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灰色の世界で少女は色を灯す  作者: ハイバール ・レ
12/12

Ep.12「存在しない形」

一人のお婆さんが少女と少年に声を掛ける。

「お〜い、そこの子たち。こっちにおいで」

「?」

「?」

二人は言われるがまま、お婆さんもとへ駆けていく。

「あの大男に、なにか酷いことされなかったかい?」

少女が不思議そうに返事する。

「ううん」

「おじちゃんとっても強くて優しいよ!」

「そうだ 、おっさんは強い」

それを聞いたお婆さんは、ほっと息をつき、柔らかな笑み浮かべた。

「そう.......あの子のように、温かい人になったんだね」


その表情には、どこか寂しさが滲んでいた。


「お嬢ちゃん、あの子にそっくりだねぇ」

「まるで......あの子とハイルの子みたい」

「ふふ」

お婆さんは遠い記憶に身を委ねるように目を細めていた。

「おばあちゃん、わたち、おやいない」

その瞬間、お婆さんの顔が凍りつく。

「あわわ、ごめんね辛い思い出させちゃったね」

「ううん、だいじょうぶ。おじさんがいるから」

「強い戦士に守られるなんて、光栄だね」

少年が一歩前に出て言った。

「お婆さん、俺もおっさんみたいに....お父さんみたいに、立派な戦士になる」


お婆さんは少年の瞳をじっと見つめる。

曇りのない、まっすぐな瞳だった。

「きっとなれるわよ。戦士にとっての傷は強さの証だから」

お婆さんが少年の肌を見つめる。

「これ火傷じゃない生まれつきの色!」

「ふふふ、そうだったわねぇ」


場面が切り替わる。

(こけ)に覆われた一軒の家。

木造の壁は、触れずとも湿リ気を帯びているのが分かった。

周囲は一面の緑に包まれ、他の家々から少し離れて建っていた。


村長が口を開く

「ハイル...」

「よくぞ帰ってきてくれた」

村長はハイルを抱きしめ、目には涙を流していた。

「...」

「娘も、きっと喜んでる」

淡い光に照らされ、二つの墓が静かに並んでいた。


ハイルはどこからか白く清らかな花を取り出し、そっと墓前に供える。


「...」


「立ち話でもなんだ。久々だ。一杯付き合ってもらうぞ」


カチャ。


室内には、動物の彫刻が几帳面に並べられていた。


「ハイル、座ってくれ」


重苦しい息を吐く。

「戦士にとって傷は何よりの強さの証であり誇りでもある」

「だがお前には傷跡がひとつも無い」


村長がハイルの瞳を見つめた。

「いや、無いんじゃない。見えないんだ」

「お前は、誰にも見えない傷を負っていた」

「あの時はそうだった...」


村長が静かにジョッキ一杯の酒を飲み干し、震える声で言った。


「もう...」

「傷を負うことさえ、できなくなってしなったんだな」


村長の瞳には、人の心の形が映る。

今のハイルには、その形すら見えなかった。


「ハイル...すまない」


村長は...顔を覆い、涙をこぼした。


ハイルは何も言わなかった。

だが、耳元で(ささや)く声があった。


「....飲んで」


ハイルは立ち上がり、酒の入った(たる)を持ち上げると、一気に飲み干した。


その姿に、村長は腹を抱えて笑い出す。

「ガハハハハハ!」

「流石俺が見込んだ男だ」

「それでこそ真の男だ!」

村長も樽を掲げ滝のように酒を流し込む。

「わばば!じじいも負けておらんぞ!!」



その夜、村長は酔いつぶれて眠ってしまった。

「ハイル...あの子を守れよ」


自分の亡き娘のことか、あるいは少女のことかは、どっちでも良かった。


ハイルは家を去った後、誰にも気付かれずに静かに村を抜け、

一人、暗い森の奥へと姿を消した。


つづく













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