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弱虫運び屋の右腕は殺人オートマタ  作者: 久芳 流
第4章 街の脅威に運び屋を

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第36話 困惑の作戦本部

「……失礼しまーす……」


 討伐隊野営地の作戦本部は簡単に見つけることができた。

 野営地の中心にあって一番大きいテント。

 討伐隊の方が銃を構え警備をしていて色んな人が出入りしているから、すぐにわかった。


 警備の人達は討伐隊エルガス支部に行った時に門番をしていた新入りさん達。

 もう僕の顔は覚えてくれたのか、軽く会釈をすると簡単に作戦本部に入れてくれた。


「なんだって!?」


 そんな時に飛び込んできたのが、シルヴィアさんのこの叫びだった。

 シルヴィアさんは通信機の受話器を握りしめ、険しい表情をしていた。


「ふざけるのもたいがいにしろ!」


 いつも冷静なシルヴィアさんがこんなに声を荒げているのは初めて見た。


 その珍しい雰囲気からか、作戦本部にいた討伐隊の人達は僕が入ったことすら気が付いていない様子。

 当然、僕も驚いている。

 シルヴィアさんをこんなにも怒らせるなんて、いったい誰だろう――。


「ふざけるってそんな。僕は大まじめですよ」


「あぁ~……」


 通信機から聞こえる声が誰かわかった瞬間、全てを悟って声が漏れてしまった。


『声紋認証開始。個体名サムエル・フェデックと特定しました』


 ライトがこっそりと教えてくれたけど、わかっているよ。

 僕をクビにした元弊社の社長が通話相手だった。


「今すぐに止めさせろ!」


 シルヴィアさんは怒気を混ぜてサムエルさんに向かってそう叫ぶ。


「昨夜にはもう出発してしまいましたからね。不可能ですよ」


「……ならば、フェデックにはまだ人間の運び屋がいるだろ? そいつらに引き継げ!」


「残念ながら彼らは()()()人達でね。

 ここ数ヶ月、エルガス以外で超重要な運び屋業をしているんですよ」


「つまりフェデック本社には今、貴様と鉄くずしかいないわけだな?」


「鉄くずってそんなひどいことを。()()()も有能ですよ。

 配達はもちろん戦闘もできます。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()


「――ギリッ!」

 

