3 だって照れるじゃん!
とりあえず俺と下積先生は駅前の喫茶店に入り、そこで打ち合わせをする事にした。
店の一番奥のテーブルに腰掛け、アイスコーヒーをふたつ頼み、
俺は早速下積先生に切りだした。
「で、下積先生は、彼女の事についてどれくらい知ってるんですか?」
すると下積先生は腕組みをしてしばらく考え込み、
にわかに頬を赤らめながらこう言った。
「彼女は女神の様に美しくて、天使のように優しい人なんだ・・・・・・」
「他には?」
「彼女の魅力を語るのに、それ以上の言葉は必要ない!」
「あ、いや、そういう事やなくてですね、もっと具体的な情報は知らないんですか?」
「彼女は『人間』で、『女性』だ」
「それは俺も知ってますよ!そうやなくて、例えば彼女の名前とか!」
「名前は、知らない・・・・・・」
「何をしてる人かとか!」
「何をしてる人かも、わからない・・・・・・」
「どの辺に住んでるかとか!」
「彼女、何処に住んでるんだろう?」
「何にも知らないんですね・・・・・・」
「うん・・・・・・」
「じゃあ彼女の手掛かりは、先生が持ってる盗撮写真だけなんですね」
「盗撮だなんて人聞きの悪い事を言わないでくれよ!
あれは道端の電柱を撮影しようとしたら、たまたま彼女が写っただけなんだ!」
「どんだけ苦しい言い訳してるんすか⁉」
等と言い合っていると店のウエイトレスさんがやって来て、
「お待たせしました、アイスコーヒーです」
と言って俺達の前に二人分のアイスコーヒーを置き、
「あの、店内ではもう少し静かにお願いします」
と不機嫌そうに言い残して去って行った。その後ろ姿に俺と下積先生は同時に、
「すみません・・・・・・」
とお詫びをし、出されたアイスコーヒーを一口飲んだ。
そしてひとつ息をつき、俺は下積先生に言った。
「とりあえず、これを飲んだらこの前先生が彼女に会った場所に行ってみましょう」
「え?それって、近所のバッティングセンターの事?」
「そうです。彼女に関する情報がほとんどないんですから、
とりあえずそこに行くしかないでしょう。
もしかしたらそこの受付の人とかが彼女の事を知ってるかもしれないし、
うまくいけば、彼女本人に会えるかも」
「ええっ⁉それはまずいよ!」
「どうしてです?本人に会うのが一番手っ取り早いじゃないですか」
「だって、照れるじゃん!」
「照れるって先生。じゃんって先生。
そんな事じゃいつまで経ってもその片思いは進展しませんよ?」
「だったら君が彼女と仲良くなればいいじゃないか!」
「いやいや!彼女と仲良くなりたいのは先生の方でしょう⁉
何でちょっと逆切れしてるの⁉」
「僕に仲良くして欲しいなら、
まずは君から仲良くなるのが筋っていうもんじゃないか!」
「『俺の名前を知りたきゃまずはお前から名乗りな』とは違うんですから!
これは先生の問題でしょ!」
「だって照れるじゃん!」
「だからそれはもうええっちゅうに!」
等と俺と下積先生が言い合っていると、
さっきのウエイトレスさんが再びやって来て、怒りに顔をひきつらせながらこう言った。
「あの、他のお客様のご迷惑になりますので・・・・・・ええ加減にせぇよ?」
それに対して俺と下積先生は、
「すみません・・・・・・」
と同時に謝って頭を垂れた。




