り飛ばされたのよね)


 嫌だなぁと考えていたら『伯爵様のお帰りです』という従者の声がして、両開きの扉が開かれた。


 明るい外の光を浴びて、二人の人物が館の中へ入ってくる。

 父フィディアス伯爵と異母妹のマリーシアだ。

 くるくるとしたストロベリーブロンドのゆるい巻き毛のマリーシアは、明るい太陽のような雰囲気を持っている。


 父フィディアス伯爵はエントランスに入ってすぐに私の姿を探し、使用人の列の端にいるのを見つけた。

 伯爵令嬢が端にいることには何も言わず、淡々と言い渡してくる。


「レイナ。彼女はお前の異母妹マリーシアだ。年齢はお前と同じ16だったか。配慮してやるように」


 とんでもない紹介の仕方だ。

 仲良くするように、ではなく私の方が一方的にマリーシアのために行動しろと言っているわけで。


 しみじみと呆れた私は、つい黙り込んでしまった。

 前回の人生で私、どうしてこんなひどいことを耐えてしまったんだろうと思って。

 すると父フィディアス伯爵が怒りだす。


「お前は挨拶もできんのか!」


 私に手を振り上げる。


(あ、やっぱりこうなるんだ)


 既定路線ではあるけど、叩かれるのは嫌だ。

 でも避けたら前回と違う出来事が起きちゃうかもしれないし……と、ぎゅっと目を閉じて耐えようとした時だった。


「お、お姉様ですかぁあああ! お慕いしておりますぅうう!」


 マリーシアが叫びながら突進してくる。

 一瞬逃げそうになって、その場にとどまっていたらマリーシアにがっちり拘束された。


「うぁああああん。会いたかったのです、お姉様ぁあああ」


 涙ながらにそう訴えるマリーシアの姿に、さしもの父も目を丸くして動きを止めた。

 メイド達もぽかーんとしている。


 私も何がなんだかよくわからない。

 時間を遡る前のマリーシアは、おどおどしながらも大人しく挨拶をしていた。

 私が父に叩かれても、ぼーっと見ているだけだったんだけど。


(これ、どうしたらいいの?)


 よくよく考えてみれば、マリーシアが原因で私は死のうとしたのだ。

 あんまり嬉しい再会じゃないし、今も何か企んでいないかと警戒心は消えない。


(ただ……マリーシアは私に直接的な危害は加えていなかった)


 可哀想な立場の異母姉にも、このケーキを恵んであげましょうと行動し、「わたしって、良い人!」と満足げに微笑むような子。

 それがマリーシアだ。


 ただし、私がメイドに叩かれても、水をかけられても、見て見ぬふりをした。

 父に倉庫に閉じ込められても、出してくれなかった。「我慢していればそんなことにならなかったのに」と言うだけ。


 マリーシアは自分の立場を守ることが優先なのだと、そうなってからようやく私は気づいたのだけど。

 これってマリーシアは自覚がないだろうけど、ゆるやかに加害に加担してただけよね?


 でも時間を遡った今のマリーシアとは、会ったばかりなのだ。

 マリーシアは周囲にとっても『私に危害を加えていない子』でしかない。

 そっけなくしにくい……。

 考えた末、私は見知らぬ人への対応をしておくことにした。


「ええと、どうしたの? まず涙をふいて……」


 私は戸惑っている風を装ってハンカチを渡してみた。

 かつて見かけた猛獣に、お肉を差し出すような気分で。

 マリーシアはそんな私を見上げ、愛想笑いまで浮かべる。


「ああ、お優しいお姉様。お気遣いありがとうございますわ!」


 とりあえず号泣が収まり、マリーシアはハンカチを受け取って涙をふき、ちーんと鼻をかむ。


「汚れてしまったので、代わりにお姉様にはこちらをお返しいたします」


 マリーシアが渡してきたのは、綺麗なレースの縁取りがされたハンカチだ。

 服も、あつらえたばかりのような、ピンクにふりふりとレースがほどこされたドレスだったので、一緒にそろえたのかもしれない。

 本来なら自分との待遇の差に胸が痛むような状況なんだけど……、さっきの鼻かみが強烈に印象に残ってそれどころじゃなかった。


 マリーシアって、目の前で派手に鼻をかむ子だったかしら?

 

「あ、ありがとう……?」


 そんなやり取りをしていると、あっけにとられていた父も我に返ったようだ。


「マリーシア、そんなことをする必要はない」


 私から、マリーシアのハンカチを取り上げようとした。

 しかしそれを阻止するため、私の前に立ちはだかったのはマリーシアだ。


「いけませんわお父様! お母さんがキャベツをもらったらちゃんと同等のキャベツで返しなさいって言ってました! 野菜売りの娘でしたもの!」


 マリーシアの叫ぶような声に、父が固まる。


「キャ、キャベ……?」


(父のこんな様子、初めて見たわ)


 たぶん、貴族令嬢にしようと思って連れて来たのに、しょっぱなからメイドや使用人の前で『母は野菜売り』と大発表したからだろう。

 我に返った父が、マリーシアを叱った。


「キャベツなど忘れなさい! お前はこれから伯爵令嬢になるんだ!」


「嫌ですわ、私は商人マインドを忘れませんわーー!!」


 マリーシアの抗議に、私は目を丸くするしかない。


「くっ、親子で急に雲隠れしたと思えば、野菜売りを始めるだけでも腹が立つのに……。なぜこんなことに!」


(え? 前は父のお金で別荘で囲われて暮らしてたはずなのに? てかなんで野菜売り?)


 私はさらに混乱した。


(マリーシア……どうしてこんな、なんか突き抜けた感のある子になっちゃったのかしら?)


 以前のキラキラした物大好きで、豪華な物に目がないマリーシアは、幻だったかのようだ。

 この混乱の中、私まで呆然としてしまう。

 マリーシアが部屋へ案内される間に、疲れたような顔をした父フィディアス伯爵が私に命じた。


「お前はさっさと倉庫へ帰れ!」


「承知しました」


 父に追い払われた私は、ひとまず自分の住処になっている倉庫へ向かった。

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