2 まるでお見合い
次の日曜日。
俺は下積先生の住むアパートの最寄り駅の『益子駅』にやって来た。
今日は野球部の練習が午前中だけやったので、
昼にここで下積先生と待ち合わせをする事にしていた。
その目的はもちろん、下積先生の片思いのサポートをする為や。
我ながら面倒な約束をしてしもうたと思うけど、
あれだけ自信満々に言った手前、やっぱりやめますなんて言われへん。
もしそんな事を言うたら、下積先生は二度と野球部に来なくなりそうやし。
そんな訳で現在午後一時ちょうど。
もうそろそろ下積先生が来る頃なんやけど、と辺りをキョロキョロ見回していると、
「やあ、お待たせ」
と、爽やかな笑みを浮かべながら下積先生が現れた。
「あ、どうもこんにちは」
と言って挨拶を返す俺。
そして下積先生の今日の格好を見てギョッとした。
Tシャツの上にパーカーを着て下はジーパンの俺に対し、
下積先生は白いカッターシャツに上下紺のスーツ。
黒の皮靴を履き、首元にはグレイのネクタイをビシッとしめている。
そしていつもかけているメガネのレンズは、
普段より五割増しでピカピカに輝き、ヘアースタイルも、
センター分けにした髪を、
社交ダンスの人みたいにツヤのあるスタイリング剤でピッチリ固めていた。
そんな下積先生を見て、俺は目を丸くして言った。
「あの、今からお見合いにでも行くんですか?」
それに対して下積先生は、中指でメガネを直しながらこう返す。
「違うよ。今日はあの人と会うかもしれないのに、
だらしない格好できないだろう?」
「そ、そうですか。でも今日いきなりあの人とデートするって訳やないんで、
もっと肩の力を抜いてええと思いますよ?」
「そ、そう?何だか彼女の事を考えるだけで、どうも落ち着かなくて」
確かに今の下積先生は身なりはビシッとしてるけど、
視線はあちこちに泳いで落ち着かない。
まだ彼女に会えるかもわからんのに、今からこんな調子で大丈夫なんか?
俺の心の中は、ますます不安が募るのやった。




