第95話「険悪な関係」
「あああ、ああああああああ」
「すみません。少しお話を……」
「あああああああああっ!!」
「し、失礼しましたっ!」
大慌てでその場を離れる。
私とリリーは、その後も警察敷地内を探索して周りそこで出会えた生存者に会話を試みるけれど、その人達はまともに喋る状態ではなかった。
「う、ううううっ。か、影が……影に呑まれて、うわぁああああああ!!」
……こんな感じである。皆、完全に発狂してしまっていた。
「事件の進展無し。おまけにコスモスまで見当たらない、か」
「みー」
何故、コスモスで居なくなってしまったのだろうか。
もしかして、既に花江さんを連れてホテルに戻ったのかな? だとしたら見つからないのも納得だ。
しかし、そうなると私は私で越智さんを連れて来ないといけないんだよね。現状、越智さんが私の言う通りに来てくれるとは思えないけれど。
「やっぱり、強引な手段を使って越智さんを連れていくしかないのかなぁ」
「誰を強引に連れていくって?」
「わっ!」
いつの間にか、私の背後から越智さんがやって来ていた。……凄く訝しげな目つきで私の事を見ている。
「あ、越智さん。……その」
「そこまでして私を連れ出そうなんて、やっぱり録でもない事を考えているのね」
「ち、違……」
「みー」
ああ、やめてリリー。『もう弁解不可能だろうから縛り付けにしようか?』って聞かないで。それは、本当に最後の一線だよ。
「はぁ。まあ良いわ、それよりここで何しているの?」
「あ……わ、私達もこの事件について調べようと思って」
「ふーん。で、何か分かったの?」
「いえ、特には……」
越智さんから信頼されようと思っての事件調査だったけれど、今のところまるで役に立ていない。
事件の真相も犯人も、全く分からない。不甲斐ないばかりだ。
「越智さんは、何か分かったんですか?」
「……事件の大まかな流れは調べられたわ」
「ほ、本当ですか?」
「まあ貴女には教えないけど」
そう言うと越智さんは、私の後ろ側から正面へと移動する。
何だろう、と疑問に思っていたら越智さんは私の瞳を徐に覗き始めた。
「ところで貴女、私の質問に答えなさい」
「は、はい」
「貴女の仲間に、茶髪でツインテールのゴスロリ服を着た女の子って居る?」
「あ、コスモスの事ですか?」
「その子に関する情報を教えなさい。今すぐ」
越智さんは、強引に詰め寄ってきた。
……何故、このタイミングでコスモスの事を聞きたいんだろう? 理由が分からない。
「コスモスがどうかしたんですか?」
「質問しているのはこっちよ。いいから答えなさい」
「みー!」
リリーは、越智さんの態度に対して反感を買ったのか彼女に近づき出した。
すると、越智さんはリリーに向かって口を開く。
「『止まって』」
越智さんの制止を促す言葉。
先程、暴走する人々にしたようにその声でリリーの事も動けなくするつもりだったのだろう。
しかし、その効力はリリーには通じなかったらしい。
リリーは、指先から蜘蛛糸を放つとそれを越智さんの右腕に絡めた。力強く肌に食い込む蜘蛛糸は、鈍い痛みをじわじわと与えていく。
「くっ!」
「だ、ダメだよリリー! 手を出しちゃあ……」
「みーみー!」
余程腹を立てているのか、リリーは私の制止を無視して越智さんを睨みつけている。
おそらく、リリーが本気を出せば越智さんは一撃で死んでしまうだろう。まさかそんな事にはならないとは思うけれど、このままにはしておけない。
私は、リリーの肩にそっと手を当てる。
「私は大丈夫だから、ね? 落ち着いてリリー」
「……みー」
必死の呼び掛けが功を奏したのか、リリーは越智さんの腕に絡めた蜘蛛糸を回収してくれた。
「越智さん、怪我は無いですか?」
「……別に、なんて事ないわよ」
越智さんは、居心地悪そうにそっぽを向く。
マズい。また、間に溝を生んでしまったようだ。このままだと、どんどん関係が悪くなってしまう。
なんとか、なんとかこの嫌な流れを変えられないだろうか? 落さんと距離を縮められる何か……。
「ちっ。やっと見つけた。黙ってうろちょろすんじゃねえよ」
その時だった。
廊下の奥から、バイク乗りの青年が姿を現したのだ。彼は悪態を吐いた後、越智さんの方へと視線を向ける。
「越智。話が出来そうな奴を見つけた。こいつからも情報を聞き出すぞ」
青年がそう言うと、彼の背後から小柄な少女が前に出てきた。
「あ、貴女は……」
私は、口に手を当て驚いた。
何故ならその少女とは、私達のもう一人のターゲットである花江水千佳さんその人だったからだ。
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