 そんな説明が聞こえると、シルヴィアさんは僕の方まで聞こえるほどの歯軋りをすると、


「貴様のデモンストレーションに討伐隊を巻き込むな!」


 受話器を通信機の本体に叩きつけた。

 作戦本部は静まり返っていた。

 誰も一言も発していない。

 シルヴィアさんの剣幕に誰もが言葉を失っていたのだ。


「……すまない……取り乱したな……」


 シルヴィアさんはそう言いため息を吐くと、周りを見渡す。

 そして、すぐに「レオか……」と僕に気が付くと、他の討伐隊の方たちも我に返ったかのように僕の方を振り向いた。


「お……お疲れ様です」


 注目されるのは苦手だ。

 突然のことに僕は冷や汗をかきつつ会釈する。


「……フェデック社のオートマタがこちらに向かっている」


 シルヴィアさんは僕の方を見ながら、そう口を開いた。

 たぶん作戦本部にいたある程度事情がわかっている討伐隊に整理・説明しつつ、僕にも事情を知らせているのだろう。


「災害級の機械獣討伐の件を知られたみたいでな。我々の備蓄をここに配達するそうだ。

 しかもあの忌まわしいオートマタを使ってな」


 まったくどこから聞きつけたのか、とシルヴィアさんはため息を吐く。


「我々からフェデックに配送を依頼したわけではない。

 恐らく警備が手薄なエルガスの備蓄庫から勝手に持ち出したのだろう……いや、備蓄を運んでいる我々の仲間から奪ったのかもしれない」


 シルヴィアさんは昨日、備蓄の追加を頼んでいたはずだ。

 僕とシルヴィアさんに遅れて討伐隊の備蓄運搬組も昨日のうちに出発していたはず。

 サムエルさんのオートマタはどうやってか、備蓄運搬組から奪い取ったのだろう。


「詳細は不明だが、サムエルの狙いはわかる。

 討伐隊の代わりという名目で災害級の機械獣とオートマタを戦わせる気だ」


「――!!」


 その発言を聞いた瞬間、作戦本部にいる討伐隊たちから緊張が走る。


「万が一、オートマタを使って災害級を討伐できれば恰好の宣伝だ。

 そうでなくともオートマタのテストとしては充分なデータが取れるだろう。

 だが、それは同時に私達の作戦に支障をきたすということだ!」


 確かに。

 恐らく討伐隊は今日の日までに綿密に打ち合わせをしシミュレーションを繰り返して、災害級の機械獣を倒す算段を整えていたはずだ。

 討伐隊の連携や作戦にもはや入り込む余地はない。

 頼んでもいない部外者がひとたびそこに来れば、それは邪魔でしかない。

 むしろ作戦の失敗だって考えられる。


「フェデック製のオートマタがどのくらいスピードかはわからないが、ここに来るまで残り2日と仮定する。

 それまでにMEランサーを完成させ、災害級の機械獣を倒すぞ!」


「「おぉ!!」」


 シルヴィアさんの掛け声に作戦本部にいた討伐隊たちは威勢よく敬礼した。

 シルヴィアさんが来てから討伐隊の士気は高くなった。

 あとはMEランサーとやらの兵器を災害級にぶち込み、残りの周辺にいる殺戮級以下の機械獣を駆除すれば終わりだ。


 災害級の機械獣が動き出すまで1~2週間。

 フェデック製のオートマタが来るまであと2日。

 MEランサーもある程度完成しているだろうし、時間は充分にあるはずだ。


 ――かと思ったが。


「し、支部長!!」


 突然、作戦本部の入り口からそう叫んで男の人が入ってきた。

 作戦本部の警備をしていた新入りさんのうちのひとりだ。

 焦った表情を見せていて、身体がガクガクと震えている。


「どうした?」


「と、鳥が……! 鳥型の機械獣が大量に飛んできています!」


「なんだと!?」


 その話を聞き、シルヴィアさんを筆頭に作戦本部にいた討伐隊たちはテントの外に出た。

 僕も遅れてテントの外に出る。

 すると――。


「……な、なんなんだ……?」


 さっきライトと一緒に見た鴎型の機械獣。

 それが2体どころか30体ほどケーテン砂漠に向かって飛んでいた。

 討伐隊の野営地には見向きもしない。

 ただひたすらまっすぐに砂嵐に突入していた。


「――ッ! シルヴィア支部長!」


 そんな様子に唖然としていると、テントからまたそう叫ぶ声が聞こえた。

 作戦本部で砂嵐内部の様子を赤外線カメラ(サーモグラフィー)でモニタリングしている討伐隊からの声だった。


「今度はなんだ!?」


「災害級の機械獣が冷やされています……っ!」


「なんだって!?」


 すぐにシルヴィアさんはテントに戻りモニターを確認する。

 そこには鴎型の機械獣と思わしき熱源から青色に染まった何かを災害級の機械獣に向かって散布している様子が映っていた。

 災害級の機械獣を映した色は超高温を示す色から徐々に淡くなっていく。


「いったいどういうことなんだ……?」


『おそらく鴎型の機械獣から冷却された水が散布されているのでしょう』


 僕の呟きにライトが反応する。

 その声はシルヴィアさんにも聞こえていたようで、僕の方をばっと振り向いた。


『エルガスには巨大な川が流れています。つまりその周辺には水源があります』


「つまり災害級の機械獣を冷やすため、鴎型の機械獣は水源から水を……」


『その可能性が最も高いです。そして、その結果、災害級の機械獣の熱は次第に稼働許容温度にまで下がるでしょう』


 ――ビーッ! ビーッ! ビーッ!


 警告音が突然鳴り響く。

 災害級の機械獣を映す作戦本部のモニターからだった。


「災害級の機械獣に反応あり!

 機械獣の動きが徐々に活発化されていっています!」


 モニターを見ていた討伐隊の叫びだ。

 そして、その直後――。


「――――!!」


 重く低い慟哭がケーテン砂漠周辺に響き渡り、災害級の機械獣は再起動した。

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