第一話 『あの日のショー』
前回の作品の精神的続編です。今回はメタでないと思います
あの日見たショーのことを、私はきっと生涯忘れない。
私の人生に、
強く影響を与えた日だった。
◇
「愛衣、迷子になっちゃだめだよ?」
「わかってるー!」
人混みの中で、
私はお母さんの手を引っ張っていた。
ショッピングモール。
休日のイベント会場。
その日はたまたま、
買い物帰りに立ち寄っただけだった。
最初は、
別に興味なんてなかった。
ステージで、
何かショーをやっている。
それくらい。
でも。
「こんばんはー、心理誘導ショーへようこそ」
その声を聞いた瞬間。
私は足を止めた。
◇
ステージの上には、
黒髪のお姉さんが立っていた。
綺麗な人だった。
でも、
怖い感じじゃない。
なんだか、
すごく楽しそうに笑う人だった。
「今日は、“人ってどれだけ思い込みに引っ張られるか”をやっていきます」
会場が少しざわつく。
お姉さんは、
客席を見渡しながら続けた。
「難しい話じゃないよ」
「みんなも普段からやってることです」
そのあと。
最前列にいた男の人が、
巻き込まれた。
「また来てる」
「うるさい!」
会場、
笑い。
でも。
そのやり取りが、
なんだかすごく自然だった。
男の人は、
負けたくないみたいに言い返す。
でも、
お姉さんは全部見抜いてしまう。
なのに。
嫌な感じがしない。
むしろ。
二人とも、
すごく楽しそうだった。
◇
「じゃあ直感で選んで」
カード。
言葉。
連想。
誘導。
最初は、
ただの会話に見えた。
でも。
少しずつ。
男の人の反応が変わっていく。
「えっ、
なんでわかるの!?」
「顔に出てるから」
「ずるい!」
また会場が笑う。
でも。
私は、
笑うのを忘れて見ていた。
なんで?
どうして?
なんであのお姉さん、
わかるの?
人の心って、
そんな風に動くの?
その全部が、
不思議だった。
◇
そして。
ショーの最後。
お姉さんが、
こう言った。
「心理学って、
“人を操る”ためだけのものじゃないです」
「“人って面白い”を知るものだと、
私は思ってます」
その言葉が。
小さかった私の胸へ、
妙に残った。
◇
帰り道。
私はずっと、
ショーの話をしていた。
「ねえお母さん!」
「なんであの人、
考えてることわかったの!?」
「うーん、
心理学とかかなあ」
「しんりがく……!」
初めて聞く言葉だった。
でも。
なんだか、
すごくわくわくした。
◇
それから何年経っても。
私は時々、
あの日を思い出す。
黒髪のお姉さん。
負けず嫌いな男の人。
不思議な会話。
楽しそうな空気。
あの二人は、
今もどこかで、
あんなやり取りをしているんだろうか。
そんなことを考えながら。
私は今日も、
学校で人を観察している。
「……で」
机へ頬杖をつきながら、
私は目の前の男の子を見る。
「悠真くんってさ」
「なんで“宿題やった”って言う時だけ、
目そらすの?」
「えっ」
ぴたりと動きが止まる。
私は思わず、
にやっと笑った。
やっぱり。
人の心って、
とっても面白い。




